アジア映画巡礼

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面白かったバングラデシュ映画『テレビジョン』

2016-12-13 | バングラデシュ映画

先週土曜日にTUFS Cinema(TUFS=東京外国語大学)で上映されたバングラデシュ映画『テレビジョン』。なかなか寓意に富んだ、面白い作品でした。スチールもいただいたので、後追いですがちょっとご紹介を。

『テレビジョン』

2012年/バングラデシュ/ベンガル語/106分/原題:টেলিভিশন (Television)
   監督:モスタファ・サロワル・ファルキ
 出演:シャヒル・フダ・ルミ、チョンチョル・チョウドゥリ

映画は、水量豊かな川を渡って村へいく船から始まります。その船の上で、何やら怪しい動きをするおじさん。何と、新聞の写真全部に白い紙を貼って、見る人の目から隠しているところでした。下の写真のようなセクシーポーズ(下の写真は『Tees Maar Khan(30人殺しのカーン)』(2010)のカトリーナ・カイフですが、多分この写真が使ってあったと思います)は、いったん貼った白紙を少しめくり上げてチラ見したあとで、名残惜しそうにのりを付けてベタリ。実はこれ、イスラーム教の教えをかたくなに守って、「あらゆる偶像=肖像は禁止」と主張する村長(シャヒル・フダ・ルミ)の命令によるものでした。

 

村長はそのほか、偶像をあまた運んでくるテレビジョンにも敵意をつのらせ、インタビューしたいとやってきたテレビ局女性キャスターには、映像が撮られないよう幕越しにインタビューさせるという念の入れよう。また携帯電話は若者を堕落させるとして、携帯を持てるのは年寄りだけ、という命令も発していました。村人はパソコンを置いている写真屋兼パソコンショップまで行って、チャットやスカイプをしていましたが、コーヒヌールもスカイプを使って、マレーシアに出稼ぎ中の父と話をしたところでした。父との会話が終わると、コーヒヌールは傍らで待っていた母に「パスポートの写真を撮ってくるわ」と断って、写真屋のスタジオへと入って行きます。ところがそこにはコーヒヌールの恋人で、村長の息子スレイマン(チョンチョル・チョウドゥリ)が待ち受けており、立ち合う写真屋の耳目も何のその、二人はいちゃいちゃするのでした。


スレイマンには世知に長けた使用人のモジュヌがいつも付き従っており、バイクを運転してスレイマンを運ぶ運転手の役目も果たしていました。モジュヌは、何とか携帯電話を持って彼女といつでも話ができるようにしたい、というスレイマンに知恵を授け、まんまとスレイマンは携帯を手に入れます。モジュヌはスレイマンに頼まれて携帯をコーヒヌールの家まで届けに行くのですが、コーヒヌールはモジュヌの様子が変なのに気がつきます。問い詰めてみるとモジュヌは、「オレはあんたのことが好きだ」とコクってくるではありませんか。鼻で笑ったコーヒヌールでしたが、自分がちょっと言ったひと言でモジュヌが髭をそり落としたのには驚くやらおかしいやら。

その頃村には、テレビがやって来てしまいます。ヒンドゥー教徒のクマール先生が、「私はイスラーム教徒じゃありませんから」と町でテレビを買って持ち帰ってきたのです。クマール先生の塾は、子供たちで大人気になりますし、近所の人も窓に鈴なりになり、とうとう鏡でテレビ画面を映して見せる始末。ついにイスラーム教徒の中で問題になってしまい、村長を始めイスラーム教徒の人々はクマール先生の塾に踏み込みます。たまたまそこにいたコーヒヌールは、村長に追求されて恥をかかされる羽目に。村長らはテレビ代金をクマール先生に支払い、意気揚々とテレビを始末して去りますが、傷ついたコーヒヌールはスレイマンと絶交してしまいました。テレビ問題に恋愛問題、さて、どう決着が着くのでしょうか...。

ストーリーはこうして書いてみると、なかなか一筋縄ではいかないものだったことに気付かされます。いろいろひねりが効いており、単純に、伝統、あるいは宗教的信条VS.近代化、あるいは最新テクノロジー、という構図でもありません。ラストはどんでん返しと言ってもいいような終わり方になるのですが、全編を通して予想のつかない面白さがあちこちに潜んでいます。

