砂蜥蜴と空鴉

ひきこもり はじめました

無意味にバトル

2004年10月30日 | ログ
頭が痛む。
レイナは既にその状態が「敵」への恐怖を克服せよと作動する精神拘束だと理解していた。
だが。
心はどうよしうもなく怯える。
咀嚼音が聞こえる。黒い外套の中、蠢く獣の食事風景が本能的な危険を訴える。

これ危険だ。これは異端だ。これは圧倒的だ。これは絶対的だ。
これには勝てない。これには逃げられない、これとは戦えない。これとは・・・

思考は絶え間なくループしその度に同じ答えを導き出す。

もう、お前は終わっていると

噛み砕く音が止む。獣は胎動を停止しようやくヒトガタを形成した。

「薄情な女だ。同胞が喰われてなお冷静を装うか」

声は染み付くような絶望となり白衣を汚す。
つい数分前まで刈取るだけの獲物に過ぎなかった筈のソレは今や巨大な捕食者として自らを見据えていた。

「・・・来ないのか?貴様の戦力解析ならば未だ自分の優位を示していると思うが?」

それは事実だ。
四人の内、三人が欠けてなお、白眼は敵との戦力比をこちらの天秤へと傾けている。
だがそんなものはマヤカシだ。
机上の論理を組み立てる天秤などより遥かにリアルな直感がそれを示している。
そもそも・・・この目の解析が正しいならば、姉たちは喰われていない!!

ジリと。
気づけば足を後退させていた。
息が上がる。極度の緊張はただ在るだけで意識と体力を奪っていく。

「本能を優先する程度には人形ではなかったか。だが・・・その直感があれば、分かるだろう?」

気負うことなく男は言う。

「もう逃げられはしないと」

!!!

気づけば後退の足は爆発的な前進へと切り替わっていた。
逃走の本能が逆転し理性的な判断が心を支配する。

倒せねばならぬ敵は、倒すのみだ。

白光が煌く。
第一級の精霊強化の為された白銀剣『エレイシア』は騎士の魔力を十二分に纏い目前の敵へと殺到する!!

チィィィン

それを。
当然の如く男は受けきる。
手には何時の間に握ったのか。
自身と同じ白銀の剣を構えていた。

「ハ・・・」

一呼吸にて会心の一撃を弾き男は彼女の腹を狙い胴を放つ。

「ク・・!」

身を捻ねるが足りない。剣は騎士の鎧を断ち美しい白肌を血で染めた。

「ア・・・」

途端に身体が熱を持つ。だが止まるわけにはいかない。
眩暈しそうな身体を無理矢理起こし、ダン、と距離を開ける。
心には驚愕。視線は男の扱う剣を見据える。

「馬鹿な。白銀剣は我々専用の装備。貴様が何故ソレを携えるっ!!」

魔術師にとって己の魔術が神秘であるように、騎士にとって己の武器は自らの命に次ぐ力だ。
それゆえに高位の戦士は魔術や、精霊の加護を以ってその力を己のみに扱える刃へと昇華させる。
それは姉たちの剣も同じこと。
所持までは強力な概念防御があれば可能でも、その力を解放し扱えるのは剣の主である彼女達だけの筈だ。

「ハン・・・単純な事だ。剣が主を選ぶなら、俺が主になればいい」

そう、宣言し、男は種明かしとばかりに己が魔術回路を視覚化する。

ヴ・・・・ンゥゥゥゥゥン

森が、震える。
微細な昆虫たちの鳴き声すら失われた世界でソレは出現した。

「これは・・・」

それは極小の世界を無理矢理顕微鏡へと移し転写された風景だった。
本来ならば、視認すら出来ない大きさであろうソレは森を覆う程に男の魔力で巨大化されてなお、複雑の極みをいく魔方陣であった。
形式は精緻にして禁断。構成は八卦にして両義。
自らと森を包む魔方陣は抽象化、簡略化されてはいるが紛れもなく

「独立世界・・・だと・・・」

この世界とは別の世界を現す文様だった。

「ほう。少しは魔術文字に理解があるようだ。貴様の予想は正しい。
 これはこの世界にてこの世界では在らざる世界だ。
 固有結界や空想具現化の上を行く異端異空の設計図にしてその全て。
 人が未だ到達しえぬ奇跡の領域、別世界への門だよ」

