今年もまた花粉症逃亡でインドへ。とは言え、今年は実質的に花粉症が出て来たのが今週からなので、あまり「逃げて来た~」の実感もなく、というところ。日本にいらっしゃる花粉症の皆様は、今頃大変な事とお察しします。
マスクもティシューも不要なチェンナイ、今年は結構涼しく、歩いていても汗がほとんど出ません。しかし、市内の目抜き通りアンナー・サライ(旧マウント・ロード)は、まだ地下鉄の建設工事が続いていて、ひどい渋滞が続いています。ここのオートリキシャは、メーターはあるものの特に外国人相手だとそれが機能しなくて、行き先を言って値段を交渉、というシステムなのですが、大体実際の値段の3倍ぐらいを呈示され、それを何とか1.5~1.2倍ぐらいに持って行く、という、乗るたびに敗北感を味わうタクシー事情です。ところが渋滞にひっかかると、時間がよけいにかかって運転手さんが損する羽目になるので、そんな時はわずかながら溜飲が下がります。
さて、本日もアンナー・サライを通ってエクスプレス・アヴェニューというショッピングモール(上写真)にあるシネコン、エスケープへ。2本の映画を見てきました。
最初の1本はヒンディー語映画『Neerja(ニールジャー)』。監督はラーム・マードヴァーニー、主演はソーナム・カプール、共演はシャバーナー・アーズミー、シェーカル・ラーウジヤーニー(作曲家ヴィシャール=シェーカルの片方)など。実話の映画化で、1986年9月にパキスタンのカラチで起こった、パン・アメリカン航空(パンナム)のハイジャック事件で、犠牲となって亡くなったCAのニールジャー・バノートが主人公です。
冒頭、1970年代のラージェーシュ・カンナー主演ヒンディー語映画を愛する、ほがらかな主人公ニールジャー(ソーナム・カプール)と、彼女の父の誕生日を祝う家族たちが登場します。何かと言うと、ラージェーシュ・カンナー主演作のセリフを口にするニールジャー。彼女はパンナムのCAで、自身の誕生日を数日後に控えたこの日は、次の早朝に空港に行かないといけない身でした。母(シャバーナー・アーズミー)に起こされ、迎えに来たパンナムの送迎係ジャイディープ(シェーカル・ラーウジヤーニー)の車で空港に向かうニールジャー。二人は互いに相手の存在を意識し合っており、この日ジャイディープは少し早い誕生日プレゼントを、「当日になったら開けて」とニールジャーに渡します。ニールジャーは途中の広告看板の前で車を停めさせ、「私が出た広告よ。寂しくなったらここに来てね」とジャイディープに言い、カラチを経由してニューヨークへ飛ぶパンナム便に搭乗していきます。
しかしながら、カラチ空港ではパレスチナ人のテロリストたちが、パンナム便をハイジャックしようと待ち構えていたのでした。彼らはパキスタン人の協力者を得て、大量の武器や空港警備員の制服を手に入れ、パンナム便のハイジャックによって、収監されている仲間を釈放させ、そのまま機をキプロスへ飛ばせようと計画していました。到着したパンナム便のドアが開き、カラチで降りる乗客が出ようとした時、彼らが銃を乱射しながら飛行機に向かってきます。ドアを閉めようとしても間に合わず、彼らは機内を制圧。コックピットに入ろうとしますが、状況を知ったパイロットたち3人は上部ハッチから脱出し、飛行機は飛べなくなってしまいました。いきり立つ彼らに対し、CAのチーフであるニールジャーは何とか乗客全員を無事解放できるよう、最大限の努力をしようとしますが...。
ニールジャー・バノートに関するWiki記事を読んでみると、映画は事実にかなり忠実に作られているようです。ニールジャーの個人生活の描写では、このハイジャック事件が起きる前年に、ドーハに在住するインド人と結婚したものの、夫の虐待に耐えかねて離婚する、というシーンがあるのですが、それも事実らしく、ニールジャーのダウリー(結婚持参金・財)を期待していた夫が、何も持たずに来た妻にいらだちを募らせ、彼女が家事が得意でなかったこともあってDVに及んだ、ということのようです。ニールジャーの父はヒンドゥスターン・タイムズの記者として長年勤めており、兄2人もそれぞれ独立して家庭を営んでいたので、ダウリーが用意できなかったはずはなく、両親が自らの主義としてダウリーを持たさなかったのでは、と思われます。
