アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

@シンガポール:毎日2本立ての日々

2011-08-19 | アジア映画全般

シンガポールまで来たら、ネットに接続ができるようになりました。泊まっているのはリトル・インディアの安ホテルなのですが、カード式鍵のケースにちゃんとWiFiのパスワードが書いてあって、それを入れるとすぐに接続できました。さすが、ハイテクのシンガポール・・・とここまで書いて一昨日の夜寝てしまったら、昨日は朝から接続できず大あわて。夜もフロントの人を巻き込んで大騒ぎしたのですが、やっぱりつながらず。WiFiとこのパソコンの相性が悪いようです。

で、あきらめて「また、ケータイ投稿かあ」(しんどいんですよ、長文を打つのは....)と落ち込みつつ朝食を食べながら打ち込み始めたら、朝食後に通ったフロントの女性が、「昨日ネットがつながらなかったんですって? 有線でやってみれば?」とケーブルを貸してくれました。おお、シンガポールのホテルにはちゃんとジャックの口がついているのか! タイのホテルではなかったので、ここも無線のみだと思いこんでいました。しかし、それなら昨夜言ってちょうだいよ~(泣)。

というわけで、まずはリトル・インディアの夜景を。ミールズ(南インド風定食)がおいしいコーマラ・ヴィラース食堂です。お隣の右側は質屋さん。「當」と書いてあるのが「質屋」という意味です。なぜか、リトル・インディアには質屋が目立ちます。金のアクセサリーとか質入れする人が多いのかしら?

こちらでは、まだインド映画の雑誌が出版されています。シンガポールとマレーシア限定の映画雑誌、「ムービーランド」と「シルバー・スクリーン」です。基本的に英語で、一部タミル語が入ったりしています。

昨日と一昨日は2本ずつ映画を見ました。一昨日は、中国映画というか香港の陳可辛(ピーター・チャン)監督の『武侠』と、インド映画『人生は二度ない』 (原題:Zindagi Na Milegi Dobara)です。この両方を続けてみるために、ずっと北の方のイーシュン(義順)まで出張ってきました。これがイーシュンのGV(ゴールデン・ヴィレッジ)チェーンの映画館です。

中心部から30分MRTに乗り、はるばる行ったのに、この2本はいまひとつの出来。特に『武侠』はがっかりでした。過去を隠し、紙漉職人として妻(タン・ウェイ)や2人の子と暮らしている男(ドニー・イェン)が、たまたま盗賊2人を倒したことで警察官(金城武)の目を引き、その過去があばかれていく、というストーリーなんですが、冒頭にアクションはあるものの、その後エンエン謎解きが続き、さらにそれも思わせぶりな展開ばかりで、ちっともすっきりしません。どうにもくどい映画でした。セットとかお金を掛けているのに、しかもスターが出ているというのに、香港であっというまに上映が終わってしまったのもさもありなん、です。

『人生は二度ない』もほぼ全編スペイン・ロケで、お金が掛かっています。もうすぐ結婚する青年(アバイ・デオル)がバチェラー・パーティーならぬバチェラー・ジャーニーを計画、親友の2人(リティク・ローシャンとファルハーン・アクタル)と共に気ままなスペインのドライブを続ける、というお話です。旅先で出会うのが、ダイビング・インストラクターのカトリーナ・カイフ。恋もアバンチュールもお祭りもあって、と見どころ満載のはずが、盛り上がりに欠ける仕上がりになってしまっていて残念。日本人として盛り上がったのは、リティクの役がワーカホリックの株ディーラーとかで、顧客の山本さんとネットを使って画像面談をするシーン。「モシモシ、ヤマモトサンデスカ? ドウモ」とか言いながら、リティクのお辞儀する姿には大笑いでした。

実は場内大笑い、と書きたいのですが、観客は私と、あとインド系の女性2人だけ。この女性2人が何があってもすぐ笑う人たちで、おかげで楽しく見られたのですが、グッと来たのはファルハーン・アクタルが両親の離婚によりずーっと会ってなかった父親と再会するシーンだけ。あとはバブリーな映画にうんざりしながら見てました。こんなにスターを、しかも演技上手な人を揃えながら、勿体ないわねー、ゾーヤー・アクタル監督。ファルハーンお兄ちゃん(それとも弟? 双子なんですって)に、脚本とかもっと助けてもらえばよかったのに。

で、昨日はインド映画2本立てにし、中心部のビーチ・ロードにあるショウ・タワーズの映画館ボンベイ・トーキーズへ。ここでは3本か4本、時間代わりでインド映画を上映しているので、効率よく見られます。ここでは『シンガム』『留保制度』 (原題:Aarakshan)を見ました。『デリー・ベリー』も上映中だったのですが、3本見ていると終了が真夜中になるので、2本だけにした次第です。夕方の回からは結構インド系の観客が詰めかけてきて、賑わっていました。

