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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

インドのスッパルヒーロー『パッドマン』!

2018-09-08 | インド映画

大学の集中講義+αで地獄の4日間を過ごしていましたので、ご紹介するのが遅くなってしまいました。やっと口チャックを開くことができて嬉しい作品、『パッドマン 5億人の女性を救った男』が12月7日(金)に公開となります。まだ3か月先でしょ、と言われそうですが、3か月前には、この作品の字幕翻訳をさせていただいていた私は、クライマックスの演説を訳しながら目にじわ~っと涙を浮かべていたのでした。やっと公式サイトができて、映画関係の情報ページにも続々と報道がアップ、さらには日本版ウィキペディアまでできてしまっている本作は、実在の人物アルナーチャラム・ムルガナンダム氏がモデルとなっています。

この人は名前からもわかるようにタミル・ナードゥ州の人で(インド映画ファンなら、『アルナーチャラム 踊るスーパースター』と、1997年のラジニカーント主演映画のタイトルがすぐ浮かびますよね)、コインバトール出身。新婚の妻が生理の手当に汚い布を使っているのを見て心を痛め、自らナプキン=パッドを手作りしてしまったという愛妻家です。しかしながら、女性の生理について面と向かって話題にするのはタブーであるインド社会のこと、性能のいいナプキンを作ろうと努力すればするほど変人扱いされ、やがては村八分のような状態に。それでもさらに研究を重ね、清潔なナプキンが簡単に作れる簡易機械を発明、それで作ったナプキンを女性たちが村や町で売り歩くというシステムを考え出した人なのですが、やがては女性たちが銀行ローンを組んで簡易機械を購入し、ナプキン製造販売業を起業できる道も開いたという、偉大な人物です。だから、インドのほぼ全女性を救った、ということで、こんな副題が付いたのですね。


映画では、舞台をタミル・ナードゥ州からマディヤ・プラデーシュ州の都市インドールに近い町マヘーシュワルに移し、ナルマダ河に沿って広がるこの田舎町で、主人公のラクシュミことラクシュミカント・チャウハン(アクシャイ・クマール)が妻ガヤトリ(ラーディカー・アープテー)と結婚式を挙げるシーンから始まります。小さな作業所を仲間と共に経営しているラクシュミは、ともかく工夫の好きな男で、いろんな物を妻のために発明というか工夫して作るのですが、その延長線上にナプキンもあった、というのがよくわかる導入部になっていて、なかなか面白いです。前半は、2人の愛情物語に「生理」がくさびのように打ち込まれ、それが家庭に影を落としていって、妻が実家に帰らざるを得なくなるまでを描きます。


後半は、ナプキン研究のためインドールに出て、大学教授の家に住み込んで知識を得ようとしたものの、自分のやるべきことに気づき、ナプキン製造の簡易機械を作ることに心血を注ぐラクシュミが描かれます。その過程で、ラクシュミは自分のもっともよき理解者となるデリーから来た女性、パリー(ソーナム・カプール)と出会います。パリーの父親はデリーのIIT(インド工科大学)の教授で、IITで開かれる発明大会のようなイベントにラクシュミのナプキン製造機を出品させ、それをきっかけにラクシュミとパリーはますます深く結びついていくことに。このあたりはフィクションではと思うのですが、ソーナム・カプールがパリーにピッタリで、なかなか楽しいシーンが続きます。さらに、国連から演説を頼まれたり(これが、最初に書いた感動シーン)、名誉ある国の勲章パドマシュリをもらったりするのですが、妻帯者であるラクシュミとパリーの恋は....、というわけで、あとは映画をご覧になって下さいね。


生理ナプキンに関して言えば、私も1970年代の後半、どの年だったのか忘れましたが(1975年からは毎年インドに行っているのです)、デリーのコンノート・プレイスに近い薬局でナプキンを買ったことがあります。その頃は毎年、1か月近くインドを旅行していたため、必ずナプキンを持って行く羽目になったのですが、たまたまその年は途中で足りなくなりそうで、買いに走ったのでした。買ってみると「えええ~」という感じで、ぼわんとした分厚いナプキンが個別包装されずにそのままビニール包装に入っていて、しかも買う人がめったにいないのか、包装の外側はほこりだらけ。うむむ、大丈夫かなあ、と思いながら2、3枚使った憶えがあります。当時の値段は忘れたのですが、本作では2001年の設定で、ナプキンが1袋55ルピーとされていて、「そんなに高いもの、とても使えないわ」と妻のガヤトリが拒否するシーンが出て来ます。確かに、20年近く前の地方都市の物価なら、55ルピーあれば豪華な食事ができたでしょうから、今の日本で「ナプキン1000円」と言われたようなものなのかも。


