アジア映画巡礼

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追悼:ヤシュ・ラージ・チョープラー

2012-11-07 | インド映画

冠婚葬祭はあまり取り扱わない本ブログですが、どうしても書いておかなきゃ、という方が亡くなったので、追悼記事を書いてみました。監督として数々のヒット映画を世に送り、また、大手映画製作会社ヤシュ・ラージ・フィルムズのトップとしてインド映画界に貢献したヤシュ・チョープラー(正式名:ヤシュ・ラージ・チョープラー)氏が、10月21日にムンバイのリーラーワティー病院で亡くなりました。享年80。私もこのブログへのアールゴービーさんのコメントで知ったのですが、突然とも言えるご逝去でした。

上の写真は、先日ムンバイ映画祭に参加した友人が撮ってきてくれた、ヤシュ・チョープラーの遺影です。ヤシュ・ラージ・フィルムズとも親しいその友人が教えてくれたのですが、死亡時に発表された死因は「多臓器不全」となっているものの、病名はデング熱(蚊によってウィルスが媒介される熱性疾患)だったそうです。日本人の旅行者や滞在者もよくかかるデング熱。お年を召していたので、体力が持たなかったのかも知れません。

熱が出て入院したのは10月13日ですが、その直前、10月10日には俳優アミターブ・バッチャンの70歳を祝う誕生日パーティーに参加。また、9月には、自身の80歳のお誕生日(9月27日)と、11月13日に公開される最新監督作『命ある限り(Jab Tak Hai Jaan)』を記念したシャー・ルク・カーンとのトークショーに出演、2時間近いトークを繰り広げたのでした。このトークは、こちらで見ることができます。シャー・ルクの、ヤシュ・チョープラー監督作品の引用朗読から始まり、残念ながらほとんどがヒンディー語ですが、監督の業績が聞き上手なシャー・ルクによって丁寧に紹介されていきます。

ヤシュ・チョープラーの生涯を簡単に辿ると、1932年9月27日、パンジャーブ地方のラーホールに生まれます。エンジニアになるという希望があったものの、兄のB.R.チョープラー(正式名:バルデーウ・ラージ・チョープラー)がすでに映画界で仕事をしており、インド・パキスタン分離独立時にデリーを経てムンバイ(当時はボンベイ)に移り住んでいたため、1951年から兄の手伝いをすることになります。B.R.チョープラーも大物プロデューサー、監督として活躍した人で、1950年代からヒットを連発していたほか、1980年には『正義の秤(Insaaf Ka Taraazu)』 というハリウッド映画『リップスティック』を翻案した映画を大ヒットさせたりして、1990年代まで映画界で活躍した人でした。

上の写真は、1983年のインド国際映画祭でのB.R.チョープラー夫妻(右側2人)です。左は、この後テレビドラマ「ラーマーヤナ」を大ヒットさせることになる、監督・プロデューサーのラーマーナンド・サーガルです。B.R.チョープラーは、2008年11月7日、94歳で亡くなっています。

ヤシュ・チョープラーが兄のプロデュ-スで監督第1作を世に出したのが1959年。『土埃の花(Dhool Ka Phool)』という作品でした。1960年代にもヒット作を出しているものの、ヤシュ・チョープラーの名前が大衆によく知られるようになったのは1970年代でした。特に、『壁(Deewar)』 (1975)から始まるアミターブ・バッチャンとのコンビ作品は、『時として(Kabhi Kabhie)』 (1976)、『三叉戟(Trishul)』 (1978)、『黒いダイヤ(Kaala Ppatthar)』 (1979)、『愛の関係(Silsila)』 (1980)といずれもスーパーヒット。前述のトークショーでシャー・ルクが最初に朗読したのも、『時として』の一節でした。『時として』の予告編はこちら。この中では、『黒いダイヤ』が日本でも映画祭上映されています。

その後、当時大人気だった女優シュリーデーヴィーを起用した作品『チャーンドニー(Chandni)』 (1989)と『ひととき(Lamhe)』 (1991)も大ヒット。観客はシュリーデーヴィーの新しい魅力、素晴らしい演技に目を見張ります。それを引き出したのが、ヤシュ・チョープラーでした。『チャーンドニー』の大ヒットした歌はこちらとかこちら『ひととき』の何度見ても楽しいパロディ・ソング・メドレーはこちら。インド映画の最も素晴らしいシーンの1つです。ワヒーダーさん(ワヒーダー・ラフマーン)の箇所になると、今でも感動して涙が出てしまいます。

