アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第25回東京フィルメックス:Day 6

2024-11-29 | アジア映画全般

フィルメックスも6日となった昨日(11月28日)、東南アジアに関連する作品2作が上映されました。今回の上映作品の午後遅くと夜の作品は、何となく関連性のある作品が選ばれていたように思いますが、これはたまたまでしょうか。6日目は、2001年のベトナムを舞台とする映画で、2代の炭鉱労働者2人を主人公に、対米戦争の傷を描いた『ベトとナム』(2024)、そして台湾を舞台にしているものの、東南アジアからの不法入国者が介護職を手配するヤクザのもとで働く現場を描く『白衣蒼狗』(2024)を見て来ました。いずれもQ&Aがあったので、その写真と共にご紹介します。

『ベトとナム』

Still by nicolas-graux

 2024年/ベトナム、フィルピン、シンガポール、フランス、オランダ、イタリア、ドイツ、アメリカ/129分/原題:Viet and Nam
 監督:チューン・ミン・クイ
 主演:ファム・タイン・ハイ、バオ・ズイ・バオ・ディン、グエン・ティ・ガー

Still by nicolas-graux

若い炭鉱夫のベトとナムを主人公に、2人の愛情と友情、そして四半世紀前に終わったベトナム戦争の傷跡が2001年になっても続いていることへのこだわりを描く作品でした。コダックのフィルムを使って撮った、というのが大きなポイントで、鉱山の中や山中、海辺などのシーンは、そう言われてみるとフィルムの質感が...とは思うものの、デジタルに慣れた目にはさほど魅力的とは思えず...。ゲストは主演の1人バオ・ズイ・バオ・ディンで、デジタルでの撮影に親しんでいるスタッフやキャストがいかに大変な思いをしたのか、しかしながらいかに早くその環境に順応していったのか等を雄弁に語ってくれました。写真を何枚か付けておきます。

 

『白衣蒼狗(はくいそうく)』

 2024年/台湾、シンガポール、フランス/128分/原題:Mongrel  白衣蒼狗
 監督:チャン・ウェイリャン/共同監督:イン・ヨウチャオ
 主演:ワンロップ・ルンカムジャッド、ルー・イーチン、ホン・ユーホン、クォ・シュウェイ、アチャラ・スンワン

こちらの舞台は台湾の中央部、山岳地帯にある小さな町。主人公のオームはタイからの不法入国者で、老人や障害者の介護を引き受けていますが、彼のボスにあたる男は、彼の他にタイ人やフィリピン人、インドネシア人の不法入国者を10数人山間の小屋に住まわせ、介護要員として派遣していました。ボスの上にはもっと大物のヤクザがおり、介護職だけでなく、何やら人身売買のようなことも行っています。オームは両者の間に立って労働者たちを世話するかたわら、息子夫婦や孫と住んでいる老婦人の看病、そして老母と住む障害者の男性の介護を引き受けていました。そんなある日、具合の悪かった若い女性が、医者にも診てもらえないまま亡くなってしまいます。オームとボスは遺体を始末し、いつも通り労働者たちを派遣して仕事をこなさせようとしますが、賃金がもう2ヶ月支払われておらず、労働者たちの不満がつのります...。

この日のQ&Aには、チャン・ウェイリャン監督と共同監督である女性のイン・ヨウチャオが登場、シンガポール人であるチャン監督は、昔台湾ニューウェーブの映画を見て心引かれ、台湾に行ったのだとか。30日まではノービザで滞在できるため、それをくり返して台湾を訪問しているうちに、同じような手法で台湾に来ては出稼ぎしていくアジアの人々としたしくなり、本作の構想を思いついたそうです。共同監督のイン監督は、このQ&Aの時も無口で微笑んでいるたけ(久々にアルカイック・スマイルという言葉を思い出しました)だったのですが、その分チャン監督が雄弁で、「彼女の存在が映画にやさしさを加えてくれた。僕1人だけで撮ったのなら、かなり容赦のない作品になっていたと思う」と語っていました。

しかしながら、見ている方としては不法入国者の描き方や彼らが働かされる構造がいまいちはっきりと描かれておらず、不満が募ります。あまり正直に描いては、という配慮なのかも知れませんが、リアリティが感じられず、介護現場のディテールもちょっと変なところがあり、映画に入り込めませんでした。

タイトルにある「狗」、つまり犬の使い方も、単なる背景だけのようですし、主人公への思い入れも伝わってこず、宙ぶらりんの感情のまま見ていたのですが、上映時間が128分のはずが30分ぐらい長くなり、これにも超過部分で「?」となってしまいました。東アジアで働くネパール人労働者やフィリピン人労働者を描いた作品は結構あるものの、娯楽映画でもこちらの胸に響く何らかの説得力が感じられたのですが、本作はそれがなくて残念でした。シンガポール人の監督には難しいテーマだった、ということでしょうか....。

 


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