こんな風に、目配りのきいたきめ細やかな脚本を書いたのは、監督のR.バールキ(上写真右)。単独脚本ではないのですが、以前の作品『Cheeni Kum(砂糖は控え目)』(2007)などに見られた、地味ながら着実な会話が今回も生きています。「今回も」と言えば、バールキ監督作には大スターのアミターブ・バッチャンが出演することでも知られていますが、今回も、前作『キ&カ~彼女と彼~』(2016)と同じくアミターブがカメオ出演。招かれたゲストのアミターブ・バッチャンがラクシュミの偉業を誉める、というシーンで、「アメリカにはスーパーマン、バットマン、スパイダーマンがいる。だが、インドにはパッドマンがいる!」と演説して、会場を沸かせてくれます。字数の都合でアメリカの「~マン」は1人落としてありますが、皆さんのお耳には聞こえると思います。

そして、アミターブ・バッチャンのカメオ出演と言えば、日本公開作で忘れられないのが『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)。この作品のガウリ・シンデー監督はバールキ監督の夫人で、上写真のように、『マダム・イン・ニューヨーク』という邦題も決まっていなかった2013年9月のあいち国際女性映画祭で上映され、ご夫妻で来日したのでした。バールキ監督は、『マダム・イン・ニューヨーク』のプロデューサーも務めていたのです。この写真は『マダム・イン・ニューヨーク』の提供元ビオスコープ社の方からいただいたのですが、その5年後にバールキ監督作品の公開が決まるとは。またお2人で来日してほしいものですね。なお、『マダム・イン・ニューヨーク』は、本年2月24日に亡くなった主演女優シュリデヴィの追悼上映として、10月20日(土)から1週間限定で、横浜のシネマ・ジャック&ベティで上映されるそうです。『パッドマン』の予習としてもぜひどうぞ。劇場のお知らせサイトはこちらです。

日本版予告編がまだできていないので、インド版予告編を、と思ったのですが、それよりもセリフが少なくて、楽しい主題歌をフィーチャーした映像を付けておきます。「スーパーヒーロー」をインド風になまって「スッパルヒーロー」と歌っているのが、よけいに弾みを付けてくれて楽しいです。皆さんもご一緒に「♫スッパルヒーロー、スッパルヒーロー、スッパルヒーロー、ハイハイハイハイ♫」と歌ってみて下さいね。

The Pad Man Song | Padman | Akshay Kumar & Sonam Kapoor | Mika | Amit Trivedi | Kausar | Superhero

 

試写を拝見してから、またデータ等を入れた正式なご紹介をアップします。以前の紹介としては、この映画を今年3月にインドで見た時に書いた感想があるのですが、ちょっとけなしてしまい、すみません;;(あ、間違いもある。前半の町もインドールの一部だと思っていたのでした)。12月の公開まで、息の長い紹介を続けていきますので、『パッドマン』をどうぞよろしく。



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3 コメント

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Unknown (大旦那)
2019-04-22 18:47:23
いつも記事を楽しみにしています。

さて、ムルガナンダム氏の読み方が、
ムルガナンサムとなっているものも多いです。

どちらが正しいですか?
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大旦那様 (cinetama)
2019-04-22 20:50:47
コメント、というか、ご質問ありがとうございました。

「ムルガナンサム」は間違いです。
この人のお名前は、英語というかローマナイズで書くと次のようになります。
Arunachalam Muruganantham
アルナーチャラム・ムルガナンダム

ローマナイズの「tha」を英語読みにしてしまったので、「サ」という誤表記になったものと思われますが、これはタミル語では「タ」または「ダ」と読むべき音です。
タミル語の監修者の方にうかがうと、「ダ」の表記の方がいいでしょう、とのことだったので、「ムルガナンダム」にして下さるよう、配給会社にお願いしました。
というわけで、今後は「ムルガナンダム」氏とお呼び下さい。
返信する
Unknown (大旦那)
2019-04-22 21:16:21
早速のお返事、ありがとうございます。

「ダ」と読み書きすることにします
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