1970年代、赤塚漫画は、更に過激さをヒートアップさせ、アブノーマルの極限とも形容すべき異端的傑作を、やはり複数本執筆している。
その代表作に当たるのが、「まんが№1」に連作で発表された『クソばばあ』(原作・滝沢解、72年11月創刊号~73年4月号、後に単行本化した際『くそババア‼』と改題)である。
鬱勃とする性的欲求が人間の行動原理を大きく左右するという、フロイト的考察に基づく滝沢解の原案をベースに、かけがえのないひとり息子を大切にするがあまり、女が息子に近付く都度、激しく嫉妬し、息子の恋の行く末を激しくブチ壊す御年八十歳の山本八十と、この世に生を受けて四十六年、母親にいつも恋路を邪魔され、独身どころか、未だ童貞である中年息子の四十六が、毎回、四十六の異なる相手と三つ巴の関係へと展開する中で、壮絶な親子バトルを繰り返すという、数ある赤塚ギャグの中でも、最も異常度を高騰せしめた怪作だ。
毎度の如く繰り返される八十と四十六の親子喧嘩は、引きも切らないエロとグロのオンパレードで、特に八十が色情狂ぶりを炸裂させる負のリビドーには、享楽的倒錯に基づく醜悪性をも乗り越えた生々しい嘔吐感が、読む都度に激しく込み上げてくる。
何しろ、童話作家である息子の担当編集者や、痴漢撲滅の為に女装していた男性警官を、自分のベッドに連れ込んでは、セクシャルな欲望を老いて益々盛んにさせ、また時には、息子を訪ねてきた若い女性ファンに、経験豊富且つ高度な性交技術で、レズビアンという新たな恍惚の扉を開かせたりと、暴挙の枠では収まりきれない、えげつなさの極みとも言うべき有り様なのだ。
そんな読む者の脳を思考停止に追いやること確実なエピソードが、毎回「これでもか」と言わんばかりの異様なテンションで、描き殴られているわけだが、品性下劣を極点に示しながらも、勢いだけで面白可笑しく読ませる赤塚のその作家的腕力には、改めて拍手喝采を贈りたくなる。
因みに、この『クソばばあ』、〝オ○ンコ〟という、現在でも語るに憚るその単語を伏せ字なしで、堂々とネームに載せた最初の漫画ではないかとも言われている。
また、『クソばばあ』の第三話(73年1月号)で、四十六が、倉庫でスケ番と乱交パーティーに挑もうとする瞬間、メリケンサックをはめたセーラー服姿の八十に阻止されるシーンがあるが、八十がスケ番連中にリンチを加える際に、自らを〝明治のスケ番第一号 メリケンのおヤソ〟と名乗っており、東映プログラム・ピクチャーに端を発する当時のスケ番ブームを、本シリーズにおいても、然り気無くネタとして取り込んでいる点が、何とも心憎い。
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