文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

アニメ「もーれつア太郎」の放映開始とスピンオフ作品「花のデコッ八」の連載開始

2020-07-13 20:52:01 | 第4章

1969年4月4日、NET系列で『もーれつア太郎』の放映がスタート。(~70年12月25日)テレビアニメとのシナジーを狙ってか、69年4月に新創刊された兄弟誌「DELUXE少年サンデー」にも、デコッ八を主役に迎えた『花のデコッ八』(69年5月号~9月号)のシリーズ連載が開始される。

当初、「週刊少年サンデー増刊」に『ア太郎』の番外編として描かれたこのシリーズは、初回の内容こそ、本誌「サンデー」版『ア太郎』の正編世界を踏襲したスピンオフ作品として展開したが、話数を重ねるごとに、講談でもお馴染みの海道一の侠客・清水次郎長をパロディー化した「東海一ケムンパス親分」(69年8月号)や、街の暴れん坊デコッ八が、八百×の不衛生な野菜を食したショックで、体がミクロ化し、街中を巻き込んでの大騒動を引き起こす「ミニミニデコッ八」(69年6月号)、一つの街で縄張り争いを続ける、ニャロメ率いるアメリカかぶれの野良猫グループと、ナポレオン皇帝 の愛犬・アポレオンの子孫を自称する、イヤミそっくりなフランス犬率いる野良犬グループのバトルに、用心棒として雇われたデコッ八とブタ松が絡む珍妙な赤塚版『ウエスト・サイド物語』(⁉)、「フランシーヌの場合は」(69年9月号)等、長編版『おそ松くん』同様、登場人物本来の明朗な性格に、陰影深い屈折感を浮かび上がらせた、ブラック度の高いギャグへと接近するエピソードも意図して描かれるようになり、正規連載版『ア太郎』の統一的な意義付けを歪ませたパラレルワールドへと、次第にその世界観は変容していった。

そして、これまでひと言「ニャロメ」としか鳴かず、四つん這いでヨチヨチ歩きをしていた野良猫・ニャロメが、二本足で立って走り回り、たどたどしい人語を喋り出してスパークするのも、本命版『ア太郎』ではなく、この『花のデコッ八』シリーズであった。

ニャロメは、『花のデコッ八』に登場した以前にも、「サンデー」本誌版『ア太郎』に、一度だけ主役としてフィーチャーしたエピソードが単発として描かれてはいた。

奇しくも、連載開始から丁度一年目に当たる68年第48号に発表された「ニャロメがわいてきた」がそれだ。

近所の子供達が「ニャロメ」と鳴く、風変わりな子猫を虐めている場面に遭遇したデコッ八は、その子猫が不憫に思い、浦島太郎よろしく、彼らから子猫を買い上げ、八百×へと連れて帰る。

だが、この子猫、勝手に飯びつ一杯のご飯を平らげるなど、とんだ厄介者で、これ以上ア太郎に迷惑を掛けられないと思ったデコッ八は、やんごとなく子猫をブタ松一家に預けることにする。

ブタ松からの仰せを承り、子分のブタ達は、子猫をしっかりお守りするものの、子分の一匹が子猫を散歩に連れて歩いていたその時、突然、ココロ・ファミリーの奇襲を受け、子猫を拐われてしまう。

子猫は、青山さんという一般家庭で飼われている行方不明中の迷い猫で、その不思議な鳴き声から取って、ニャロメと名付けられていた。

飼い主から謝礼を貰おうとココロのボスは、ニャロメを飼い主に引き合わせるが、ニャロメはデコッ八に懐いてしまい、飼い主のところから、再びブタ松の家へと舞い戻って来る。

ニャロメを引き渡したくない飼い主は、悩み抜いた結果、他のペットを引き連れ、ブタ松一家に居候を決め込むことになる。

だが、そのペットの中には、ライオンや熊、ワニといった猛獣もいて、ブタ松一家は動物園の様相を呈してくるというのがそのあらましだ。

ドタバタテイストが乱雑に満ちた痛烈なユーモアをリズミックに紡いで展開させる力業は、文句なしに圧巻で、スラップスティックという観点から捉えてみても、高いグレードを誇る傑作エピソードに仕上がってはいたが、この時、リーディングロールとなったニャロメには、赤塚世界の住民特有の激しい自己主張を披瀝するキャラクター性もなく、その身体設定もまだ、先に述べた通り、四足歩行のままの状態であった。