自由と平和、生存と共生のために

「誰もが人間らしく生きられるためには」という視点から、さまざまな社会問題についての情報をお届けします。

「どっちもどっち」論の誤り

2020-12-31 22:26:57 | 共生・反差別
 「差別行為をする自由」は存在しません。これは、差別について考えるときの基本的な前提です。
 また、「レイシズム宣伝は許されない」というのは人類社会の普遍的な社会規範です。人種差別撤廃条約第4条に明確に規定されています。レイシズム宣伝は被害者を攻撃するとともに社会規範を破壊する行為でもあるのです。
 ところが、日本社会では、「レイシズム宣伝をする側」と「それに対抗する側」を「どっちもどっち」とする言説が今でもあちこちに現われています。下記の記事はその典型的な一例です。

東浩紀「ヘイト丸出しの差別発言を許容する日本 上品下品の感覚取り戻すべき」
 AERAdot.2020.12.24

 「上品下品の感覚を取り戻すべき」とのことですが、「「上品な」差別宣伝であれば許される」ことはありえないのです。差別宣伝をやめさせるための言葉が上品か下品かを問う前に、差別宣伝を許さないことが必要なのです。
 「その批判が罵倒とともに行われれば、右派はますます極端な主張を繰り出す」という指摘ですが、これでは批判を受けてさらに差別宣伝を激化させるほどの悪質なレイシストを擁護することになります。
 こうした言説は「良識的」な響きを感じさせながら、結果的にレイシズムを許容してしまいます。その危険性に私たちは気づかなければなりません。

★人種差別撤廃条約
第4条(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

自治体サイトに「差別正当化」文書

2020-12-28 21:31:26 | 共生・反差別
 群馬県草津町議会議員(女性)が町長からの性被害を訴えたところ、他の議員らがリコール運動を起こし、住民投票の結果、当該議員は失職しました。

★町議会の実態

下記の記事が草津町議会の実態を伝えています。

まるで現代の魔女狩り? 性被害を訴えた草津町議会女性議員へのリコール
北原みのり

殺気だつ草津町傍聴席「犬だってしねぇよ」 セクハラを背中で浴び続けた気分になった  北原みのり

 町議会で男性議員が「(性被害の訴えは)草津町議会にとっても、町民にとっても、経済にとっても、対外的にも非常に迷惑」と明白な差別発言をしています。
 「当該女性議員への嘲笑や暴言、叱責が激しい」、男性議員が「傍聴席のヤツラ 今日はやりにくい」と発言したこと、男性の傍聴人たちが繰り返し悪質な性差別的暴言を浴びせていたことが明らかになっています。

 力関係の圧倒的な非対称性(女性議員は当該議員のみ)という状況下で、当該議員に一方的に苦痛を与える議事が恒常化していたことがうかがわれます。議会が「言葉の暴力」、性差別リンチ(私的刑罰)を加える場になっていたのです。

★この事件の本質
 一連の経緯が、女性が性被害を訴えることを否定し、そうした女性を社会的に排除するという女性差別事件です。
 
★町議会の「見解」文書
 草津町のウェブサイトには全国フェミニスト議員連盟の抗議文「新井祥子議員に対する草津町議会の除名処分と議長主導の住民投票に抗議します」とそれに反論する草津町議会の「貴団体からの抗議文に対する当議会の見解」が掲載されています。

「男性議員が女性議員の政治参加を妨害しているような事実はありません」(「見解」)
 上記の町議会の状況からだけでも、性差別による排除であることがわかります。
 この事件に関連したネット署名の賛同者のコメントに「恐ろしいです」という言葉がありました。この事件は女性が選挙に立候補することをためらわせるおそれがあります。ますます「女性のいない民主主義」になってしまいます。

「同氏は議会での説明責任を果たさず」(「見解」)
 対等な形式の弁論とはかけ離れた、「性差別リンチ」状態の議会審議を正当化しています。

「(リコールは)多くの町民の声を反映させるために合法的に実施」(「見解」)
 「〇〇議員をリコールに!」と大きく書かれたポスターが公共施設、共同浴場などに掲示され、街宣車も走り回るリコール運動でした。この事件の本質を物語る光景です。多くの人びとが、差別に加担させられたのが実態であると言えます。かつてのナチス政権下において差別扇動によって引き起こされた差別犯罪と同質のものを感じます。

 どのような言動が女性差別なのかという基本的な認識の有無が、リコール運動を主導した人びとに問われなければなりません。
 女性差別が容認されないことは、世界共通の社会規範です。多数決によって差別行為を正当化することはできないのです。
 
群馬県草津町の「町議リコール」住民投票がはらむ、性被害の事実以前の大きな問題  HARBOR BUSINESS

草津町議会としての 抗議文の対応について  草津町ウェブサイト

★海外の反応
今回の事件は日本社会の不名誉を世界に拡散することになりました。

日本は「性差別や不平等が蔓延」。草津町議リコールで、海外メディアの報道続く。  ハフポスト

12月27日の記事に加筆修正したものです。


女性差別事件としての草津町議リコール運動(続き)

