前回は思わせぶりなラストになってしまいましたが、その翌年、青天の霹靂がやって来ます。これが晴天の霹靂です。
「どこが?」とお思いになったあなた、下の方ですよ、下の方。「えー、きれいなデザインのチラシだしぃ、文字デザインもいいじゃない? DDLJって大きく書いてあるしぃ」そのDDLJの上下を見て、我々はびっくり仰天。『シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦』--はあああ????? ぬわんじゃ、これは?
これは、1999年9月25日に新宿東映パラス2で公開された時のチラシなのですが、その後12月18日から中野武蔵野ホールで上映された時のチラシを見ると、さらにこのタイトルの持つトホホ感がよく体感できます。
それにしても、その後10数年、引用するたびに頭に血が上るこんなタイトルが、なぜつけられてしまったのか。今となっては記憶が定かではなく、チラシやパンフレトにも記載がないため、頭文字で登場してもらうことにしますが、問題はその時宣伝等を担当したT社でした。私は長らくT社が配給したのだと思っていたのですが、今回、「インド映画完全ガイド」出版のためにいろいろ調べたところ、T社の名前はまったく出てこないため、宣伝協力か、あるいは劇場関連のアドバイザーという形での関与だったのかも知れません。
前回この映画は、提供:インドセンター/配給:インディア・アクション・プラン(株)、と書きましたが、このインディア・アクション・プラン(略称「IAP」)はインドセンターが作った会社でした。『DDLJ』のパンフレットにある紹介ページによると、「私達はインドでのビジネスプランと実行のお手伝いを致します」と謳われており、そこに「音楽」「映画」「輸入」「コンピューター・ソフトウェア」「ビジネス・サポート」といった文字が躍っています。つまり、純粋な映画配給会社ではなく、ビジネスの一環として映画も扱います、という会社だったのです。
もともと、インドセンター自体が同じようなことをする組織で、ヴィバウさんというもと政府要人の孫が日本とインドの民間交流をめざして作った組織なのです。ヴィバウさんはインド映画界には太いパイプがあるものの、インドセンターにしろIAPにしろ、映画配給に関してはズブの素人だったため、初めて本格的に配給することになった『DDLJ』に関しては、T社にいろいろ相談に乗ってもらったのではと思います。
IAPの人から当時聞いた話になるのですが、T社は「ラブゲット大作戦」というタイトルを提案し、目を引くタイトルを付けないと客が来ませんよ、という意味のことを言ったのだとか。『DDLJ』に思い入れのあるIAP側は強く抵抗したものの、結局「シャー・ルク・カーンのDDLJ」を付けることで妥協し、T社に押し切られる形でこのタイトルが決まった、というのが経緯のようでした。
©Yash Raj Films Pvt.Ltd.
でもこのタイトルは、皆さんもおわかりだと思いますが、非常にまずいタイトルです。「ラブゲット大作戦」は内容をある程度伝えているものの、語感からすると、テレビのバラエティー番組のような軽薄な印象を与えます。それ以上にまずいのは、「シャー・ルク・カーンのDDLJ」という部分でした。
1999年当時、日本人で「シャー・ルク・カーン」を知っている人が何人いたでしょうか? また、「DDLJ」という聞いたこともないアルファベットの並んだ外国語らしき文字を見て、「何の映画だろう? 見に行きたい」と思う人がいるでしょうか。ごく一部のインド映画ファンにわかるだけの、広がることが不可能なタイトルだったのです。
他にも宣伝力の問題等があって、9月25日に公開された『DDLJ』はあまり話題にならず、その後各地で上映されたものの、結局ビデオやDVD化の話も出ないまま日本での上映期限が切れてしまいました。その期限切れを目前にした2003年8月10日、銀座ヤマハホールでIAPによるイベントが行われて最終上映されたのですが、その時IAPが粋なことをやってくれました。
当時はまだ35ミリフィルムの時代で、上映期限が切れた作品のフィルムは日本でジャンクする(二度と上映に使えないように始末する)か、本国に送り返さないといけなかったのですが、IAPはイベントでの上映後フィルムを切って参加者に分けてくれたのです。結構長く、一人1m近くもらえたので、友人4人とそれぞれ4等分して分けて、4つのシーンを手にすることができました。とはいえ、一人あたり12~15コマなので、0.5秒分ぐらいにしかならないため、ほぼ同じ絵柄ばかりです。また、この作品はシネスコのため、35ミリフィルムには横がぎゅっと凝縮された形で写っていて、そこから写真に焼くこともできません。ものすごい細面というか、馬面のシャー・ルクとカージョルなんですね。もらったシーンは、このシーンの少し後のシーンです。
©Yash Raj Films Pvt.Ltd.
もらったシーンの字幕は、「インドの知らない奴と結婚する」「一生を共にするんだものな」「どうする?」で、あと1本は字幕なし。さあ、どこのシーンかおわかりですか? 今回やり直した字幕ではちょっと違っていたりしますが、ぜひ民博の上映で確かめてみて下さいね。8月8日(土)に『DDLJ 勇者は花嫁を奪う』という新しい題名で上映される、大阪の民博でのイベントの詳細はこちらです。
このフィルムの切れ端は、大学での授業で大活躍してくれています。まず、35ミリフィルムの説明に使え、サウンドトラックの実物を見せることができ、シネスコサイズの説明にも、さらには字幕の説明にも使えます。本当に大感謝!です。
さて、新しくなった字幕で見る『DDLJ』は? 前回の字幕の苦労話なども盛り込みながら、もう1回、このタイトルでおつきあい下さい。そうそう、最後に予告編を付けておきましょう。演奏バージョンです。そのほかの予告編は6月17日のブログに付けたので、そちらを見てみて下さいね。(つづく)
Dilwale Dulhania Le Jayenge - Trailer
懐かしい。長いけど全部同じ絵柄で残念だなぁと当時
思いました。
その頃、SRKの香水やTシャツ、DDLJの黄色い文字が入った赤いニット帽とかパンフレット等何でもらったか忘れましたが、いろいろ配られてましたよね。
タイトルで「何じゃそりゃ!」って一番怒りを覚えたのが”ミモラ”です。そんな意味不明なタイトルを見て、一体誰がその映画を観たいと思うのかって今でも思います。
あの会場にいらしたのですね。
私たち4人も順番がかたまっていてほぼ同じ所をもらったので、もっと別の所がほしかったなー、とあとになって思いました。
シャー・ルク・カーンの香水ももらいましたね、そういえば。
最初あの香水が『DDLJ』公開に合わせて出てきた時、「何か違う...」と思ったのでした。
力入れるのは、香水やないやろっ!
『ミモラ』も提供はインドセンターで、同様のケースです。
こちらは「ニンブーラー」の聞き間違いなので、さらにひどいですね。このことは以前ブログに書いたので、こちらをご参照下さい。
http://blog.goo.ne.jp/cinemaasia/e/af12e3626e7799028d13a805be982e90
もう起こってほしくないトホホな間違い。
いやー、まだまだ起こるかもしれませんね。
大倉崇裕の『無法地帯』という小説の冒頭で、怪獣マニアの主人公がてっきり怪獣映画だと思い込んで『ミモラ』を上映している映画館に入ってしまうという超爆笑のエピソードが出てくるのです。
「そんな意味不明なタイトルを見て、一体誰がその映画を観たいと思うのかって」いうと、実は怪獣マニアだったのですね(笑)
ええっ、そんな所にも『ミモラ』が登場とは!
確かに、「怪獣の名前かと思った」と当時書いていた人もいましたね。
何はともあれ、邦題は付くまで大変です....。