体育館での入学式が終わった後、一旦教室に戻り、机の上にある教科書や教材などの確認が行なわれ、その後、明日以降の時間割などが担任から説明された。
<どうしよう、前が、見づらい…>
背の低い文人は、前の席に座っている男子の頭で黒板が見えなかったので、必死に首を伸ばしていた。その時、隣りの席に座っていた少年が、手を挙げた。
「あの、先生…。俺の隣りにいる子、前が見づらくて大変そうなんだけど…」
少年は、文人の様子に気が付いて、担任にその事を話した。担任は、文人のところまで来ると、文人の目線までかがんで、前を見てみた。
「あら、本当っ…。これじゃあ、見えないわねっ…」
担任は、立ち上がって前に戻った。
「皆さん、先に席替えをしましょう。体育館へ行った時みたいに、もう一度廊下に出て並んでみて下さい…」
教室にいた生徒達は、もう一度廊下に出ると、背の低い順に並んだ。そして、担任がその順番で黒板に席順を書き、背の低い生徒から席に座らせていった。
「明日以降、席順を紙に書いて教室に張っておきますので、皆さんはそれを見て自分の席を確認して下さいね」
文人は、一番前の窓際の席になり、そこへ座った。そして、先程の少年は、クラスで一番背が高いので、廊下側の一番後ろの席に座っていた。
<…僕と同じ年なのに…、頭一つ分ぐらい、僕より背が高いや…>
文人は、チラッと後ろを振り向き、羨ましそうにその少年の方を見た。少年は、文人の視線に気付いてニコッと笑った。
担任からの説明がひと通り終わると、文人はもう一度、教科書や教材を確認した。そして、教科書をランドセルの中に入れ、入りきらないものは予め持ってきたバッグの中に入れていた。その時、先程の背の高い少年が文人のところに来た。
「…さっきは、ありがとう…」
文人は、照れ臭そうにうつむいたまま、お礼を言った。そして、ランドセルを背負い、バッグを持とうとした時、その重みでバランスが崩れ、後ろに仰け反りそうになった。
「おっと…」
少年は、とっさに文人を支えた。
「ひょっとして、今日、一人で学校に来たのかい…? 一人で全部家に持って帰るには、結構重いよ、コレ…」
少年は、見かねて文人のバッグを持った。
「途中まで持ってあげるよ…」
文人は結局、家まで少年にバッグを持ってもらう事になった…。
帰り道、文人は自分より背の高い少年を何度も見上げていた。見れば見るほど、少年は自分よりはるかに背が高く見えた。だが、少年から不思議と『威圧感』は感じられず、むしろ自分が少年に守られているような、そんな『安心感』を感じていた…。
家の前まで来ると、文人はお礼を言って、バッグを持った。だが、バッグの重みでよろけてしまい、兄もまだ学校から帰ってきていないので、結局、自分の部屋までバッグを運んでもらった…。
「本当、ありがとう…」
文人は、台所へ行き、グラスにジュースを入れて、部屋に持ってきた。
「君んトコ、お父さんもお母さんも、共働きなんだ…」
「…うん…。本当は今日、二人とも非番だったんだけど、朝、仕事先から連絡が入って…」
少年は、余程喉が渇いていたのか、文人の持ってきたジュースを一気に飲み干した。
「俺も今日、オヤジが出張でいなくてさぁ…。いや~、入学式、メッチャ緊張した~っ!」
「…えっ…?」
「…俺んトコ、おふくろいなくてさ…。オヤジと2つ上の兄貴と三人家族…。俺のオヤジ、公務員だから、会議とかで何かと出張が多くてさ…」
文人はその時、少年も自分と同じく一人で入学式に出席していた事を知った。
「そういや、君の名前、まだちゃんと訊いてなかったけど…」
教室で自己紹介をする前に席替えをして、時間がなくなってしまったので、生徒の自己紹介は明日になってしまったのである。
「僕は、津川文人…。君は?」
「俺? 俺は、原竜次…。ヨロシク♪」
そう言うと、竜次はニコッと笑った。
この日、竜次は文人の最初の『友達』になった…。
