病院・診療所の新築・建替・リフォームに関する事や、その他色々な事について書いていきます。
今回は、病院・診療所の建築設計に
ついての話ではなく、医業経営に関して
の事柄を書いていきます。
私は病院・クリニックなどの建築設計を
専門にしていますが、それらを設計
するには、医業経営に関しての知識を
持っている必要があります。
建築の設計だから、医業経営なんて
直接関係無い様に思えますが、
実はそんな事は無いのです。
たとえば、設計者が、特別療養環境室、
いわゆる差額ベッド、について知識が
ないまま病室を設計した場合、全く差額
ベッド代が取れない、という事もありえます。
それ以外にも、診療報酬についての
施設基準の知識が全く無いと、
リハの算定ができない。
部屋が足りないので加算が取れない等、
あれができない、これができない。
という事が出てくる可能性があります。
細かな部分まで、知っている必要は
ありませんが、ある程度の医業経営
の知識は最低でも持っている必要
はあると思います。
私は、建築に関する事だけでなく、
より多くの医業経営の知識を
積み重ねる事で、より良い病院の
建物が、設計できると考えております。
それらを勉強するため、
医業経営研鑽会という会に
所属しております。
医業経営研鑽会とは、正確な知識、
高い見識及び社会的責任感や倫理観を
持ったプロフェッショナルと呼べる医業経営
コンサルタント育成を目的とした非営利団体です。
税理士、公認会計士、行政書士、経営
コンサルタント、一級建築士等、医業に
特化したプロフェッショナル達を主メンバー
とし、医業経営に関する様々な知識や情報
を提供共有し、その知識を活かす見識を
備える為の研鑽を積む場です。
そこでは、会員の顧問先など実際の医業の
現場で現在起こっている、具体的な問題が話し
合われ、それぞれの立場から、様々な意見や
アドバイスが得られるので、他の病院・診療所にも、
すぐに役に立つ情報がたくさん集まってきます。
今後は、それらについても、「産婦人科の設計」、
「病院の建築設計」とあわせて、書いていきたいと
思います。
医療環境デザイン研究所
ナースステーション-2
新生児室
産婦人科のナースステーションの
配置の仕方について、前回は
・外部からの見舞い客等に対応
できる位置であること。
・入院患者さんが訪問し易い
位置に配置すること。
・新生児室に接している事。
の3点を挙げました。
前2つは一般の病院でも同じですが、
3点目が産婦人科特有のものです。
この「新生児室に接している事」
に注意が必要です。
新生児室は面会に来た人たちが、
赤ちゃんを見られる様に、面会
ホールや面会廊下などに接して
いなければなりません。
また、新生児室に接していなければ
ならない部屋があります。
沐浴室、調乳室、授乳室などです。
これらが、新生児室に接していて、
かつ、ナースステーションに接して
いる方が良いでしょう。
さらに、面会に来た人たちから、
新生児室内の赤ちゃんを良く
見えるようにしなければなり
ませんが、それに接する、
部屋の様子は見えないよう
にしなければなりません。
特に、授乳室等は、絶対に
見えないようにする必要が
ありますね。
このように新生児室はいろいろ
な部屋が関係してきますので、
慎重に打合せをして決めて
いく必要があります。
関係する部屋についても、
注意点がありますので、
今後書いていきます。
医療環境デザイン研究所
ナースステーション-1
病棟の中で中心的な場所で、
最も重要な場所だと思います。
ナースステーションの配置の仕方は
様々な要素が絡み合ってくるので、
大変難しく、慎重に決める必要があります。
外部からの見舞い客等に対応
できる位置であること。
病棟に来る見舞い客を把握できる
場所にある必要があります。
ナースステーションから全く見え
ない部分を通って、階段やエレ
ベーターから病室や他の病棟
部分に行けてしまう様な配置
は避けるべきです。
セキュリティー上大変重要な
部分です。セキュリティーを
高めるための、方法や対策は
他にも多く行わなければなりま
せんが、基本的な部分は、
おさえておきたいです。
入院患者さんが訪問し易い
位置に配置すること。
これは、ナースコールで呼ばれた
時などに、病室に行き易い場所
ということにもなります。
これらは当たり前の事ですが
大変重要な事です。
新生児室に接している事。