映像の撮り方もユニークで、スレイマンが父に携帯電話がほしいと訴えるところでは、母親を仲介役のようにして両者が会話していくのですが、角をまがって行き来するカメラの面白さにはうなってしまいました。また、携帯電話で話す二人が同じ空間に写り込むなど、シュールでいながら切り返しを使うよりも表現としてはうまいシーンも見受けられます。そのほか、水量たっぷりの川の美しさを見せてくれたり、土手を走るバイクを反対側の岸から移動で撮った印象的なシーンがあるなど、映像的にもとても楽しめる作品でした。

Television Film Poster.jpg

上映の後には、東京外国語大学の非常勤講師渡辺一弘さんのお話もありました。バングラデシュは1971年にパキスタンから独立しますが、その後1980年頃から映画は発展していき、1995年には映画館が1,235館もあったのだとか。ダッカという名前から、映画界は「ダリウッド」と呼ばれている、というのは「ボリウッド」の影響でしょうね。現在は映画館が300館ほどになっており、年間製作本数は30本程度だそうですが、ショッピングモールにはシネコンも登場し、2013年に完成したアジア最大のショッピングモールにはスター・シネプレックスというシネコンが入ったそうです。映画料金は、200タカ(約300円)~800タカ(1200円)だそうなので、バングラデシュの物価から考えると結構いい値段ですね。なお、本作の言語はベンガル語ですが、コルカタで話されているようなベンガル語とはだいぶ違っていて、なまりが強いそうです。

『テレビジョン』は、TUFS Cinemaの南アジア映画の事務局長とでも言うべき藤井美佳さんの素敵な字幕が付いているので、またどこかで上映されないかしら、と願っています。さらに、来年1月から3月にかけて、東京・名古屋・神戸で開催される<イスラーム映画祭2>でも、次のような南アジア映画が上映されます。すでに上映されたりテレビ放映された作品ばかりですが、見逃した方はぜひどうぞ。映画祭の公式サイトはこちらです。

Matir Moina.jpgChaudhvin ka chand.jpgMrMrsIyerPoster.jpg

『泥の鳥』
2002年/バングラデシュ、フランス/ベンガル語/98分/原題:Matir Moina/英題:The Clay Bird
 監督:タレク・マスゥド
 主演: 

『 十四夜の月』
1960年/インド/ウルドゥー語、ヒンディー語/170分/原題:Chaudhvin Ka Chand/英題:The Moon of the Fourteenth
 監督: M.サーディク
 主演:グル・ダット、ワヒーダー・ラフマーン、ラフマーン、ジョニー・ウォーカー 

『ミスター&ミセス・アイヤル』
2002年/インド/英語、ヒンディー語、タミル語、ベンガル語/118分/原題(英題も同じ): Mr.and Mrs. Iyer
 監督:アパルナ・セン
 主演:コンコナ・セン・シャルマー、ラーフル・ボース 

『神に誓って』
2002年/パキスタン/ウルドゥー語、英語、パンジャブ語、アラビア語、パシュトウ語/168分/原題:Khuda Kay Liye /英題:In the Name of God
 監督:ショエーブ・マンスール
 主演:シャーン、イーマーン・アリー、ファワード・アフザル・ハーン

Khuda-kay-liye.JPG

そして、まだオマケが。藤井美佳さんが字幕を担当した『汚れたミルク あるセールスマンの告発』(2015/原題:Tigers)も来年2月に公開されます。イムラーン・ハーシュミーが主演した本作は、『ノーマンズ・ランド』(2001)や『鉄くず拾いの物語』(2013)のダニス・タノヴィッチ監督作品。公式サイトはこちらですが、FBの方が今は見やすいようです。パキスタンが舞台の『汚れたミルク あるセールスマンの告発』、共演は、『ライアーズ・ダイス』(2014)のギーターンジャリ・ターパーや、『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)のアーディル・フセインら。こちらも楽しみですね~。なお、配給会社の人名表記はだいぶ音引きが落としてありますので、上記とは違っています。悪しからず、ご了承下さい。


 


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