チェンナイの映画館アビラーミは、調べてみるとアビラーミ・モールが2019年1月末で営業を停止していたので、コロナ禍前に来た2019年3月にはもう閉鎖されていたようです。2020年のコロナ禍を先読みしたような、閉鎖だったんですね。でもまだ、新しいシネコンはできていないようで、映画上映案内にはそれらしき名前は出てきません。チェンナイだけでなくどこでも今はそうですが、ショッピングモールができるとシネコンが入り、「映画を見に来たついでにお買い物とお食事を」という消費の構造が出来上がっています。ここチェンナイでも、中心街のアンナー・サライに近いエクスプレス・モール、それより前にできていたチェンナイ・シティ・センター、さらにその両者の間にできたスカイウォーク・モール、そして確か5年前にできたアンナー・ナガルのVRモールと、市内南部にできたフェニックス・マーケット・シティという巨大モールなどがありますが、いずれも映画館が集客の中心となっています。
今日はVRモールに行ってきたのですが、入り口でのセキュリティ・チェックもゆるくて拍子抜け。何だか賑わいが5年前とは違い、低調になったような...。まあ、平日の午後なのでこんなものなのかも知れませんが、5年前の土曜日だったか休日だったかで、わんわん人がいて、帰りのオートがすさまじい争奪戦だった時を思い出すと、ちょっと寂しいです。モールもそろそろ、飽和状態かも知れません。
そんな中、PVRアイコンと名付けられたシネコンで見たのは、ヒンディー語映画『Laapata Ladies(行方不明のご婦人たち)』。アーミル・カーンの元妻キラン・ラーオの監督第2作で、なかなかよくできた作品でした。
舞台は、北インドのある村。嫁の実家で結婚式を済ませ、花嫁のプールを自宅、つまり彼女から見ると婚家に連れて帰ろうとしているのが、いかにも田舎者の青年ディーパクですが、自分の家は結構遠く、バスやら列車やらを乗り継いで、丸1日かかる旅となります。田舎のことで、列車に乗るのも正規の駅ではなく、列車がちょっと止まったすきにみんながわっと乗り込む、といういいかげんさ。乗り込んだ車両には何と新婚夫婦がたくさんいて、ディーパクたちが座った席にももう一組がすでに乗り込んでいます。ものすごい混み具合で、ディーパクはプールと離れて座ることになり、トイレに行くのも一苦労。夜になり、うとうとしていたディーパクが目を覚ますと、何と自分が降りる駅ではありませんか。あわててプールの手を掴んで、引きずるようにして列車を降り、バスを乗り継いでやっと自宅のある村へ。家族や親戚、村人から大歓迎を受けますが、ずっと赤いベールを目深に被っていた花嫁がベールを取ると、そこには何と別人の女性が! 村は大騒ぎになります。翌朝、ディーパクは「嫁」ことプシュパ・ラーニーを連れて友人たちと共に警察署に出向き、警部(ラヴィ・キシャン)に事情を訴えますが、聞いた警部もあきれるばかり。列車の駅も巻き込んだ大騒動になっていきますが、プールはなかなか見つからず、またプシュパの方もディーパクの家に馴染んでいきます...。
上写真のように、どの花嫁もベールで顔を深く隠していたので、誰が誰だか全然わからないわけです。でも花嫁からすれば、手を掴まれた時に叫べばそんな間違いは起こらなかったはずなのに...と思っていたら、そこには深い事情があったのでした。この事情が女性問題に関わるテーマになっていて、最後に着く決着がなかなか拍手パチパチとなっていました。その裁きをするのが、いかにも田舎のおまわりさんという感じの警部で、ラヴィ・キシャンが達者に演じています。一方列車に残されたプールの方も、「嫁」になる以前にいろんな苦労をしていい経験となる、という描き方がされていて、単なるコメディ映画の域を出た、興味深い作品でした。大阪アジアン映画祭や愛知国際女性映画祭に向いている作品だと思います。予告編はこちらです。
Laapataa Ladies(Official Trailer) Aamir Khan Productions Kindling Pictures Jio Studios |1st Mar 2024
若い出演者たちはほとんどが無名の俳優で、プール役のニターンシー(表記ちょっとあやふや)・ゴーエルの可憐さとか、ディーパク役のスパルシュ・シュリーワースタウの田舎の若者ぶりとかに、すごくリアリティがありました。昨年のトロント国際映画祭でも上映されていますので、映画祭関係者の皆様、ぜひよろしくご検討下さいませ。