上の写真は、1995年にムンバイのスタジオで会ったヤシュ・チョープラーです。この頃彼は、もう1人のヒーローを見つけていました。それがシャー・ルク・カーンです。自身の監督作では『恐怖(Darr)』 (1993)、『心狂おしく(Dil To Pagal Hai)』 (1997)、『ヴィールとザーラー(Veer-Zaara)』 (2004)、そして遺作となった『命ある限り(Jab Tak Hai Jaan)』 (2012)。さらにプロデュース作品では、これらの作品の他、『シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦(Dilwale Dulhaniya Le Jaayenge)』 (1995)、『様々な愛(Mohabbatein)』 (2000)、『行け行け!インド(Chak De! India)』 (2007)、『Rab Ne Bana Di Jodi』 (2008)と、シャー・ルクの代表作は多くがヤシュ・ラージ・フィルムズの作品なのです。

 

上は、『~DDLJ~』の日本公開時のチラシです。カラン・ジョーハルとシャー・ルクとの出会いもこの作品(カラン・ジョーハルはシャー・ルクの友人役で出演)なので、その後に続くカラン・ジョーハル監督作品も、ヤシュ・ラージ・フィルムズが準備したと言ってもいいでしょう。カラン・ジョーハルの会社であるダルマー・プロダクションで作られた『たとえ明日が来なくても(Kal Ho Naa Ho)』 (2003)の中で、登場人物たちが「愛(pyaar)」について語るシーンがあり(1時間13分ぐらいのところ)、グルという名のヤクザな見合い相手(ラージパール・ヤーダウ)は『DDLJ』のラージの格好をして登場し、「Pyaar. Yash Chopra ke geet」と言います。「愛か。ヤシュ・チョープラーの(映画の)歌詞だな」なのですが、字幕では「愛は映画音楽の歌詞」という訳にしてあります。ヤシュ・チョープラーは生涯、愛を描いた人だったのです。

そんなヤシュ・チョープラーの遺作『命ある限り』。見てみたいですね~。上は、前述の友人がおみやげに買ってきてくれたCDのライナー・ジャケットです。この映画の予告編(ヤシュ・ラージ・フィルムズの歩みも辿れます)に歌のシーンのあれこれやは、もうYouTubeにアップされ、あとは1週間後の公開を待つばかり。11月13日(火)という半端な曜日での公開は、この日からインド最大のお祭りディワーリーの休日が始まるからなのでした。日本では、来年3月にヤシュ・ラージ・フィルムズ製作の『タイガーが1人いた(Ek Tha Tiger)』(仮題)の公開が決まっています。ついでに『命ある限り』も公開されないかしら、と密かに期待しているんですが...。

ヤシュ・ラージ・チョープラー様、あなたのご冥福をお祈りすると共に、あなたのこれまでの素晴らしい作品群に感謝し、あなたの作品がもっともっともっと日本で公開されるよう願っています。最後に、ヤシュ・ラージ・フィルムズの公式サイトを付けておきますね。

 


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4 コメント

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Unknown (Maymay)
2012-11-08 16:46:58
ヤシュjiの経歴、作品等をまとめてくださり
ありがとうございました。
胸熱くして読んでしまいましたよ(T_T)
私も最初に訃報を聞いた時、
あまりに急なことで声も出ませんでした。
その1か月前にシャールクと一緒のトークショーに
矍鑠とした姿で登場していたのに。
私の見ている一番古い作品は大インド映画祭の
『黒いダイヤ』でしょうか。
炭鉱に集まる男達を描いたかなり骨太な映画でしたね。
あぁもう全部観たい!観なくては!
題名通り彼の魂がこめられているはずの『命ある限り』、
是非公開してほしいですっ(力が入りますよね)
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Maymay様 (cinetama)
2012-11-08 21:06:39
コメント、ありがとうごさいました。

『黒いダイヤ』は国際交流基金主催の<インド映画祭1998>で上映されたのですが、その時ご覧になったのですね。最後の炭鉱内事故のシーンといい、おっしゃる通り骨太な作品でした。炭鉱労働者役のアミターブ・バッチャンもですが、ソーナークシー・シンハー(『肝っ玉男』や『乱暴者ラートール』のヒロイン)のお父さん、シャトルグナ・シンハーの暴れ者役がカッコよかったです。

プサン国際映画祭では以前ヤシュ・チョープラーの特集上映をやっているので、日本でも何かできませんかねー。
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Unknown (アールゴービー)
2012-11-09 23:32:22
JAB TAK HAI JAANのCD、毎日ヤシュ・チョープラー監督を偲びながら聴いています。
確かにどの作品も''愛''をかんじますね。
監督の特集、ぜひやってほしいです。
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アールゴービー様 (cinetama)
2012-11-10 10:10:58
コメント、ありがとうごさいました。

「JTHJ」(と略すらしいです)の曲は、さすがA.R.ラフマーンという感じで、ヤシュ・チョープラー監督のロマンス路線にうまく乗っけてありながらも、斬新な音作りになっていますね。この音を大画面で聞きたいです~。(うちのパソコンで聞いてもいい音なので、さぞかし....)
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