香港は先週からずっと雨のようで、各地で浸水や崖崩れの被害が発生するなど、大荒れの模様です。九龍半島側では、黄大仙駅や鑚石山駅などの線路や通路が水浸しになったりしてしばらく閉鎖され、やっと今日電車も駅に停まるようになったと思ったらまた閉鎖、と、香港の人にとっても初めてと言っていい程の水害被害のようで、「世紀暴雨」などというタイトルが一連のニュースには付けられています。また、香港島南部の紅山半島では、住宅地として開発された地区の土台が崖崩れを起こし、数棟が一部、宙に浮く状態になりました。あれはもう、住宅を壊すしかないのでは、と思います。そんなこんなの香港ですが、土・日はショッピングモールが激混みでしたし、私が「ひえ~、こんなに高いの!?」となるようなレストランにも人がよく入っていて、景気としては高止まりという感じです。とはいえ、繁華街でシャッターが閉まっている店も多く、いつも買いに行く銅鑼湾のドライフルーツ屋さんも姿を消していました。
もう1軒の老舗お菓子屋さん、陳意齋が無事営業していたのと、大好きな「緑観音(普通は鉄観音ですが、ここのは違うのです)」のお茶を売っているお茶屋さんも、店員さんがさらにお年を召してはおられましたが、ちゃんと営業中でホッとしました。
あと、三聯書店も中環街市(リニューアルされて、公設市場は姿を消し、文化と食のセンターみたいになっていた)の向かいにちゃんとあり、油麻地の中華書局も無事、商務印書館も一部が姿を消したものの、他の場所に新たに店舗が出現したりしていて、これも安心しました。どこの本屋も、一部に「香港ノスタルジー」と言っていいコーナーがあり、下の三連書店のコーナーは1980年代の香港ポップスに関連する本が並べてありました。
文具の置いてある2階にはこんなコーナーも。そうなんです、9月12日は2003年に亡くなったレスリー・チャン(張國榮)のお誕生日なんですね。レスリーが主演した映画の上映も行われたり、ピークにあるマダム・タッソーの展示館では、レスリーの蝋人形に献花台が置かれたりするようです。
で、そんな中、中国映画を2本と台湾映画、それから韓国映画だと思うのですが、アート系の作品を1本見てきました。面白い順に、ちょっとご紹介しておきます。
『請問、還有[口那]裡需要加強』
2023年/台湾/北京語、台湾語、タイ語/英題:Miss Shampoo
監督:九把刀(ギデンズ・コー)
出演:春風、宋藝樺(ビビアン・ソン)、柯震東(クー・チェンドン)
タイトルは、美容院でシャンプーをしてもらう時に「ほかにかゆい所はございませんか?」というあの美容師さんの問いかけの台湾版のようです。まだ一人前の美容師になれなくて、遅くまで残ってマネキンの頭相手にカット練習をしていたファン(ビビアン・ソン)の店へ、ぬっと入ってきたのは傷だらけの長髪の男泰哥(春風)。追われている彼をかくまったファンに恩義を感じたのか、ファンの美容院に泰哥が姿を見せて、カットを頼むようになります。すると、彼の組の構成員も次々にやってきて、店は大繁盛。特に泰哥の身内を自認する3人、高脚仔(クー・チェンドン)と他の二人は、泰哥のカット中は店の前に陣取り、彼をガードします。そのついでに、美容師に惚れる構成員も出現し、もう大変。しかし、泰哥を始末し損ねた相手は、しつこく彼を狙っていたのでした...。
