「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

星に結ばれた或る人生―『ほしにむすばれて』

2020年05月24日 | Science
☆『ほしにむすばれて』(谷川俊太郎・文、えびなみつる・絵、文研出版、2009年)☆

  「星」を主題にした絵本だが、たぶんこの絵本で「星」や「天文」の知識はほとんど身につかないだろう。「天文」ファンを自認する人はもちろんのこと、少しは星が好きな人なら知っていることばかり…宵の明星とか、すばるとか、ほうき星とか、たった十項目ほど。それも名前だけで説明はいっさいなし。でも、絵はとてもきれいで、人里離れたところで見上げる星空や、望遠鏡を覗いたときの感動を彷彿とさせてくれる。谷川俊太郎さんの文もあっさりとしているが、お話はファンタスティックというかロマンチックというか、こころが暖かくなってくる。孫が語る、星好きのおじいちゃんが生まれてから星空の彼方へ逝ってしまうまでのものがたり(おじいちゃんの一生)である。
  知識は得られなくても、きっと詩情はそそられる。しかし、あっと思ったところが一つだけあった。「あかるいちきゅうの ひかりで つきが てらされているのも みえた」と書かれているが、これは「地球照」のことを指しているのだと思う。説明はまったくないが、挿画にも「地球照」が描かれている。「地球照」とは、地球で反射した太陽の光が月面に届き、月の暗い部分を照らしている現象のことである。あの『二十億光年の孤独』を書かれた、さすが谷川俊太郎さん! それともう一つ、表紙見返しには、絵を描かれたえびなみつるさん撮影の「池谷・関彗星」が載っている。これも懐かしい!
  おじいちゃんと星との最初のつながりは、友だちと別れて家への帰り道に一番星(たぶん宵の明星)を見たことだった。わたし自身も(小学校中学年の頃)学校からの帰り道で宵の明星(その頃はその言葉も、それが金星であることも知らなかったが)を見たことが「天文」に興味を持ったきっかけだった。それから親にねだって望遠鏡(最初は経緯儀の屈折望遠鏡)を買ってもらい、月面のクレーターや土星の輪を見て、それはもう感動の嵐だった!(笑)
  その後のおじいちゃんの青春時代や大人になってからのことは、わたしとはかなりちがっているが、最初のきっかけだけでも同じということで、この絵本のことを書いておきたいと思った。おじいちゃんは星の彼方に旅立ってしまったが、わたしは旅立ちまでもう少し時間があるつもりでいる。とはいえ、人生の先を見るよりは、後ろを振り返ることが多い歳になってしまった。今更ながら、星に結ばれた縁が少なくなかったことが思い出されてくる。自分にとって『ほしにむすばれて』は自身の人生を振り返えさせてくれる絵本でもある。

  


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