ナースステーション内で
作業を行っている場合でも、
新生児室の赤ちゃんの様子
が常に感じられる位置にする
必要があります。
ナースや職員の作業効率の面も
ありますが、赤ちゃんをちゃんと
見てくれているという、患者さんの
安心感も得られるようにする事も
重要です。
まだまだ、たくさんありますので、
次回以降、さらに書いていきます。
医療環境デザイン研究所
分娩室・手術室-6
コンセント設備等
分娩手術室には、電源を必要とする
機器や、配線が必要な様々な機器等を
設置します。
移動する時に、それらの機器のコードに
つまづく様な事の無い様にしっかり
位置を検討しなければなりません。
設置する機器は、いつ、どのような
状況で、使用するのかを、はっきり
なるべく具体的に設計者に伝える
ことが重要です。
それによって、設計者は人の動きを
考えながら、最適な位置にコンセント
やアウトレットを設置するように設計
していきます。
コードにつまづかない様に、コンセントを
床に設置したりもしましたが、床の
コンセントは、あまり評判が良くありま
せん。
位置が、絶対に変わらない場合ならば、
良いと思いますが、分娩台や、オペ台
などでも使っている過程で、位置の
調整をしたりしますので、床にコンセン
があると、逆にその部分が邪魔になっ
てしまう事もあります。
また、ナースコール等のコンセントや
分娩監視装置の電波の検討や、それら
に対応する設備の検討も設計段階で
しっかり行っておいた方が良いと思います。
また、患者さんがリラックスできるよう、
音楽を流すためのスピーカーの設置や
大型モニターを設置して、環境映像を
流したりできるよう、配線等の検討も
したいところですね。
医療環境デザイン研究所
病院・診療所の診察室には
採光をとる必要はありません
病院、診療所の設計をする場合、
法律で、病室などには採光が取れる
窓を設置しなければならない。と
決められています。
病室の場合、その部屋の面積の1/7
以上の採光上有効な窓面積が必要
です。
食堂、談話室の場合は1/10以上の
採光上有効な窓面積が必要です。
部屋に窓が有るのは当り前だと
思われるかもしれませんが。
採光上有効な窓とは、窓の前に道路
があったり、隣の建物や、隣の敷地
から十分な距離が確保されている窓
でなければなりません。
狭い敷地で、敷地いっぱいに建物を建て
てしまうと、たとえ隣の敷地の建物が
平屋だったり、隣の大きな庭に面して
いたりして、窓からは、光がさんさんと
注ぐ窓がつくれる場合であっても、採光上
有効な窓とはならず、病室としてはつくれ
なくなってしまう場合があります。
しかし、病室、食堂、談話室以外の
診察室や、待合室などの部屋には、
法律上での採光を確保する必要は
ありません。
決して待合に窓が必要無い
と言っているのでは無く、法律
上の窓を設置する必要が無い
ということです。
ですので、隣地までの距離や、
隣の建物までの距離を気にせず、
部屋の位置やレイアウトを決める
ことができます。
狭い敷地の場合
はとても重要な事です。
昔の法律では、診察室・待合等にも
採光が必要でしたし、談話室には
採光窓は必要なので、今でも待合
などには採光窓は必要だと思ってい
る設計者も居ますので、確認して
みてください。
前に、確認申請時に役所の人から、
必要だと言われた事もありましたので
注意してみてください。
医療環境デザイン研究所
分娩室・手術室-5
無影灯について
手術台や分娩台上部に設け
る無影灯の設置については
注意が必要です。
無影灯は上下左右に移動させ
て利用しますので、しっかりと
固定されていなければなりま
せん。
無影灯の器具の根元の部分
を固定する為、天井裏のコン
クリート部分に鉄骨の下地を
設置しなければなりません。
これを設置するには、建物が
建つ前のコンクリートを打設
する前の鉄筋を組んだ状態で、
前もって金物を埋込んでおく
とより、安全性が高まります。
これらを行うには、設計段階で、
しっかりと打合せを行い、手術台
や分娩台の位置も決めておかな
ければなりません。
前もって埋込まなくても設置
できる方法はありますが、
患者さんの真上に設置する
ものですので、できるだけ
安全に設置したいものです。

直接関係が無い話ですが以前に、
中央高速道路の天井板の崩落
事故がありましたが、あの設置
方法は、天井裏のコンクリートに
