チェンナイがだんだんと暑くなってきました。日本のサイトを見ると33度あったようで、今後じりじりと上昇するようです。昨夜の映画館は、冷房がガンガンに効いていました。
チェンナイでは、毎年のルーティンとなっている本屋のチェック(『Dilwale(心ある人)』のDVDが早くも出ていました!)にサリー等の購入、カパレーシュワラ寺院詣でと神様グッズやインド文化の授業に役立ちそうな資料の購入などをゆるゆると行っています。その合間に映画を見ているのですが、昨日、今日と、偶然警察映画が重なってしまいました。どちらも面白かったので、ちょっとご紹介しましょう。
まずはヒンディー語映画『Jai Gangaajal(ガンジス川の聖水万歳)』。監督はプラカーシュ・ジャーで、主演はプリヤンカー・チョープラー。プリヤンカーの制服姿がりりしくもセクシーで、見る前から期待値が相当高くなっていた作品です。
監督のプラカーシュ・ジャーは、第1作『Hip Hip Hurray(がんばれ!)』(1984)を撮った時に、上映されたインド国際映画祭で会ったことがあるのですが、なかなかの渋いイケメン監督でした。青春映画だったその映画からガラッと趣の変わった社会派作品『Damul(終生の束縛)』(1985)でインド国家映画賞の作品賞を取り、一挙に注目された後は、商業映画界に迎えられてボリウッド入り。『Mrityudand(死刑)』(1997)や『Gangaajal(ガンジス川の聖水)』(2003)などをヒットさせると同時に、インド国家映画賞の各賞も次々と受賞。最近はアミターブ・バッチャンと組んで、『Aarakshan(留保制度)』(2011)や『Satyagraha(サティヤーグラハ運動)』(2013)を世に出すという、ボリウッドの社会派として活躍してきた人です。
本作は当初『Gangaajal』の続編として作られたようですが、タイトルが『Gangaajal 2』から変わって『Jai Gangaajal』となりました。本作では驚いたことに、プラカーシュ・ジャー監督自身が主人公の1人として主演もしています。ストーリーを簡単に説明しましょう。
バンキプル地区は、地方議員パーンデー(マーナウ・カウル)がその弟と共に牛耳っており、警部のB.N.シン(プラカーシュ・ジャー)は彼らの手先となっていました。警察署長が彼らを押さえようとすると、地方大臣を使って左遷させ、大企業を誘致するために農民の土地を取り上げるなど、やりたい放題。そこへ、新しい署長として地方大臣の息の掛かった女性アーバー・マートゥル(プリヤンカー・チョープラー)が赴任してきます。父を亡くした彼女を地方大臣が庇護して、署長の地位まで昇らせた、というのでパーンデーに味方すると思いきや、彼女は次々と正義感溢れる行動をとり、パーンデー一味に真っ向から立ち向かいます。追い詰められたシン警部は、やがて彼女のやり方に共感を覚えるようになり、徐々に彼の中でも正義感が目覚めて行くことに。その頃村人は、パーンデー一味の土地強制収容のせいで多くの村人が自殺したことに怒り、自らの手でパーンデー一味をリンチにかける挙に出始めます。こうして、パーンデー一味、警察、村人たちという三つどもえの争いが進行して行くのですが....。
パーンデー一味は例によって極悪非道な姿で登場。最初は100%彼らの側に立ち、まっとうな警察官に対しては、「まあ、カルダモンでも食べて気を静めるんだな」とバカにしたような態度を取っていたシン警部が、アーバーという上司を得て変わっていくのが一番の見どころ、と言えるでしょう。そのシン警部を、初老のプラカーシュ・ジャー監督が実にうまく演じており、とても俳優デビューとは思えません。プリヤンカー・チョープラーも相当がんばっていて、「ラーティー・チャージ」と呼ばれる警棒(ラーティー)による取り締まりのシーンなどは迫力満点。ファンならずとも、惚れ惚れしてしまいます。
