「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

「元気の素」詰め合わせギフト―『自分へのごほうび』

2010年12月13日 | Life
☆『自分へのごほうび』(住吉美紀・著、幻冬舎)☆

  この本は当たりだった。アマゾンで本を買うと、アマゾンからおすすめのメールがくる。何でこれがおすすめになるのかよくわからない本も多くて、あまりおすすめには従わない。しかし今回は何かピンとくるものがあった。まず『自分へのごほうび』というタイトルが気に入った。著者の住吉美紀さんは、好きでよく見ていたNHKテレビ『迷宮美術館』の司会を務めていた女性アナウンサーだが、どんなことを書く人なんだろうという興味もあった。そこでアマゾンのレビューを見てみると、相当な高評価。もちろん人それぞれ好みも評価軸もちがうので、レビューの評価も当てにはならない。それでも文章や文体だけでなく、著者の感性を褒めるレビュアーが多く、ますます興味を持った。
  アマゾンから送られてきた実物を手に取ってみると、サイトのイメージ以上に鮮やかな赤色の包装紙に包まれたギフト仕様の装丁で、それだけでもこころがポッと暖かくなる。サムネイルのような写真を使った目次もオシャレだ。さて、読み始めてみると、たしかにおもしろい。住吉美紀さんなりの身辺雑記や日常の風景が綴られているだけで、特別なことや小難しいことが書かれているわけではない。だが読み始めると、本を置くのを忘れてしまう。もともと小説よりもエッセイが好きな質だが、読み始めたら止まらないエッセイには久しぶりに遇った思いだ。
  ふつうのことを綴ったエッセイのおもしろさは、いったいどこにあるのだろうか。日常のあれこれについて、著者がどんな見方をしているのか、その感性に共感できるかどうかが基本だろう。うんうん、そうそう、わかるわかる、という感覚。女性の著者と女性の読者は、とくにそこで結び付くことが多いように思う。共感に加えて、意外なものの見方や解釈を見せてくれれば、さらにおもしろさは倍増する。ヘぇーそうなんだとか、言われてみればそんな見方もできるよねーという感覚だろうか。
  読んでみると、この驚きの感覚がけっこう深い。もちろん読者から見れば驚きであっても、住吉さんにしてみれば日常の出来事を咀嚼し、それを自らを省みる材料にした上で、明日への元気の素へとつなげているということだ。読者に何か教訓じみたことを示そうとしているわけではない。しかし、そこで読者も一歩深い共感が得られれば、読者もまた元気がもらえる。「自分(住吉さん)へのごほうび」は「読者へのごほうび」になるという仕組みだ。
  デジカメを買った話から電化製品の多機能の話に移り、人生の何に重きを置くかにまで話は及ぶ。ネコの生き方からマイペースなスローライフを学んだりもする(そういえば「たまには無意味なことをしてみる、自分の気持ちよさを優先する、自分の能力に限界を設けない」をネコから教わるというテレビCMがあったっけ)。そうかと思えば、ヨガやカラオケ“部活”など体育会系の一面も見せてくれる。“部活”には共感できないけれど、「小荷物主義」のような人生を身軽にという姿勢には清々しさを感じる。洗濯物が優しく揺れるのを見て幸せを思う感性にはとても共感するし、洗濯物の向こうに住吉さんの人間性を見る思いがする。
  最後の方で、先が見えなくとも大きな決断をした女友だちの話が出てくる(「女子の決断」)。それを受けて住吉さんも「人生は先がわからないから面白いんだ」と言い切る。いまの時代、女性の方が元気だし、決断力もあるように思う。男はウジウジしていて、建前ばかりでなかなか決断できない。だから、男は女性から学ぶことの方が多いし、学ぶべきだと思う。世間一般から見れば、自分は男なのに女性の書いたものを読むことがたしかに多い。それは男が書いたものよりも、女性の視点から書かれたものの方が、より学ぶべきことが多いからだ。無意味な衣だか鎧だかを脱いで読めば、本書は男にとってもきっと「ごほうび」になるはずだ。
  もうすぐクリスマス。この本、クリスマスのギフトにもなりそうだなぁ~。

  

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