祈りを、うたにこめて

祈りうた(でくのぼう坊  傘)

 

大通り

右へよければ

右へ来る

 

 雨の日である。
 こちらから歩いていく。向こうからも歩いてくる。先にこちらが気づき、右へ少しずれる。すると向こうも、ずれた方へ足をずらす。なぜかつられたように。
 そこで、こちらが今度は左へ動く。すると、向こうも同じ方へ動く。反復横跳びみたいに、傘が右へ行ったり左へ行ったり。
 「あ、どうも!」
 「すいません!」
 照れ笑いのことばでまぬがれた衝突。それなりに広い道ではあったのだけれど。

 

狭い歩道を歩いていく

大丈夫と おもったのに

当たってしまった傘

 

狭い歩道を歩いていく

あ、当たってしまう!と 一瞬ドキッとしたが

ぎりぎりですれちがった傘

 

ぶつけてやろうなどという鼻息の荒さはない

けれどなぜか

よけようと譲る心のしぼむ日がある

相手がよければいいのだと威張る心のふくらむ日がある

 

雨が降ったというだけで

雨が降ったというだけで

狭い歩道がとつぜん細い吊り橋に変わる

雨が降ったというだけで

傘からはみでたわたしのエゴがぐらぐら揺れる

 

●ご訪問ありがとうございます。
 ひどい台風でした。避難はしませんでしたが、水を用意したり、懐中電灯をテーブルに置いたり、自転車をロープで縛ったりしました。「く」の字に曲がる進路というのが、気候変動ですこしずつ増えていくのでしょうか。
 不安な思いで通過まで耐えておられた方々、被害にあわれた方々、おつらいところとお察しします。

 今回は、だいぶ前に書いた川柳をもとに、話をふくらませてみました。こんなことあるなあと、思ってもらえたらうれしいです。

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