『シンガム』はタミル語映画のスーリヤ主演作のリメイクで、アジャイ・デーウガンが主人公の警部シンガムを演じています。まず面白かったのは、セリフがマラーティー語混じりのヒンディー語だったこと。マハーラーシュトラ州の村の警察、という設定で始まるので、そのせいもあるのでしょうが、ヒンディー語のボリウッド映画がオシャレになりすぎて、コテコテの娯楽作を欲する観客はマラーティー語映画やボージプリー語映画に走っている、という現実をふまえ、「これは皆さんの大好きなコテコテ娯楽作ですよ」というサインにマラーティー語まじりのセリフを使ったのでは、と思われます。なかなか、雰囲気が出ていてよかったです。

お話は、村では皆に絶大な信頼を寄せられていたシンガムが、村に来たゴアの顔役をも屈服させたことでうらみを買い、今度はゴアに転勤に。顔役は、ここは自分のテリトリーだとばかりシンガムの息の根を止めようとしますが、警察全体を味方に引き込み、シンガムは村のやり方と同じ方法で顔役を追いつめていく....というもの。シンガム的な村の手法が都会の警官をも魅了していく、というところも面白く、現実にはありえないとわかっていても、警察全体が「陰謀」に荷担していくシーンは見応えがあります。もうちょっと荒唐無稽さをそぎ落としていたら、光る作品になっていたかも。

そして、最後に見た『留保制度』 (上はポスター2種)がまさに光る作品でした。留保制度、英語でreservationと呼ばれるのは、今は「ダリト」と呼ばれる被差別カーストや、被差別トライブに対し、大学入学枠や公務員採用枠などに優先制度を設けるシステムです。たとえば大学では、入学者の何%はこういった出自の学生にしなければならない(この映画では、優先枠が27%になった時のことが描かれていました)、と決められているもので、点数が低くても枠の数だけ入学できます。これは、貧しさや差別故に教育を受ける機会が狭められている、という観点からこういう措置が執られているものですが、「逆差別だ」といった批判が高位カーストから出たりしています。

映画の主人公は、有名私立大学の学長プラバーカル(アミターブ・バッチャン)。彼はダリトの人々に対し、というか、困っている人には誰にでも対して手をさしのべる人で、経済的に困っていれば個人的に金を貸し、学問が遅れていれば自宅で無料の補習塾を開く、といった具合に学生たちを助けています。そのため人望は厚く、この大学の顔とも言えました。彼が教えた優秀なダリトの学生ディーパク(サイフ・アリー・カーン)は、国内の大学ではその出自ゆえになかなか採用されず、アメリカに行くことになっていましたが、彼はプラバーカルの一人娘プールビー(ディーピカー・パードゥコーン)と恋仲でもありました。

ところが、原則に厳しいプラバーカルに反発する人間もいて、理事会の思惑で副学長になったミティレーシュ(マノージ・バージパーイー)もその1人。彼は大規模な塾を経営し、金さえもらえば裏口入学も、といったタイプの人間です。大学の授業そっちのけで塾で教えていた現場をプラバーカルに見られ、自分の地位が危うくなったミティレーシュは、プラバーカルの追い落としを画策、ついに彼を辞職に追い込み、自分が学長になります。プラバーカルはその後、知人の牧場を借りて無料の補習塾を開きますが、そちらの評判が高くなると、ミティレーシュは今度はプラバーカルの塾をつぶそうとします。牧場は政府の土地を借りていたものだったことから、それを取り上げる強制収用が強引に始まり、プラバーカルらは体を張って阻止しようとします。そこへ、学生たちやダリトの人々がかけつけ、プラバーカルの呼びかけで強制収用側の労働者たちも加わって、あわや一触即発の事態が....。

私の説明は下手で申し訳ありませんが、脚本が実に上手に出来ており、プラバーカルがその潔癖さや親切心ゆえにどんどん苦境に陥っていく様がリアルに描かれています。ダリトだから、というのではなく、彼はどんな人でも困っているなら助けようとするのですが、それが誤解されて、政治的に偏っているとされてしまうところなど、うまい脚本にうなりました。ただ、最後、権力を民衆の力でねじ伏せるのではなく、もっと上の権力と結びついたコネを使うことによって解決する、という点がちょっと残念です。そのあたり、『シンガム』の方に拍手したくなります。

『留保制度』がインドで問題になっていることは、「インド映画通信」の記事で知りましたが、その元記事にあったようなダリトたちに対する差別的なセリフはあるものの、差別している側を描かないと真実が伝わらないのも事実。よく見ると、監督のプラカーシュ・ジャーは非常に気をつけてセリフを書いているのがわかり、こういった批判は的はずれだとは思いますが、まあ、インドでは、「あのセリフは差別を助長する」といった反応があるのもわからないではありません。とはいえ、実際に見た人は、インドのカースト問題と教育問題をもう一度考え直すことでしょう。

さて、明日はまた香港へ移動するのですが、今度はネット環境はどうでしょう? 有線が使えるといいのですが。


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