今夏香港で見て、マ・ドンソクの魅力にあらためて瞠目した作品『ファイティン!』。いよいよ明日から日本でも公開です。香港で見た時のご紹介はこちらですが、この間日本での試写で字幕付きで再見したら、香港で見た時の理解がまったく間違っていなかったことを確認。それぐらい、物語に入り込んで見ていたのですね。海外で英語字幕や英語+中国語字幕で見ると、結構理解漏れをしていることが多くて、再度日本語字幕で見た時に「あそこはこう言っていたのか!」というような発見をすることが多いのですが(『バッド・ジーニアス』もそうでした)、『ファイティン!』は二度見も素直に楽しめました。では、まずは作品のデータをどうぞ。
©2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
『ファイティン』
2018年/韓国/韓国語・英語/108分/原題:챔피언/英語題:Champion
監督:キム・ヨンワン
主演:マ・ドンソク、クォン・ユル、ハン・イェリ
配給:彩プロ
※10月20日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー
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ストーリーを、もう一度書いておきましょう。アメリカのロサンゼルスで、クラブのガードマンとして働く韓国系アメリカ人マーク(マ・ドンソク)。かつて腕相撲(アームレスリング)のチャンピオンになったこともあるマークですが、人柄は真摯で超まじめ。ところが、韓国人の調子のいい青年ジンギ(クヮン・オル)が「国に帰るには一儲けしなくちゃ」と泣きついてきて、クラブで行われる腕相撲の賭け試合に。マークは勝ったものの客とトラブルになり、クラブを首になってしまいました。ジンギは賭け金をかっさらって韓国に逃げ帰り、マークはスーパーマーケットのガードマンとして再び真面目に勤務し始めます。ところがそこへ、帰国したジンギから、「韓国で腕相撲大会に挑戦してくれ」という電話が入り、マークは30年ぶりに帰国することに。実はマークはペク・スンミンという韓国名を持ち、10歳ぐらいの時にアメリカに養子に来たのでした。生活のためとはいえ、自分を養子に出した母に複雑な感情を抱くマーク。今回の帰国は、その感情に決着を付けるためでもありました。
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帰国したマークを迎えたジンギは、羽振りがよさそうでした。ジンギは、ヤクザでショッピングモールを縄張りにしているユ社長に賭け腕相撲の話を持ち込み、マークを売り込みます。ユ社長はマークを気に入りますが、自分の命令通りにさせようとしてあやしい雲行きに。一方マークは母の消息を尋ね、昔住んでいた家に行ってみたところ、そこには小学生の兄と妹が、母親スジン(ハン・イェリ)と住んでいました。その大きな体といかつい顔から、誰にでも悪人と誤解されてしまうマークは、スジンが借金しているユ社長の手下の取り立て屋だと思われてしまいます。口べたなマークがきちんと話ができないでいるうちに、ユ社長とその手下相手にショッピングモールで大立ち回りをする事件が起きてしまい、マークとジンギは警察に連れて行かれます。二人を引き取りに来たのはスジンと子供たちで、親戚だとして、マークはスジンの家にやっかいになることに。どうもスジンは亡き母の娘らしいのですが、そこにはさらなる真実が隠されていたのでした...。
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見どころの第一は、ロスでのシーン。クソ真面目なマークの勤務ぶりが笑いを誘います。特に、スーパーのガードマンのマークは、うちの近くのヨー●堂にもこんなおっちゃんが一人ほしいなあ、と思ってしまうほど。それにしても達者な英語!と思ってしまったマ・ドンソクですが、前の記事のコメントで教えていただき、彼自身が1989年、18才の時に家族とアメリカに移住、1994年にはミュージカル俳優としてデビューしたり、その後ボディビルダーや格闘技選手のトレーナーとして仕事をしていたことが、「輝国山人の韓国映画」サイトでわかったのでした。韓国映画デビューは2004年の『風の伝説』なのですが、ほんのチョイ役だったようです。私も長い間、なぜかリュ・スンヨンとごっちゃになったりしていて、識別できるようになったのはここ数年のこと。マ・ドンソクがはっきりとメジャー俳優になったのは、『新感染 ファイナル・エキスプレス』(2016)あたりからではないかと思います。
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『ファイティン!』は、そんなマ・ドンソクの魅力を多面的に見せてくれる作品で、あらためて演技巧者であることを再認識させてくれました。最初のロスのシーンほか、子供たちとのやり取りなど見どころがたくさんあるのですが、この子供たちがまた芸達者で、兄ジュニョン役のチェ・スンフン、妹ジェニ役のオク・イェリン共に、こまっしゃくれ三歩手前の演技が好感度大。仏頂面のマークと好対照をなし、特にジェニのかわいさは将来が楽しみです。子供たちと一緒のシーンで、マークが光るシーンもいくつかあるのですが、それは映画をご覧になってのお楽しみ、ということにしておきましょう。
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とまあ見どころは多いのですが、ちょっと残念な点が2つ。一つは、腕相撲(アームレスリング)が格闘技とはいえ、すごく地味であること。派手なアクションが入る余地が全然ない、手と手の力勝負なので、映画的な見せ場が少ないのです。マ・ドンソクの筋肉が激しい勝負のリアリティを出してはくれているのですが、どんなに持っても数分で決まる勝負であり、その部分の面白さが薄いのが、アクション好きとしては残念でした。
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もう一つは、スジンの正体というかマークとの関係性が、お話を面白くするためになかなかスッキリと明かされないことです。ハン・イェリは演技の上手な女優ですが、この設定では平凡な演技に陥らざるを得ず、マ・ドンソクの演技の受け手に終始していてちょっと残念でした。でも、この人の美人女優とはひと味違う表情、とっても魅力的です。本作でも、何か素っ頓狂なことをやるのでは、とハッとするシーンが2、3度あったのですが、ぶっ飛ばなくてもったいなかったです。いつか、主演女優として目が覚めるような演技を見せてくれるのを期待しています。
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脚本・監督は、本作が長編劇映画デビューとなるキム・ヨンワン。1980年生まれとのことで、各種映像製作の経験を経てのデビューなので、演出は手堅く、マ・ドンソクの魅力をよく引き出しています。マ・ドンソク映画と言ってもいい『ファイティン!』、ぜひ大きなスクリーンであの上腕筋に圧倒されて下さい。最後に予告編を付けておきます。
映画『ファイティン!』予告編