祈りを、うたにこめて

祈りうた(メメント・モリ  愛しいひとが亡くなるたびに②)

(いと)しいひとが亡くなるたびに②

 

 

 

 先日、キリスト教の信徒であるご婦人が亡くなりました。コロナ禍なので、ご家族とご親戚とで見送られました。ほんとうに愛らしい安らかなお顔であったと、葬儀を執り行った牧師から知らされました。
 その方から「宿題」を出されました。

 (ただ)ひとりで生まれ、人々のなかで生き、やがてまた唯ひとりで死んでいく存在、そのような存在であるあなた。

 身近な人たちにとって、あなたという一人の人間の生キ死ニは、どれほど濃いものなのでしょう?

 何人のひとが、この世であなたの名を覚え、あなたをその名で呼んで親しくしてくれるのでしょう?

 何人のひとが、あなたの死後、あなたは確かにこの世に生きていた、ということを記憶していてくれるのでしょう?

 あなたのいのちの鎖、それが家族や親しい友人などのほか、誰とつながっていれば、あなたは孤独でもなく、虚しい気持ちにもならず、人々のなかで微笑みながら生き、健やかに病み、安んじて死んでいけるのでしょう?
 

 人間とだけでなく、いえ神と両手を握り合って生きた人、その方が、「いのちを大切にしてね。ほんとうに意味のあることとそうでないこととをはっきり分けて、あなた自身の生き方をよく考えてみてね」と、優しく言い遺された問いかけです。
 生前、直接的にも間接的にも問われたわけではありません。その方はつつましい方で、「わたしなんかが」と口癖のように言う方でした。だからこそなのかもしれません。その方のはにかむように生きるその姿からにじみ出てきた、真剣で誠実で柔和なものが、なぜかこれらの言葉となってわたしに深く届いたのです。

 

 特に「安んじて死ねる」ということが、いちばん強く響きました。
 「死」を避けることのできる生はありません。わたしの生は、掃除機のように「死」という吸い込み口に向かって時を刻んでいるからです。不安も心配も怖れも、源を探っていけばみんなこの「死」が放っている「暴力的な」矢にたどりつくのです。
 「死がこわい」「死にたくない」「いまはまだ死ねない」「もっと生きていたい」など、生への執着はわたしにも強くあります。
 ただ、「死はまだ先のこと」「人生を大いに楽しもう」という気持ちはもうありません。「人生百年」の多くを既に過ごしてきたからです。
 病気なのか、事故なのか、事件なのか、あるいは老衰なのか分かりません(自死はしないと、言い聞かせています)。いずれにしても死はもう遠くないのです。
 その瞬間、願わくば、「生まれて良かった」「あの人この人と深い出会いができて有難かった」「苦しみ、哀しみ、悔しさ、寂しさはほどほど味わったけれど、その全部を合わせて幸いだった」「うれしいこと、楽しかったこと、感動で心が躍ったこと、それらは山ほどあった」「ほんとうにありがとう!」―そういう気持ちで息を引き取りたいと思います。もしも、「ほんのわずかでも誰かの役に立てたかもしれない」と思うことができたら、それこそ万歳です。
 「その死の間際に神さまがきっといてくださる」と信じられること―それが、わたしの最高最大の望みです。「安んじて死ねる」ことは「神さまに見守られ、神さまに手を引かれて次の世界へ入っていく」、そういうことではないかと思っているからです。
 「そのご婦人の愛らしい、安らかなお顔」こそ、神さまの両手を握って、また握られて生きてきた証しではないかと思っています。

 

 そのご婦人は、ほんとうにつつましい方で、人知れず教会の花壇の手入れをされ続けていました。
 教会の近所にお住まいのわけではありません。片道数十分かけて電動自転車をこいでこられ、また数十分かけて帰る、そのようななかでのご奉仕でした。暑い日も、寒い日も、風の強い日も、小雨の降るような日も。
 花壇はいつも美しく手入れされ、日曜ごとに訪れる教会員のわたしたちを喜びで迎えてくれました。咲き誇る花は、それだけで「神さま、花がこんなにもきれいです。嬉しいです。ありがとうございます」という気持ちにさせてくれました。
 その方は、次の世界でもお花の手入れをされているかもしれません。そのように期待させてくれます。手入れされた美しい花々を、もう一度見ることができるかもしれない―そんな望みを遺していかれたのです。

 

 

★たんぽぽの 何とかなるさ 飛んでれば 
★いつも読んでくださり、ほんとうに有難うございます。

 「メメント・モリ(死を忘れるな)」という言葉には、さまざまな意味が込められていると思います。それらの全部に、「死」から「生」を見て、真剣に誠実に生きましょう、という祈りがあるのでしょう。

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