「戦争が、来るわ」
病院のベット。うわ言のように彼女は呟く。
「ユウ、戦争は来ないよ。もう二百年も戦争は起きてない」
見舞いの花を細身の花瓶に移しながら僕は相槌する。
外には二本の飛行機雲。
夏の残り火のように引かれる白線の軌跡を目で追いながら笑いかける。
「そして、二度と人類はそんな馬鹿なことをしないよ。そんなの、無意味じゃないか」
「いいえ。戦争は来るわ。必ず、来る」
病気で倒れてから初めて聞く、節目がちな彼女がめったにしない断定の口調。
「だって」
換気の為に開けた窓から秋の風が吹き、花瓶がグラ、と揺れた。
「私達は、人間なんだもの」
花瓶は倒れず。
秋桜の葉が、ひとひらだけ、落ちた。