<どうしよう、前が、見づらい…>
背の低い文人は、前の席に座っている男子の頭で黒板が見えなかったので、必死に首を伸ばしていた。その時、隣りの席に座っていた少年が、手を挙げた。
「あの、先生…。俺の隣りにいる子、前が見づらくて大変そうなんだけど…」
少年は、文人の様子に気が付いて、担任にその事を話した。担任は、文人のところまで来ると、文人の目線までかがんで、前を見てみた。
「あら、本当っ…。これじゃあ、見えないわねっ…」
担任は、立ち上がって前に戻った。
「皆さん、先に席替えをしましょう。体育館へ行った時みたいに、もう一度廊下に出て並んでみて下さい…」
教室にいた生徒達は、もう一度廊下に出ると、背の低い順に並んだ。そして、担任がその順番で黒板に席順を書き、背の低い生徒から席に座らせていった。
「明日以降、席順を紙に書いて教室に張っておきますので、皆さんはそれを見て自分の席を確認して下さいね」
文人は、一番前の窓際の席になり、そこへ座った。そして、先程の少年は、クラスで一番背が高いので、廊下側の一番後ろの席に座っていた。
<…僕と同じ年なのに…、頭一つ分ぐらい、僕より背が高いや…>
文人は、チラッと後ろを振り向き、羨ましそうにその少年の方を見た。少年は、文人の視線に気付いてニコッと笑った。
担任からの説明がひと通り終わると、文人はもう一度、教科書や教材を確認した。そして、教科書をランドセルの中に入れ、入りきらないものは予め持ってきたバッグの中に入れていた。その時、先程の背の高い少年が文人のところに来た。
「…さっきは、ありがとう…」
文人は、照れ臭そうにうつむいたまま、お礼を言った。そして、ランドセルを背負い、バッグを持とうとした時、その重みでバランスが崩れ、後ろに仰け反りそうになった。
「おっと…」
少年は、とっさに文人を支えた。
「ひょっとして、今日、一人で学校に来たのかい…? 一人で全部家に持って帰るには、結構重いよ、コレ…」
少年は、見かねて文人のバッグを持った。
「途中まで持ってあげるよ…」
文人は結局、家まで少年にバッグを持ってもらう事になった…。
帰り道、文人は自分より背の高い少年を何度も見上げていた。見れば見るほど、少年は自分よりはるかに背が高く見えた。だが、少年から不思議と『威圧感』は感じられず、むしろ自分が少年に守られているような、そんな『安心感』を感じていた…。
家の前まで来ると、文人はお礼を言って、バッグを持った。だが、バッグの重みでよろけてしまい、兄もまだ学校から帰ってきていないので、結局、自分の部屋までバッグを運んでもらった…。
「本当、ありがとう…」
文人は、台所へ行き、グラスにジュースを入れて、部屋に持ってきた。
「君んトコ、お父さんもお母さんも、共働きなんだ…」
「…うん…。本当は今日、二人とも非番だったんだけど、朝、仕事先から連絡が入って…」
少年は、余程喉が渇いていたのか、文人の持ってきたジュースを一気に飲み干した。
「俺も今日、オヤジが出張でいなくてさぁ…。いや~、入学式、メッチャ緊張した~っ!」
「…えっ…?」
「…俺んトコ、おふくろいなくてさ…。オヤジと2つ上の兄貴と三人家族…。俺のオヤジ、公務員だから、会議とかで何かと出張が多くてさ…」
文人はその時、少年も自分と同じく一人で入学式に出席していた事を知った。
「そういや、君の名前、まだちゃんと訊いてなかったけど…」
教室で自己紹介をする前に席替えをして、時間がなくなってしまったので、生徒の自己紹介は明日になってしまったのである。
「僕は、津川文人…。君は?」
「俺? 俺は、原竜次…。ヨロシク♪」
そう言うと、竜次はニコッと笑った。
この日、竜次は文人の最初の『友達』になった…。
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