傘
1
大通り
右へよければ
右へ来る
雨の日である。
こちらから歩いていく。向こうからも歩いてくる。先にこちらが気づき、右へ少しずれる。すると向こうも、ずれた方へ足をずらす。なぜかつられたように。
そこで、こちらが今度は左へ動く。すると、向こうも同じ方へ動く。反復横跳びみたいに、傘が右へ行ったり左へ行ったり。
「あ、どうも!」
「すいません!」
照れ笑いのことばでまぬがれた衝突。それなりに広い道ではあったのだけれど。
2
狭い歩道を歩いていく
大丈夫と おもったのに
当たってしまった傘
狭い歩道を歩いていく
あ、当たってしまう!と 一瞬ドキッとしたが
ぎりぎりですれちがった傘
ぶつけてやろうなどという鼻息の荒さはない
けれどなぜか
よけようと譲る心のしぼむ日がある
相手がよければいいのだと威張る心のふくらむ日がある
雨が降ったというだけで
雨が降ったというだけで
狭い歩道がとつぜん細い吊り橋に変わる
雨が降ったというだけで
傘からはみでたわたしのエゴがぐらぐら揺れる
●ご訪問ありがとうございます。
ひどい台風でした。避難はしませんでしたが、水を用意したり、懐中電灯をテーブルに置いたり、自転車をロープで縛ったりしました。「く」の字に曲がる進路というのが、気候変動ですこしずつ増えていくのでしょうか。
不安な思いで通過まで耐えておられた方々、被害にあわれた方々、おつらいところとお察しします。
今回は、だいぶ前に書いた川柳をもとに、話をふくらませてみました。こんなことあるなあと、思ってもらえたらうれしいです。