九把刀監督と言えば、『あの頃、君を追いかけた』(2011)等、ユニークな青春映画をいろいろ撮っている、作家兼監督の才人ですが、今回の作品も才気に溢れるものでもう大笑い。主演のうち、ビビアン・ソンとクー・チェンドンは九把刀監督組の常連ですが、もう一人の春風はバンドをやっている人だそうで、小熊のような顔立ちで、ヤーさんには見えません。そういうズレを思い切り楽しませてくれる作品で、しかも台北電影節のオープニング作品だったとかで、それにもひっかけてやりたい放題。日本では公開されないのでは、と思うので言ってしまいますが、結末がひっくり返るのです。「えー、いいのォ?」「いいんだよ、どうせお祝い映画だから」。そしてエンドロールは途中で歌の尺が足りなくなり、「音楽が足りなくなったから、俺たちで間を持たせろ、だって」と、監督とビビアン・ソンらがトークを繰り広げるという、ホントに人を食った、楽しい作品でした。ま、ツッコミどころもたくさんあって、野球少年がドロップアウトしたって、そこまで紋身入れるか? とか、ぎゃあぎゃあみんなで言い合いながら見たい作品です。予告編もどうぞ。
7.28全台上映【請問,還有哪裡需要加強】首支心愛版預告
『熱烈』
2023年/中国/北京語/英題:One and Only
監督:大鵬(ダーポン)
出演:黄渤(ホアン・ボー)、王一博(ワン・イーボー)
こちらは、ストリートダンスに身を捧げる若者たちと、彼らを導いていくダンス教師兼マネージャーの丁(ホアン・ボー)の物語です。主人公シュオ(ワン・イーボー)は父亡き後、母を助けてマダム・タッソーの館風に、アインシュタインやら孫悟空やらの蝋人形が飾られた食堂をやっていました。それでもお金が足りないので、洗車のアルバイトなどもしています。でも、シュオが本当になりたいのは、ストリート・ダンサーでした。そんな彼に目を付けたのは、主力ダンサーに抜けられたプロダクションのオーナー、丁でした。よき仲間と指導者を得て、シュオの技は伸びていき、コンテストにみんなと一緒に出ることになりますが...。
ワン・イーボー自身が踊っているのだと思いますが、メットを被って頭を軸にして回転するなど、高度テクニックを駆使したダンスがすごかったです。ホアン・ボーも人情味溢れる指導者として、キャラ作りがいつもながらうまくて引き込まれてしまいます。また、お母さん役の劉敏濤は木村多江のそっくりさんで、美人の上歌も上手いと、役者たちの魅力がいっぱいの作品でした。観客は少なかったのですが、みなさんエンドロールが終わるまで席を立たず、感動に身を任せている、という感じでした。予告編を付けておきます。
黃渤、王一博領銜主演《熱烈》 電影預告,8月31日香港上映
『長安三萬里』
2023年/中国/北京語/英題:Chang An
監督:謝君偉、鄒靖
時代劇アニメですが、大人向けの内容で、歴史をよく知っていないと楽しめない作品でした。唐の時代、安禄山の乱が終結した頃、吐蕃が攻め入ってくるのに対峙する老練な軍人の高適将軍は、昔、若い頃知り合った詩人李白のことを思い出します。二人の交流は途切れては続き、今、隠棲しようとする高適の荷にも李白の詩集が入っているのですが、思い出すと何やら複雑な2人の関係でした...。絵は非常にきれいで、特に布の質感をあそこまで出せるアニメは初めてではないかと思います。その一方で、人物の表情や動作は魅力的とは言えず、馬も末端肥大の反対の描き方だったりと、全体のバランスが悪いアニメーションでした。予告編を付けておきます。
電影預告《長安三萬里》Chang An【anifest 動画藝術祭 2023】
もう1本、韓国映画を見たのですが、うーん、な作品だったので、パス。『Past Lives』でセリーヌ・ソンという監督の作品でした。では、あとは戻ってからまた、香港の物価のお話などを。そうそう、香港の映画料金は今、だいたいどこも110香港ドル(約2,000円)です。早朝というか、初回割引があって、75ドルだったり、60ドルだったりしますが、それでも普通の人はそんな朝10時とか11時とかからは見られませんから、映画館がすいているはずですね。みんな、この物価高に見合うお給料をもらっているのでしょうか? なお、私はほぼ全部、シニア料金を適用してもらって、60ドル→25ドル、110ドル→70ドル、120ドル→85ドルで見られて大変ありがたかったです。