本日(11月29日)は、中国のドキュメンタリー映画と、普段ならパスするパレスチナ映画を見ました。
『愛の名の下に』
2024年/中国、アメリカ/94分/原題:Mistress Dispeller 以愛之名
監督:エリザベス・ロー
登場するのは、お金持ちの奥さんとその夫、さらにその愛人と、愛人を夫と別れさせようとする「愛人払い」ビジネスに携わる女性です。奥さんと夫はバドミントンが共に上手で、10代のかわいい娘がおり、仲のいい一家として知られています。ところがその裏で夫は若い愛人を囲っており、それを知った奥さんは頭に来て、弟が紹介してくれた「愛人払い」の専門家に夫と愛人の縁切りを依頼します。その「愛人払い」の一部始終を追ったのが本作で、監督は香港出身のエリザベス・ロー。隠し撮りではなく、3人共に撮られることを了承し、その上でのドキュメンタリー映画化なのですが、それほど面白い展開にもならず、世相を反映したと言ってもそれが社会の現実を見事に切り取っているかといえばそんな風でもなく...。「愛人払い」の専門家のテクニックと、彼らが使う喫茶店などの豪華さに、ほほう、と思う程度の作品でした。
『ハッピー・ホリデーズ』
2024年/パレスチナ、ドイツ、フランス、イタリア、カタール/123分/原題:Happy Holidays
監督:スカンダル・コプティ
出演:マナール・シャハブ、ワファー・アウン、メイラヴ・メモレスキー、トゥーフィク・ダニアル
イスラエルのハイファに暮らすあるパレスチナ人一家は、裕福そうに見えても夫は家を売る算段をしているところで、不動産業者などがやって来ます。妻は家を売るのには大反対ですが、それ以外にもテルアビブの大学に行っている娘のフィフィが交通事故に遭ったりと、心配事が次々に襲ってきます。フィフィの事故が証明されると保険金が下りるのですが、フィフィはなぜか自分の健康記録簿を親に見せたくない様子。実はそこには、以前病院にかかった時にフィフィが言った「避妊はコンドームを使ってやっている」という文言が記録されていたのです。フィフィが医師に頼んでも、「書き換えはできない」と言われ、それがいろんなことに影響を及ぼしてきます。せっかく付き合うようになった医師のワリードとも関係が破綻し、2人が結婚すると思っていた周りの人はあれこれ噂をし始めます....。
この物語も、イスラエルとパレスチナ人との関係を描いてみせてくれるのですが、こちらの知識が乏しいためか、理解出来ない点がいくつかありました。それと、フィフィとワリードとの関係も、いったんは相思相愛に見えたのに、フィフィが彼を拒絶して喧嘩別れのようになったと思ったら、フィフィの方から彼の病院に行って関係修復をはかる、だがワリードは拒否、するとその後また形勢逆転となり....と、ややこしいことこの上なかったです。ええい、こんな優柔不断な男女はいやだぁ、と思ってしまう物語ですが、これが政治情勢を反映している、てなことはないのでしょうね....。現れたスカンダル・コプティ監督は、落ち着いた大人、という感じの人でした。
続いては、11月30日(土)のDay 8 もご紹介して、フィルメックス関連記事を終わらせてしまいます。見た順番と反対なのですが、いい映画をあとでご紹介、ということで、私のフィルメックスは幕を閉じることにします。
『四月』
2024年/フランス、イタリア、ジョージア/134分/原題:April აპრილი
監督:デア・クルムベガスヴィリ
描写があまりにえげつなすぎて、女性を、あるいはその肉体を貶めようとしているのか、と拒否したくなった作品でした。
『ブルー・サン・パレス』
2024年/アメリカ/116分/原題:Blue Sun Palace 藍色太陽宮
監督:コンスタンス・ツァン
出演:ウー・カーシ、リー・カンション、シュー・ハイペン、ハン・シェミン、ジェン・リーシャ
ニューヨークで、マッサージルームを経営し、仲良く働く4人の女性。白人男性にお金を値切られたりしながらも、4人は力を合わせてたくましく生き抜いています。すでに子供がいるディディと料理上手なエイミーは、いつかボルチモアでレストランを出すことを夢見ていました。ディディは店の客である台湾人男性チュン(リー・カンション)とも付き合い始め、彼が台湾に妻子を残していることを知りながらも、一緒に食事したり遠出したりし始めます。ところが旧正月のパレードがある日、ボルチモアに帰ろうとしていたディディは、押し入ってきた強盗に殺されてしまいます。残されたエイミーは、慰めてくれるチュンと食事に付き合ったものの、彼がディディのことを引き合いに出すのについ怒りが噴出してしまい....。
しみじみと心に浸みる映画でした。ディディとエイミーを演じる女優さん2人もよかったのですが、何よりもこの作品を支えているのがシャオカン君ことリー・カンション。鈍そうな男の役なのに、しかも妻子がありながら2人にアプローチし、さらには勤務先の工務店の女社長とも...という不誠実な男なのに、温かみを映画に加味してくれる本当にいい役でした。ラストの数分は、彼の演技へのご褒美でしょうか。
リー・カンションは本作だけでなく、ツァイ・ミンリャン監督の『無所住』と『何処』の2本の作品はもちろんのこと、『黙視録』にも重要な役で出演するなど、ちょっとした「シャオカン祭り」状態の今回のフィルメックスでした。TIFFでも『黒の牛』で出ずっぱりの主演を務めるなどしていて、今秋はまさに「シャオカン祭り」そのもの。中年太りでお腹がたぷたぷしている「シャオカン叔叔」ですが、『青春神話』(1992)の頃と顔があまり変わっていないのが不思議なところ。まだまだ活躍が続きそうです。
というわけで、本日夕方各賞の発表があったのですが、何と!私が一番嫌だった映画『四月』が最優秀作品賞を受賞するとは! 『サントーシュ』が2つも賞をもらったのは嬉しいですが、そして観客賞がロウ・イエ監督の『未完成の映画』だったのも嬉しいですが、そのロウ・イエ監督らが『四月』を選ぶとは。と嘆きつつ、結果一覧を書いておきます。
最優秀作品賞:デア・クルムベガスビリ監督『四月』
審査員特別賞:サンディヤ・スリ監督『サントーシュ』
観客賞:ロウ・イエ監督『未完成の映画』
学生審査員賞:サンディヤ・スリ監督『サントーシュ』
タレンツ・トーキョー・アワード2024:『The Rivers Know Our Names 』(マイ・フエン・チー/ベトナム)
スペシャル・メンション:チャン・ウェイリャン監督『白衣蒼狗』