坪内稔典の俳句、安西冬衛の詩
坪内稔典の俳句に導かれた。
バッタとぶアジアの空のうすみどり
アジアは広大、空も広大。
バッタはうすみどり、空もうすみどり。
目に映る、うすみどり色の広大な世界。
ヨーロッパでもない空を、アフリカでもない空を
ちいさなバッタがとんでいく。
そう、アジアのうすみどりの空をとんでいくのだ。
たくさんのバッタが群れ飛んでいるのか、
あるいは、一匹のバッタなのか。
大きな羽音かちいさな羽音か。
バッタはうすみどり、空もうすみどり。
自分がまるごと受け入れられた世界
バッタはその空へ溶けていく。
いいなあ、自由ってすてきだなあ とバッタは心躍らすだろう。
いいなあ、勇気ってすばらしいなあ とアジアの空は祝福するだろう。
うすみどりってじつに優しい色だ と歓びあいながら。
(坪内稔典『坪内稔典百句』創風社出版)
*
この句を読んだとき、思い浮かんだ詩がある。
春 安西 冬衛(ふゆえ)
てふてふが一匹韃靼(だったん)海峡を渡って行った
一行詩である。
「てふてふ」は「蝶々(ちょうちょう)」である。
一匹の蝶である。ちいさな蝶である。
その一匹の蝶が海峡を渡ったのだ。
ちいさな蝶が大きな海を渡ったのだ。
春、自分を生かす地へ。
「ダッタン」ということばの、太鼓のような響き。
樺太(からふと)とユーラシア大陸 そこの間の海峡
間宮(まみや)海峡ともいう その海峡を。
「チョウチョウが一匹」で一度息を止める。
それから 「さあ、行こう!」と声をかけて
「ダッタンカイキョウ」へ飛び出す。グライダーのように。
だが、飛び出したはいいが もう戻れないのだ。
海の上を飛ぶしかない。前へ進むしかない。
だれにも頼らず ただ自分だけの力で。
勇気に満ちたチャレンジだろうか、それは。
己を知らない無謀な試みだろうか、それは。
風に惑わされるだろうに、海におびえさせられるだろうに。
だが 冬はもう過ぎたのだ。春を迎えたのだ。
そう、春は希望ではないか。
希望こそ前進させる力 恐怖の海を越えていける力ではないか。
一匹の蝶は目標にまっすぐ目を向けた。
「さあ、行こう!」とかけた声に偽りはなかった。ブレなかった。
懸命に懸命に羽ばたき、ついに渡り切ったのだ、ダッタンカイキョウを。
てふてふが一匹韃靼(だったん)海峡を渡って行った
*
バッタは空をひろげる
蝶々は海をひろげる
おおきな風呂敷のように
その風呂敷には
希望と
勇気が のっている
私にも出来そうそれが第一歩(西村正紘)
★たんぽぽの 何とかなるさ 飛んでれば
いつも読んでくださり、ほんとうに有難うございます。