後から、金物を打込む方法で
天井板を固定する方法だった
ようです。
医療環境デザイン研究所
分娩室・手術室-4
分娩室・手術室の清浄度について
手術室や分娩室は清潔区域として他の
区域とは区別をしなければなりません。
手術室の清浄度の考え方は、昔と今では
変化してきていると思いますが、指針に
基づいて、しっかりと打合せをして決めて
いく必要があります。
この清浄度によって、手術室の
つくり方やコストは大きく変わってきます。
手術の内容によって、必要な清浄
度が異なりますので、行おうとする、
オペ内容をしっかり想定して決定し
なければなりません。
一般的な産婦人科の手術であれば
一番高い清浄度は必要ありません。
人工関節の手術等をする整形外科の
手術室が、最も高い清浄度を要求する
手術室で、クリーンルームと呼ばれて
います。
手術室というと、全てクリーンルーム
にしなければならない、と思っている
設計者がいたりしますので、しっかり
確認する必要があります。
分娩室は、単独の場合は手術室よりも
低い清浄度で良いと思いますが、
分娩室との可動間仕切壁で仕切る
場合は、分娩室も手術室の清浄度
とします。
分娩室も清浄度を上げてしまうと、
コストが高くなってしまうのでは
思われるかもしれませんが、
兼用にするメリットと、設備計画を
適切に検討すれば、コストはあまり
変わらなくなると思います。、
清浄度を高めるためには、フィルター
を使用し、空気を浄化します。
このフィルターの種類によって、
清浄度が変わります。
機器は様々ありますが、パッケージ化
されたユニットもありますので、それを
利用しても良いと思います。
また、手術室内の気圧を陽圧に
保ち、手術室以外の部屋からの空気が
中に入ってこないようにします。
簡単に書きましたが、実際はしっかりと
計算をし、それに基づき設計をしなけれ
ばなりませんので、しっかり検討を
してください。
お産をメインとしている産婦人科の場合は
手術室の清浄度についてはあまり、神経質
にならなくとも良いと思いますが、利用し始
めてからの、清掃や消毒等のメンテナンスを
しっかり行い、常に清潔を保つことが、とても
大切だと思います。また、それらが行い易い
手術室・分娩室の設計を行うことが、とても
重要です。
医療環境デザイン研究所
分娩室・手術室-3
分娩室・手術室の内装・設備について
分娩室は手術室とは、清浄度等の
考え方が異なりますが、前述のように
分娩室と手術室を可動間仕切壁で
仕切る形をとることもありますので、
ここでは、分娩室も手術室と同じと
して一緒に書いていきたいと思います。
産婦人科ですので、一般の病院の手術室の
様な、無機質な冷たい感じの内装は避けたい
ですね。
しかしながら、「やさしく暖かい感じが良い」
といって、本物の木をそのまま壁に貼ってしまう
というのは問題です。(当然ですが)
医療法では、
「手術室は、なるべく準備室を
附設しじんあいの入らないようにし、
その内壁全部を不浸透質のもので覆い、
・・・・・・・・・・・」
とあります。
これは、手術室は、ほこりやチリなどが
入らない様にし、壁は血液等がしみ込
まない様な素材で覆い、掃除ができる
ようにするいうことです。
分娩室も基本的には同じ性能が
要求されますね。
昔はタイルを壁に貼るというのが、
ほとんどの手術室で行われていた
と思います。
さすがに、今の手術室で、タイル貼り
というのはありませんが・・・。
では、どのような素材があるか。
一般的な手術室は、セメント板に
化粧を施した製品を使っています。
これらは、耐水性はもちろん、抗菌
性や、対薬品性などに優れたもの
などもあり、大変優秀な材料です。
一般的な手術室を思い浮かべると、
薄い緑色や青色の壁と、床のイメージ
だと思います。
手術衣もこのパターンが多いですね。
産婦人科ですし、分娩室としても
つかいますので、、このイメージでは
なく、もう少し柔らかい感じが良いですね。
私の場合は、同じ素材で、表面が
木目の物をよく使います。
普通に見ると、本物の木のように見えますが、
本物では無いので、耐水性や抗菌性も優れて
いて、清掃のし易さも良いです。
一般的な手術室を見慣れている人は、
木目調の手術室を見ると違和感を
持つかもしれませんが、妊婦さんに
とっては、気持ちが和らぐと思います。
無影灯や器材などがたくさんあり、