ニールジャーがモデルの仕事をしていたのも事実で、サリーの広告などに出ていたようです。エンドロールには、実際のニールジャーの写真がたくさん登場し、劇中の彼女を再トレースすることができます。上に上げたWikiの写真をここに貼り付けておきますが、確かにチャーミングな美人ですね。
また、ハイジャッカーたちはアラビア語と片言のウルドゥ語を話し、画面には英語字幕が出るという処理がなされていて、こちらも忠実な描写(とはいえ演じたのはインド人俳優で、彼らが話すアラビア語が、実際のハイジャック犯と一致しているのかどうかまではわかりません)となっています。30年前の機材の細部再現や、アメリカ人クルーや乗客の存在再現とかまでは、努力はされているもののちょっと無理があるのですが、それでも真摯な映画作りがされたことが強くうかがえる作品でした。臨場感を醸し出すために、手持ちカメラ撮影が多用されているのも、緊迫感を生み出していて映画に引き込まれる要因となっています。
さらに、出演者たちの演技が素晴らしく、特にソーナム・カプールにとっては、初めて演技力を発揮した作品となったのでは、と思います。シェーカル・ラーウジヤーニーも、作曲家や歌手の時と全然雰囲気が違い、驚きました。加えて、ハイジャック犯を演じた役者たちにものすごい存在感があり、これまた脱帽。こんな作品を撮ったラーム・マードヴァーニー監督は、これが2作目なのですが、最初の作品である英語映画『let's Talk(話をしよう)』(2002)ではほとんど注目されませんでした。その後テレビCFの監督として活躍し、数々の賞を取ったりして、再度長編劇映画にチャレンジしたのが本作のようです。サスペンス映画ばやり&実話ものばやりの昨今のトレンドの中で、映画としての誠実さが光る1本となりました。
Neerja | Official Trailer | Sonam Kapoor | Shabana Azmi
続いて見たのが、タミル語映画『Irudhi Suttur(スノッブ野郎)』で、ヒンディー語版のタイトルは『Saala Khadoos(クソッタレのカボチャ野郎)』。『きっと、うまくいく』のファルハーン役を演じたR.マーダヴァンの主演作です。
監督はスダー・コーンガラー(ヒンディー語のWikiでは、スダー・コーンガーラー)、女性の監督です。他の出演者は、リティカー・シン、ムムターズ・サルカール、ナーサル、ラーダー・ラヴィなど。ボクサーとしては大成しなかった男プラブ(R.マーダヴァン)が、女性ボクサーであるラクシュミー(ムムターズ・サルカール)の妹で、荒削りな才能を秘めたマディ(リティカー・シン)に着目し、彼女を一流のボクサーに育て上げる、という物語です。実は本作は、ラージクマール・ヒラーニー監督のプロデュース作品で『pk』のDVDに予告編が収録されており、それで見て気になっていたのでした。
で、結論から言うと....いまひとつでした。時差の関係で途中寝落ちしてしまったのと、タミル語だったので理解が及ばなかった点は確かにあるのですが、描写が陳腐で一本調子のため、まったく引き込まれず、睡魔の方が勝ってしまいました。オススメした配給会社のYさん、ごめんなさい! 女性監督作品なので、あいち国際女性映画祭にもピッタリでは、と思ってご紹介したのですが、やっぱり実際に作品を見てみるまではわかりませんね~。ヒンディー語版の予告編を付けておきます。
Saala Khadoos Official Trailer | Releasing Jan. 29
それにしても、プリヤンカー・チョープラー主演の『メリー・コム』(2014)といい、女性ボクサーの映画が続々と登場するのは時代の変化を思わせます。
時代の変化と言えば、今朝の新聞で、私を古いインド映画に開眼させてくれた元フィルム・アーカイヴ館長P.K.ナーイルさんの逝去が伝えられていて、ショックを受けました。このブログでは、以前、ナーイルさんを紹介したドキュメンタリー映画『The Celluloid Man(フィルム人間)』(2012)を取り上げ、そちらに彼との思い出を綴りましたが(下の写真はそのスチールから)、その後二、三度メールでやり取りしただけで、プネーまで会いに行かなかったことがくやまれます。
P.K.ナーイルさんのご冥福を祈ります。いろいろ教えて下さって、本当にありがとうございました。