2020-12-26 11:51:12 | 共生・反差別
 今回のリコール運動は法制度を悪用して公然と実行された女性差別事件、性被害女性へのヘイト事件です。

 性暴力・性犯罪の被害女性、セクハラ行為の被害女性に対してこれまで以上に心理的な圧力が加えられ、被害を訴えることが困難になるでしょう。

杉田氏「女性は嘘をつく」発言で「中傷始まった」。抗議無視する自民党へフラワーデモ参加者の怒りと涙  竹下郁子


性犯罪、被害女性9割近く「届け出ず」 埼玉県警が調査
  朝日新聞

 女性が安心して議員選挙に立候補することができなくなります。女性の政治参加を抑制することになります。
 男女格差を示す「ジェンダー・ギャップ指数2020」(世界経済フォーラム)によると、日本は総合スコアで121位、政治分野では144位(153か国中)となっています。

参考 『女性のいない民主主義』 前田健太郎  岩波書店(岩波新書)

 旧日本軍によって従軍慰安婦とさせられた女性たちが性被害を訴えた時にも被害者バッシングが起きました。そして、「従軍慰安婦は性被害者ではない」とするいわゆる歴史否定論も公然と主張されるようになりました。女性差別がレイシズムと結びつくと危険な社会状況が生じます。現に、慰安婦に対するヘイト言説を批判すると「反日」などと攻撃される事象が頻発しています。

 草津町のウェブサイトには、全国フェミニスト議員連盟の抗議文「新井祥子議員に対する草津町議会の除名処分と議長主導の住民投票に抗議します」と草津町議会の「貴団体からの抗議文に対する当議会の見解」が掲載されています。
 多くの人びとが無自覚なままに差別に加担してゆく社会構造が議会の「見解」に映し出されています。議会の「見解」では、リコールによる解職について「その責任はひとえに新井祥子氏自身の政治姿勢に由来するもの」として被害者に責任転嫁しています。「「民主主義を蔑ろにする」との言葉は、リコールに賛成してくださった町民の尊厳を、まさに「蔑ろにする」もの」という文言には差別行為に多数決を利用する悪質性がにじみ出ています。差別、人権侵害、「いじめ」を批判することは加害者の尊厳を蔑ろにするものでしょうか。この「見解」文書は、差別を認識することを課題として批判的に(criticalに)読み解くべきテキストであるとも言えます。

草津町議会としての 抗議文の対応について
  草津町ウェブサイト

女性差別事件としての草津町議リコール運動

2020-12-25 23:06:05 | 共生・反差別
 群馬県草津町議会議員が町長からの性被害を訴えたところ、他の議員らがリコール運動を起こし、住民投票の結果、当事者議員は失職しました。

 このリコール運動の本質は「女性が性被害を訴えることは許されない。そのような女性は社会的に排除されるべきである」という女性差別にあります。この事件は、当事者の公的地位を剥奪(はくだつ)する社会的暴力というかたちの女性差別事件です。法制度、多数決を用いて形式上合法的に差別を実行したという点で、狡猾で悪質であるといえます。地方自治法で定められた直接請求権(リコールなど)は住民自治の理念を実現するための仕組みです。当然ながら、差別をするために存在するものではありません。また、この事件が数多くの性被害女性たちに沈黙を強要するという「見せしめ」的役割を果たすおそれも大きいでしょう。
 形式上合法的な方法といえば、近年、選挙運動という場を利用して差別的な宣伝を行う候補者が現れています。合法性という仮面を着けた差別行為に私たちは鋭敏でありたいものです。差別を差別として認識できないままだと、いつまでも差別をなくすことはできません。

 かつてナチスは、選挙(多数決)によって政権を掌握し、その後、凄惨な差別犯罪を実行しました。ナチス支配下のドイツを逃れた政治哲学者ハンナ・アーレントが語った「本当の悪は平凡な人間が行う悪です」という言葉をまた思い出しました。

草津町議会の差別的状況については下記の記事をご参照ください。

まるで現代の魔女狩り? 性被害を訴えた草津町議会女性議員へのリコール 北原みのり



労働者協同組合に法人格

2020-12-21 22:32:45 | いろいろ
 働く人びとが共同で出資、運営する事業体が法人格を取得できるようになります。労働者協同組合と呼ばれる事業体です。小規模ながらも働きやすい職場をつくるために活用できると思います。失業者やフリーランスの方が協力して仕事をする仕組みにも使えるかもしれません。

「労働者協同組合法案」成立を評価 声明文発表 生活クラブ連合会
  農協組合新聞


「協同労働」実現する労働者協同組合法が成立 多様な雇用機会の創出に期待
 東京新聞