TPP審議入りへ 野党「資料出せ、甘利氏呼べ!」(16/04/05)
<米民主・共和両党の大統領候補であるヒラリーとトランプも、盟友も重鎮もTPPには反対。果たしてオバマの在任中に議会の承認は得られるか>(写真は7月の民主党全国大会。ヒラリーは候補指名を得るためにTPP反対に傾いた)
こんなはずではなかった。1年前には、TPP(環太平洋経済連携協定)の批准は簡単と思われていた。協定が発効すれば、世界経済の40%を占める巨大な自由貿易圏が誕生する。バラク・オバマ米大統領はこれを自らの経済政策のレガシー(遺産)と見なし、アジア重視の戦略を支える柱と位置付けている。
(中略)
【参考記事】民主党大会でTPPに暗雲、ヒラリーが迷い込んだ袋小路
それがどうだ。今は共和党の大統領候補ドナルド・トランプも民主党候補のヒラリー・クリントンも、TPPに反対している。両者ともTPPを悪者に仕立て上げ、いわゆるリーマン・ショック後の景気停滞で職を失い、その後の回復からも取り残されている中産階級や労働者階級からの支持を集めようとしている。
(中略)
オバマも、自身の選挙戦ではNAFTA(北米自由貿易協定)などに反対していたが、大統領就任後は一貫して自由貿易を推進してきた。しかし今は保護主義と孤立主義の海で孤独に漂流している。
脱退は信頼性を傷つける
今月初めオバマはTPP早期発効を望むシンガポールのリー・シェンロン首相との会談で、大統領選前の議会承認が難しいことを認めた上で「現職大統領は私で、私はTPPを支持している」と強調し、「大統領選が終わればTPPも政争の具ではなくなり、その内容に注目が集まるはず」だと語った。
(中略)
これに対し、リーは(外国の首脳としては珍しく)オバマを諭すような口調で語り掛け、12カ国で5年間、内々で交渉を重ねてきたTPPをここで捨てたら、アメリカの信用はひどく傷つくだろうと忠告した。
「交渉の席に着いた貴国の同盟国や友好国は、それぞれに国内の政治的かつ微妙な反対論を押し切り、しかるべき政治的な犠牲を払い、ようやく協定をまとめ上げた。なのに土壇場で、もう結婚式場で待っているのに花嫁が来ないという事態になれば、たいそう失望する人がいるだろう」。リーはそう述べている。
(中略)
ちなみにハフバウアーは、オバマ在任中のTPP批准の確率を10%と推定し、その筋書きは3通りあるという。
まずは、トランプが11月の本選挙で大敗した場合。トランプの勢いに押されてTPP反対に回っていた共和党下院議員のうち、40人ほどが支持に回帰すると見込まれるので、下院の承認は得やすくなる。
第2のシナリオでは、勝利を決めたクリントンが議会に法案の可決を要請する。ただし法案に署名するのは、自分が大統領に就任してからという条件付きだ。そうすれば、夫のビルが93年の大統領就任後にNAFTAを修正したように、TPPにも彼女の色を加えられる。
第3のシナリオでは、上下両院の指導部がついに理性を取り戻し、これ以上に有利な協定はなさそうだし、TPPをほごにすればアメリカは世界中で信用を失うということに気付く。
ただし、どの筋書きも可能性は高くないという。そうであれば、アメリカがTPPを批准する日は、(来るとしても)遠い。
From Foreign Policy Magazine
[2016年8月30日号掲載]
オバマは油断した。それだけは間違いない!