アメシストのマツ

五十代女性、既婚、子供なし、ただいま断酒中。
もう一生で飲めるだけの酒は飲み尽くしました。

2021/02/25 思いでぽろぽろ

2021-02-25 21:00:00 | ひとりごと
1988年、昭和最後の年

地方国立大の理系学部に受かってしまい

実家を離れて下宿生活が始まった






本当はスキーをやりたかったんだけど

同じクラスの女子が「ガイダンス付き合って」と、言うので

ついていったら、入部させられてしまったワンゲル

高校まで運動らしい運動もせず、4キロ自転車こいで通学するのが唯一の運動

ガリ勉したつもりはないけど、徹夜は苦ではなくても走るのは苦手

女子はだいぶ荷物を軽くしてもらえたけど10キロは背負わないといけなかった

陸上で長距離走ってた男子と同じ事が出来る筈もなく

酒だけは一人前に飲めた

合宿の度に、辛くて辛くて辛くて

もう辞めるもう辞めるもう辞めるってそればかり考えながら歩いていた

辞めなかったのは、彼が居たから

会った日に「あ、ワタシの半分だ」と思った

奴は大学へは「何か探しに来た」って言ってた

いっぱい我儘聞いてもらったし、いっぱい喧嘩した

思えば随分ひどい事も言った気がする




後で考えたら鬱病の前兆だったんだろうけど二十歳の夏に生理が止まった

気がついたら、手首をシャーペンで掻きむしってた

死ぬ気ではなかった

シャーペンで動脈が切れる訳がない

でも、その傷を見て、彼に駅まで送られ

実家までの切符を渡された

私に生理が来ないまま、彼は夏合宿に入りヒヤヒヤし通しだったらしい



私は私で二十歳の夏は最悪だった

「下宿のコンドーム処分しておいて」という彼への手紙は母に勝手に見られた

精神科に通って、安定剤と睡眠薬を無理矢理飲まされて

二十四時間のうち二十時間くらい寝てた

医者は「疲れているのだから休養が必要だ」と言った

実家は私にとって休める場所ではなかった




父に隠れてタバコを吸いだしたのもその頃だった

酒は酔ってしまうが、タバコに酔うことはない

タバコを吸えば酒をやめられると思った

ため息をつく代わりにタバコを吸った





母が家族に隠れてタバコを吸っているのを知ったのは高校生の時だった

父はタバコの匂いが嫌いだった

母からは「タバコだけは体に悪い」と聞かされていた

「裏切られた」と、思った

「お母さん吸ってるの知ってたからええ、思ったんやろ」と

母はメンソールのタバコを差し出しては

しゃべりたい事しゃべってた



気力もなく、聞き役だった、と、思う

母とはいつもそうだ

母は喋りたいだけ喋り、思うようにいかないと怒りたいだけ怒る

台風が通り過ぎるのを待つように私は母の前から逃げられない





夜、目が覚めて、家族が寝静まるのを待って

タバコを吸ったり、氷を齧って過ごした

父の飲む焼酎を割る氷が無い、とよく叱られた

惨めな夏だった







その秋の終わり
彼はバイクでカーブを曲がりきれずに
対向車のトラックに正面から突っ込んで

即死だったらしい

数枚しか残っていない彼の写真


2021/02/25「ノルウェイの森」より

2021-02-25 09:00:00 | ひとりごと
「どうしてそんなこと言うの?」と直子はおそろしく乾いた声で言った。
彼女の声を聞いて、僕は自分が何か間違ったことを口にしたらしいなと思った。
「どうしてよ?」と直子はじっと足もとの地面を見つめながら言った。「肩の力を抜けば体が軽くなることくらい私にもわかっているわよ。そんなこと言ってもらったって何の役にも立たないのよ。ねえ、いい?もし私が今肩の力を抜いたら、私バラバラになっちゃうのよ。私は昔からこういう風にしか生きてこなかったし、今でもそういう風にしてしか生きていけないのよ。一度力を抜いたらもうもとには戻れないのよ。私はバラバラになってーーどこかに吹きとばされてしまうのよ。どうしてそれがわからないの?それがわからないで、どうして私の面倒をみるなんて言うことができるの?」
村上春樹『ノルウェイの森』

10代の終わりから二十歳にかけて、私もバラバラになって壊れそうだった

彼は「人が沢山死ぬ小説だ。読んでいるだけで鬱になる」と、言った

「心臓の脈の音を聞くのが怖い」と、言っていた

21歳で彼の心臓は止まってしまった

それから、村上春樹の小説はまだ読み続けている


あれからもう三十年経ってしまった
それでも、世界はまわりつづける

貰った甘夏 ほぼ全部旦那が食べた