折々に素敵なメールを下さるビオラユーザー様から一年経過のご感想を頂きましたので、ご紹介させて下さい。(D様ありがとうございます!)
新作ビオラを使い初めて一年以上が過ぎました。
それ以前は39センチ長の小さなビオラを10年以上弾いてきて、パステル調のカウンターテナーのように軽くハスキーな美声に愛着を感じていました。
それでもオーケストラで弾く機会が増えると、より大きな楽器ばかりのセクションの中で一台だけ浮いてしまうような感じがして、もっとビオラらしい音色の楽器が欲しいと思うようになったのです。
でも、「ビオラらしい音色」ってどんな音なのでしょう。
バイオリニストの中には、「バイオリンの後ろに隠れて後ろめたそうにモサモサとざわめく」楽器という印象を抱いてらっしゃる方もいるかもしれません。
その時から、自分はどんな音が欲しいのだろうと考えながら、コンサートを聴きに行く度にビオラの音色に特に注意を傾けるようになりましたが、第一線のプロが使っている楽器でもサイズや年代が様々で、一台一台、個性が本当に違うんですね。
そこで、自分が使っていたビオラと正反対の音と思って、「バリトンのように重く暗く陰りがあり、黒い森の湖底で蠢く謎の生物のようにミステリアスな」などと不明な定義を漠然と念頭に浮かべながら、実際の楽器を探し始めることにしました。
ビオラについてもっと良く知ろうとインターネットで色々と検索しながら出会ったのが、クレモナで活躍中の製作家、やち陽子さんのブログでした。
とても興味深い内容で、この方にお願いすれば楽器が鳴らないわけがないとほとんど確信が持てたので、まず問い合わせてみることにしました。
運良くちょうどその時期に試奏できるビオラが一台あるとのお返事を頂いたので、早速喜んで足を運ぶことにしました。
流麗な曲線と飴色の艶やかなニスに包まれた美しい楽器を手渡され、ドキドキしながら肩に置き、弓を当ててみました。
その容姿のように明るく艶やかで、輪郭のくっきりした音は、「モサモサ」や「湖底で蠢く謎の生物」のイメージとはかけ離れたものでしたが、それでも決して軽くはなく芯がしっかりしていて、輝かしくはありながらも耳触りはビロードのように柔らかくて、温かみがあります。
しかもバランスが取れていて、弾きやすい。一度弾き始めると、あれもこれもと弾き続けたくなる心地よい音質。
最初の出会いから受けた印象を要約すれば、「好き!」でした。相性も良かったのでしょう。結局、その場でこの楽器がいいと決めました。
こうして、生まれたばかりの楽器との新しい生活が始まりました。
新作楽器の良さは、それからさらに変化することです。以前より大きな楽器に持ち替え、弾き手の方も慣れなければいけません。
最初は出にくい中間の音域を特に鳴らせるような曲、全音域をバランスよくカバーできるような曲、重音で木の振動が感じられるような曲、強弱の変化が大きいロマン派の曲など、楽器の可能性を知りたくて、曲を選びながら弾き方を覚えていく過程は、本当に楽しいものです。
そして、こちらの試みに楽器が答えてくれるのは大きな喜びです。
しばらくしてオーケストラの練習に持って行くようになると、ビオラが他の様々な楽器の音に共鳴する時の木の振動が感じられ、練習の前と後とでは音も弾きやすさも違っているのがわかりました。
また、オーケストラのように多数の弦楽器が出会う場所で、自分のビオラが一際輝いており、端正な美音で存在感を発揮するのは快感です。
「モサモサ」どころか、かっこいいビオラなのです。室内楽に持って行くと、意外にも(?)かっこいいビオラの音を特にほめて頂いて、喜ぶ機会が増えました。
このように一年間があっという間に過ぎました。
最初に好きになった個性はそのままに、さらにパワーも音色の幅も増し、「なんてすごい楽器を手に入れてしまったんだろう」と驚かされています。
しかも、弾き始めて「まだ一年」なのです。これから我がビオラと共に重ねて行く経験がさらに楽しみです。
(イタリア在住・D様)