創刊間もない「週刊少年ジャンプ」の誌面を盛り上げた「赤塚ギャグ笑待席」シリーズ以外の赤塚作品では、前述の『もてもて一家』、『イライラ一家』といった一家ものシリーズのほか、『やってきたズル長』(69年№8、№10)、『チビ太くん ぬたくり一家』(69年№18)などがある。
『やってきたズル長』もまた、二話掲載作品で、清水の次郎長の子孫かも知れない、用心棒稼業のふてぶてしい無頼派少年が、傍観者的スタンスを取りながら、勢力争いを続ける二つの暴力団組織を足取り軽く壊滅させる、黒澤明の傑作時代劇映画『用心棒』のストーリーラインをそのままトレースし、現代版へと置き換えつつも、その表層を準えて滑稽化したイミテーションではなく、キャラクターからシチュエーションに至るまで、読む者に奇異の念を抱かせて余りある論理的逸脱に貫かれた、爆笑喚起促すシリーズだ。
『チビ太くん ぬたくり一家』は、塗装店に就職したチビ太が巻き込まれるシッチャカメッチャカの爆笑騒ぎを、カラーページならではの表現手法に非因襲的なイリュージョンを意図して混成させた、遊び心と実験性に溢れる意欲的な一作。
因みに、『チビ太くん ぬたくり一家』は、コミックスでは、オールカラー着色ならではの面白さが半減することを懸念されてか、これまで一度も単行本収録されていない。
いつの日か、単行本収録され、雑誌掲載時と同じカラーページで完全再録されることを切に願う。
尚、この作品が発表された同時期に、赤塚は、集英社初の青年コミック誌「ジョーカー」に、同じく主人公であるチビ太が、自らを騙した悪辣なエロ学生を、読者の裏をもかく、エスプリの利いた悪戯センスで意趣返しする『チビ太モミモミ物語』(69年10月10日号)なるショートショートを執筆した以外にも、「少年チャンピオン」創刊号に、指名手配中の凶悪な強盗犯二人組が、押し入った先で遭遇した、むしり癖のある超はずかしがり屋の中年男に奇妙な処遇を受け、翻弄されてゆく様子を強烈な笑いに忍ばせて綴った『テレテレおじさん』(創刊1号~2号)を発表しており、この時期新創刊したありとあらゆる漫画誌に、一定水準を保った相当数の佳品を寄稿し、更なる笑いのルーティンを拡張したことも連記しておきたい。
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