何だか1日遅れで報告を書いていますが、今回は私の2日目、11月21日(火)に見た作品についてです。この日は2作品、『氷の下』(中国/コンペ作品)と『サムイの歌』(タイ、ドイツ、ノルウェー/特別招待作品)を見ましたが、両方ともQ&Aがありました。Q&Aではどちらの作品ともネタバレがありますので、これからご覧になる方はこの記事をスキップして下さい。
『氷の下』(2017/原題:氷之下/英語題:The Conformist)は、以前東京フィルメックスで上映されたことのある『人山人海』(2011)の、蔡尚君(ツァイ・シャンジュン)監督の作品です。突然の殺人から始まったハードボイルド映画『人山人海』でしたが、今回の『氷の下』もかなりハードボイルドなタッチで、中国東北部とロシアを舞台に、暗黒街に片足を突っ込んで生き延びていく男(黄渤/ホアン・ボー)と謎めいた女(宋佳/ソン・ジア)との関係を描いていきます。『人山人海』は割と好きな映画だったのですが、今回の『氷の下』はちょっとわかりにくく、あまり乗れませんでした。小瀋陽も、それから『レッドクリフ』の劉備役尤勇(ヨウ・ヨン/現在は尤勇智)も出演していたというのに。
Q&Aに登場したツァイ監督は、若いようにも年取ったようにも見える風貌で、小柄な通訳の樋口(渋谷)裕子さんがますます小柄に見えます。
市山:面白い作品で、フィルム・ノワールの法則を踏襲している作品だと思いました。ある男が犯罪にからんで逃亡、悪女と出会いさらに窮地に陥る、という筋ですね。なぜこの題材を選ばれたのか、ということと、なぜこのロケ地を選ばれたのか、ということをまずお聞きしたいと思います。
監督:フィルメックスに招いていただき、ありがとうございます。来て下さった観客の皆さんにも御礼を申し上げます。今、言って下さったことも嬉しかったのですが、本作は『人山人海』を撮る前から構想していた作品です。当時撮ろうと思っていた内容は激変する中国の姿で、『人山人海』は中国社会への怒りが込められていたのですが、次に撮る映画は、世界の底辺にいる人の姿とその魂を撮らなくてはいけないな、と思っていました。主人公の中年男は負け犬です。その負け犬がどうすれば普通の人間として生きていけるか、彼は金についてどう考えているのか、そういった我々がつい軽視してしまうことを描きたかったのです。英語題名の「The Conformist(迎合者)」が普通の人々の生き方を物語っているんですが、社会の大きな流れに流されてしまう生き方、そういうむなしい意味合いを持っています。
ロケ地は、冬の冷たい、きりっとした空気がほしかったので選びました。その中に人間の欲望が隠されている。人間の心の中は熱いが、それが氷に覆われているように外からは見えます。場所は中ロ国境で、少し前までは金儲けができる街として、代表的な場所でした。中国、ロシア、韓国などからみんなビジネスの夢を持って集まってきていたのです。犯罪と歓楽の街ですね。
市山:具体的にはハバロフスクですか?
監督:ロシア側はハバロフスクで、アムール川を隔てた中国側は撫遠(?)という街です。
Q:最後の虎は幻想的な世界だと思うのですが、最後にこれを入れた意図は?
監督:あの虎は、主人公の彼なのです。脚本を書いている時に、「ラスト5分は全然違うものにしたい。もしかして、自分はまったく違う映画を見ていたのか、と思わせるような作品にしたい」と思ったのです。で、虎のシーンは比喩のつもりで入れました。幻想と考えていただくのも当たっていると言えますが。実は、カットしたんですが、泥棒に入った2人の男が幻想を生じさせるクスリを飲む、というシーンがあったんです。危険な薬物をとる、という表現はダメな世界なのでカットしたのですが、それでわかりにくかったかも。ただ、あそこで表現したかったのは、人間の持つ動物性、ということです。
Q:この虎のシーンは海南島で撮られたのですか?
監督:そうです、海南島の三亜という所です。寒い所から暖かい所へ、という対比です。普段寒い所にいる人は、暖かい所に行きたがります。海南島には、中国の東北部から来た人とロシア人とがいっぱいいる、という面白い光景になっています。
Q:中国ではフィルム・ノワール、激動する中国社会の中で底辺の人々の生き方を追っていく作品、『薄氷の殺人』やこの間TIFFで上映された『迫り来る嵐』のような作品が、多くなっているのでしょうか。
監督:『白鹿原』はかなり長い時間を掛けて脚本を書いたことがわかる映画でしたが、とてもいい作品でしたね。『迫り来る嵐』はまだ見ていないのですが、これもいい作品だと聞いています。フィルム・ノワール的な作品が増えていく、ということは、また新たに一つのジャンルが増えると言うことで、いいことだと思います。人間の描き方が、一つ増えた、ということですね。
Q(中国人の男性の方でした):脚本を書く時は、どのような点にポイントを置かれますか? ストーリー性なのでしょうか? 繋ぎ方に概念的なものが強いように思われますが。
監督:いいご質問をありがとうございます。脚本を書く時は、2時間の中で物語を語り終えることを考えると、その中に収めねば、という考えについとらわれてしまいます。ただ、ストーリーを組み立てる時に、因果関係を明確すぎるものにはするまい、とは思っています。ある人物がいて、ある事件が起きると、それを直線的に解明するのではなくて、それに関わるいろいろなことを描いていくことを考えました。ある人物の変化、あるいは事件の進展、時にはある人物が下す判断によって物語が進んでいく、というやり方にしたんです。ハリウッド映画は因果関係がハッキリしたストーリーにしますが、そうではない作り方をしました。個人的な好みですが、1→2→3と進んでいくのは好きじゃないんです。1→3と来て、4まで来た時に2についての理由が語られるとか、そういうやり方ですね。観客にとってもチャレンジングで、頭を使って解いてもらうという形です。もっと簡単にしてもいいかな、という気もするんですが。
市山:『こころの湯』などの脚本も書いてらっしゃるのに、全然違いますね(笑)。『氷の下』は今週末に発表される台湾の金馬奨にも主演男優賞などでノミネートされています。中国ではこれから公開とのことですが、公開が成功することを祈っています。
監督:中国国内での上映についてはこれから決めるのですが、いい時期に公開したいと思っています。ありがとうございました。
(ちょっと長くなってしまうので、2つに分けます)