途中、村人の何人かがパーンデー一味に首つり自殺に見せかけられて殺されるシーンや、それを逆手に取って村人がパーンデー一味を吊すシーンなど、結構残酷なシーンがある上に、「これはまた、今流行の”正義を自らの手に握って刑を執行する”というリンチ礼賛作品なのか?」と思わせられる部分もあるのですが、ラストにきっちり落とし前が付けられていて、それも見ていてホッとした点となりました。
ただ、結構シリアスな映画だったせいか、場内では緊張が持続できない人たちが続出。後ろの席の子供は退屈して騒ぐし、その隣では母親かかかってきた電話でくっちゃべったり、前の席のおじさんも映画について行けなかったのかたびたび腕を頭の後ろで交差して画面をさえぎってくれる等々、相当劣悪な鑑賞環境でした。それでも引き込まれて作品に見入ったので、高い評価ができるというものです。今年の主演女優賞と助演男優賞の候補は、これでキマリかも。下に、予告編を2本付けておきます。
'Jai Gangaajal' Official Trailer | Priyanka Chopra | Prakash Jha | Releasing On 4th March, 2016
'Jai Gangaajal' Official Trailer 2 | Priyanka Chopra | Prakash Jha | Releasing On 4th March, 2016
で、本日は、「インド映画完全ガイド」の「タミル語映画のいま」で深尾淳一さんが「今注目すべき俳優である」と紹介しているヴィジャイ・セードゥパティの主演作のタミル語映画『Sethupathi(セードゥパティ)』を見てきました。
いやいや、確かに怪優です! それと、人気がすごい! 今日見た劇場は、INOX Nationalという、ちょっとはずれの地区にあるシネコンで、客は最後列は埋まっているもののあとはまばら、という状態だったのですが、ヴィジャイ・セードゥパティの名が画面に出てくるや、指笛と悲鳴が場内にあがり、途中の彼の見せ場でもまた大騒ぎ。こんな騒ぎ方、久々に目撃しました。しかも、ハイティーンのような若い女の子が4、5人で見に来ていて、悲鳴を上げたのは彼女たち。えー、こんないかつい顔のおじさんがいいのぉ?
物語は、地方のボスが目の上のたんこぶである警部セードゥパティを除こうと、他の警官を取り込んで罠に掛ける、というもので、この両者の戦いに、盗みをした中学生を尋問していて、セードゥパティが脅しで向けた銃から実弾が出てしまい、その子に重傷を負わせたことの真相をあばく、という謎解きが加わります。このあたりはハードボイルド・タッチなのですが、導入部からして家で小さな子供2人を相手にとっくみあいをするセードゥパティ、という甘いパパの姿を見せて、その両者のギャップを観客に楽しませる作品ともなっています。面白かったのは、奥さんといちゃいちゃしていても観客はおとなしく画面を見ているのに、ひとたびセードゥパティが悪の一味をギロリと睨んだり、彼らを見事なアクションで蹴散らしたりし始めると、場内指笛の嵐となる、という観客の反応。うーん、まさにみんなが求めるヒーローなのね、と感心しました。
確かに、上のポスターのように強面なのに、時として目は優しくなり、一瞬ハンサムに見えることも。華のある俳優と言ってもいいかも知れない、オーラを持っている人です。ヴィジャイ・セードゥパティを実際に拝めて、しかも観客の反応も確認できて、大満足の映画鑑賞でした。下に、歌のプロモ映像を付けておきます。
Hey Mama Official Promo Song | Sethupathi | Vijay Sethupathi | Anirudh ft. Blaaze | Nivas K Prasanna
そういえば、一箇所腑に落ちないシーンが。上の映像にもちょっと出てきますが、悪い奴らを数人捕まえて、郊外の荒れ地に連れて行き、射殺してしまうシーンがあるのです。あれは一体何だったのでしょう? それって警部としてはダメじゃん、と思ってしまったのですが、何か説明があったのでしょうか? 日本での上映で英語字幕でご覧になった方、ぜひご教示下さい。