「あり得ぬ!!世界の要素を文様化させ、抽象化させることは可能だ。
 だがその存在理念、行動理由、運命計算を同時に成立させ展開させる術などこの世界にはない!!」

「その通り。それが定説にしてこの世界を包むルールだ。
 固有結界は己の心を触媒とし世界を糧として展開する。
 空想具現化は世界すら凌駕する現象も可能だが、それとて術者がこの世界にて構成される者である以上
 本質的には世界を越えられぬ。」

「ならば・・・」

「一つ講義をしてやろう」

男は狼狽する彼女を微笑みながらとうとうと物語る。

「我々魔術師は全能ではない。
 長年の努力と研鑚にて万能たることは可能だ。
 だが万能は所詮奇跡へは届かぬ道だ。
 人が神域へと届くには、全てを切り捨てる心と唯一に特化された道を歩まねばならない」

言霊が森へと浸透していく。この世界にてただ一つの異物である彼女はその威容に呑まれたように言葉を聞く。

「だが魔術師とは須らく傲慢なる生き物だ。
 過去多くの英雄、魔王がこの限界に挑戦してきた。
 アカシャの蛇は輪廻の輪にて永遠により時を補おうとし
 紅蓮の魔女は世界を贄としてその法則を超えんとした。
 世界の王は反魂に無限を託し
 管理機構は神域を人でなく26対の人形によって支配しようと試みた。
 さて、ここに彼らと同じように全能を目指した魔術師がいた。
 男は世界でも有数の演算魔力回路の持ち主だったがそれゆえに、出した結論もまた早く、正確だった。
 人たる身に全能は不可能だとね。
 そして男は考えた。自らが全能になる必要はないと。
 そう、簡単な事だった。万能と奇跡が両立しないならば奇跡を束ねて全能となればいい。
 その為に用意された魔術こそ単一にして至高の魔法。
 この世で唯一の完全独立世界『幻想庭園』だ。
 
「それが矛盾していると言っている!!
 独立世界の構築は太古より幾多の魔道士が目指した奇跡。
 だが彼らの優れた才と力を以ってしても完全な独立世界は作れなかった。
 魔法は愚か、石ころ一つとて、世界の力無くしては生み出せなかった!!」

「そうだ。そうして彼らは自己の意識を触媒とする半独立世界とも言うべき固有結界や
 己の心を投影し具現化させる空想具現化へと傾倒していった。
 彼らの判断は正しいよ。
 石ころ一つと言ったが、そんな矮小な存在一つとて世界との共存無くしては生み出せない。
 石の行動理念。石の存在理由。運命計算。材質解析。原子指向性。他存在との関係性。
 全てを計算し理解する力など、間違いなく存在しない」

さらりと。
矛盾を孕んだ言葉を放つ。

「・・・ふざけるな。ならば貴様が独立世界と呼ぶこの世界は何だ。
 たった今、不可能と呼んだ現象を可能としたという貴様の言葉の矛盾はどういう事だッ!!」

ぞくりと。
底冷えのする悪寒が走った。

「よく見るがいい白衣の騎士よ。この世界に何がある?」

「何・・・だと・・・?」

そう言われ、理解に数秒を要し・・・

「!?」

弾かれたように辺りを見回す。情景は何も変わらない。在るのはただ、極大に投影された世界を現す魔術回路のみ。

「そうだ。ここには『何もない』
 存在証明の為の物質解析も行動理由も不要。
 元より俺の世界は伽藍の堂だ。
 空の庭に生じる矛盾など最初から存在しない」

ずふずぶと。
地面が溶解していく。
その曖昧な境界より出現する、無数の白銀剣。

「この世界は全てを許容し飲乾す極小にして無限の器。
 力など創作する必要はない。
 我は唯、この世界を構築し、外部の情報を認識するのみ」

___外部情報処理完了

  _______召喚プログラム自動生成、『エレイシア』を作成完了

_____発現開始。


「この身は世界という名を夢を見るのみ。
 喜ぶがいい、白狼の騎士よ。
 貴様等は我が世界に「認識」された」


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えー・・・意味はないです。やおいというヤツですね。
ヤマなしオチなし意味はなしです。
月姫、fate、空の境界の単語を使ってますが勢いですので関係性は皆無です。
つまりアレですね。スルー推奨です。