ただでさえ、ものものしい感じになっ
ていますので、内装に少し気を使う
ことは大切です。
分娩室と手術室を仕切る可動間仕切
壁も、表面材はこの壁と同じ材料で統
一するのが良いと思います。
それ以外にも、棚等の枠をステンレスの
ままではなく、壁と同じ様な色を塗ったり
して、全体的な雰囲気を統一する等の
工夫も欲しいところです。
医療環境デザイン研究所
分娩室・手術室-2
帝王切開など、産婦人科では
必ず手術が行われます。
手術台を分娩台と兼用して
利用する場合もありますが、
やはり、分娩台は、専用を
1台確保し、もう1台を手術
兼用分娩台とする形が良い
と思います。
では、分娩室と手術室は
それぞれ別の部屋とした
方が良いか。
先生の方で、特別な希望が無い
場合、私は分娩・手術室として
1室とし、それぞれを可動間
仕切り壁で仕切れる形を提案して
います。
手術と分娩が重なった場合や、
分娩が重なった場合は、可動
間仕切壁で仕切り、それぞれの
プライバシーを確保する。
それ以外の時は、広く1室
として利用する、というスタイル
です。
1室にしたからといって、大部屋の
病室みたいに、エアコンや照明等の
設備を兼用することはできませんが、
広く利用することは可能です。
せっかく、しっかり独立した手術室
をつくっても利用していない時間が
多かったり、無理に2部屋つくるた
めに、両方とも狭くなるのは、少々
もったい無い気がします。
可動間仕切壁の種類も、様々な
種類があり、簡易的なものから、
防音性能があったりするものもあ
りますので、予定分娩数、オペ数
などを良く考慮して、検討したほうが
良いと思います。
次回は分娩室の内装について書きたい
と思います。
医療環境デザイン研究所
分娩室・手術室-1
分娩室は産婦人科にとって最も重要な
部屋の一つだと思います。
病棟の職員にとっては、この部屋のつくり
かたが、病棟の作業効率をおおきく左右
する、とても重要な部分だと思います。
そこで、私が分娩室を設計する上で最も
重視しているのは、患者さんの不安感の
払拭です。
作業効率を上げるために、患者さんの
不安感を払拭する事を重視する。という
のは少しおかしい気がすると思います。
患者さんにとっては、不安いっぱいの中、
痛み苦しみ、新たな生命の誕生が行われる
場所ですので、プライバシーや、清潔感等
とても関心が高いと思いますが、職員の
作業効率などは一見どうでも良い様な
気がします。
分娩は手術や検査のように、時間を
決めて行い、必要時間もだいたい
分かるものとは異なり、分娩の場合は
大まかな予定はできても、いつから始
まり、どの位時間がかかるかを決める
のはとても難しい事だと思います。
患者さんは陣痛がはじまり、陣痛室等
を経て、分娩室へ入ってきます。
分娩台の乗ってすぐ産まれる、
という人もたまに居ますが、
人によっては長時間分娩室に
乗っている場合もあると思います。
その場合、職員がずっと付きっきりで、
見なくてはなりません。
しかし病棟では、新生児のケアや
処置、入院患者さんの授乳サポート
ナースコール対応等様々な作業を
おこなわなくてはなりません。
夜勤などは、人員も限られており、
患者さんが落ち着いている時等は、
少し部屋を離れる場合もあると
思います。
職員が、新生児のケアをしている時に
分娩室の患者さんが、ナースコールで
呼んでも、新生児室と分娩室が遠く離
れており、分娩室にナースがくるのに
少し時間がかかってしまった。という様
な事が起こったとします。
職員が離れる場合は、状態が安定して
おり、緊急性は無い場合ですので、
大きな問題は発生しない思いますが、
患者さんの心理的な面では、とても
大きな不安を与えることになると思います。
分娩室内に職員が居なくても、いつも
見守られている、呼べばすぐ来てくれる、
という事が、患者さんの不安感を減らす
とても重要な要素だと思います。
分娩室は、陣痛室はもちろんの事、
ナースステーション、新生児室、
授乳室、沐浴室等の病棟の関係
諸室とのつながりが、とても大切
になってきます。
これらをどのようにして配置していくかを、
院長先生や診療所の考え方に沿って、
職員のそれぞれの動き方を具体的に、
検討し、十分話合い慎重に決めていく
ことがとても大切だと思います。
次回はもう少し具体的なことについて
書いていきたいと思います。
医療環境デザイン研究所