老父は家から出たがらない。
一人で家に帰ってくる自信が無いと言う。
家の中ばかりでは、足腰が弱るばかり。
なるべく一緒に散歩に行くことにした。
「散歩に行くから靴下を履いて。」
靴下は父の目の前あるのだが、分からないようだ。
目が見えなくなって来たのだろうか。
散歩しつつ、どれくらい見えてるか試してみる。
「あれ何て書いてあるか、わかる?」
道沿い家の表札や、交通標識は正しく読める。
文字が読めるほどには見えているらしい。
結構見えとるやないか。
ほなら、なんで靴下が分からへんねん?
そう言えば、靴下だけとちゃうわ。
ハサミや、メガネも、見つけられへんねん。
文字は理解できるけど、物の形が認知できへん。
そんなことがあるんやろか。
世界がどんなふうに見えてるんやろ。
不思議やなぁ・・・。
ワシが見えてる世界って、他の人と同じやろか?
だんだん自信がなくなってきたわ。