大山淳子さんの通夜女
この帯のコピーはあんまりよくないなーと思います
感動してしまって読後しばらく呆然としてしまった一冊
「夢」や「野心」についてそれらは持ってもいいし、だけど持たなくてもいいのだととても優しい言葉で書かれてる
主人公小夜子は地味でちょっと嫌な奴です。あまり優しくないしわりと自分勝手だし、めんどくさいことからは逃げてしまう
逃げ癖があるのね。
あまりがんばれないの。だから最初読んでていらっとするんだけど、でもだんだん彼女が「がんばれない」こともさほど悪いことでもないと思えるようになります
そして小夜子にも「がんばれる」ところもあることが少しずつ明かされていきます
それを作ってくれた「あのひと」「このひと」「いろんなひと」
みんなに小夜子は作られているのですね
小夜子は地味ですがちゃんと逃げずに戦える人でもあったことがクライマックスでうわーっと来ます
逆に小夜子から見て、とても美しい生き方をしていたりコンプレックスえぐってくるようなすごい人だったりまっすぐでかっこよく見えるひとだったり努力家で優しい人だったりしても、「だめ」なところがあったりする
だからってそれが悪いことでもないんですね
この物語のキーパーソンとして「ケーキ屋さん」が出てきます
彼は小夜子にとってとても救いになる人物なのですが、彼のことはあまり細部まで書き込まれない。断片的に、なんとなく察することのできる過去しか描かれません。
フツウの小説や漫画だったら彼を小夜子の王子様にしてしまうんだろうけど、大山さんはしないんです
それがまたいいんですね
小夜子は何かを成し遂げたり派手に活躍したりする人ではありませんが、それでもひとりの人間としての人生を彼女なりに華やかに生きていきます、いや、生きていたのです今までもこれからも
小夜子のお母さんがまたいいんですよ。
平凡そうな普通の母。いわゆる主人公の母。その役割をこなしながらもなんて強くて素敵なんでしょう
小夜子が母に守られるシーンは胸が熱くなりました。子を守る母は普遍的で美しいものです。(だから逆に子を守らない母親ってのが物語によく使われる。アンチテーゼってのは面白いものですからね)
そして大山さんは子を守る母をいつも丁寧に大事に描く作家なんですね