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ハルモニア (文春文庫) |
篠田節子 | |
文藝春秋 |
音大の器楽科を卒業し、受験生のレッスンとたまに入る演奏活動をこなしながら生活している東野秀行(とうのひでゆき)。
東野は脳に障害をもつ浅羽由希(あさばゆき)という女性のチェロの指導を頼まれるが、彼は由希の才能に次第に圧倒されていく・・・自分が苦労してものにしてきた音を由希は難なくこなしていく・・・地道な努力を積み重ね、音楽家として何とか生き残っていた東野は、由希の底知れぬ才能に出会い、自分の歩んできた音楽家としての人生に疑問を持ち始める。
脳の障害のため、人間らしい感情を持たない由希は、音楽に関してはとてつもない能力を持ち、さらに音楽を通して高まっていった感性・感情は超常現象をも引き起こすことになる・・・
演奏会での多くの人に受け入れられるものの、それは一般受けする有名演奏家のエモーショナルな演奏の再現(猿まね)に過ぎない。
芸術家として絶対に求められるその人にしか出せない「自分の音」。それを獲得し、由希は世界に通用する演奏家になるのではないか・・・由希ならば自分が決して出すことのできなかった理想の音を由希は出せるのではないか・・・と感じながら、由希の可能性を探る東野。
東野の音楽家としての魂に火が付く。音楽の神が乗り移って最高の演奏が出来るなら、どんな犠牲を払ってもいい・・・由希にそんな演奏をさせたい・・・と物語は進行していく。
最後となる演奏会で由希は東野のイメージしていた、神の領域を感じさせる演奏をする。
しかし、音楽に情緒ばかりを求めてくる聴衆にはその「天上の音楽」の素晴らしさを理解することができない・・・
しかし、理想の演奏を由希を通して成し遂げた東野には失望感は全くない。
「君らにわかるものか・・・」今宵の由希の音楽を理解したのは一握りの人々だろう。自分がその一握りの内に入れることがうれしかった。
そして二人が行き着いたのは・・・
芸術とは何なんだろうと深く考えさせられた小説でもあった。
本当に素晴らしいものはすべての人々に届く・・・
人々が求めているもの、喜ぶレベルのものを提供するのは芸術ではない・・・
より高みを目指し、創作されるものが芸術・・・
芸術は多くの人に受け入れられなければ、所詮作者の自己満足に過ぎない・・・
己の理解できないもの、期待を裏切るものを批判するのは大衆のエゴ・・・
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