洋次は、家に帰り、ベッドに寝転がると、深く溜息をついた。そして、ある考えが思い浮かんだ…。
○
日曜、司の作戦が実行される日が来た。
早朝、洋次は竜次の家に立ち寄った。
「どうした? 随分早いな…」
竜次は、まだ寝起きで頭がボーッとしていた。
「今日の作戦、中止だって電話入ったから、夕べお前ん家に電話入れたんだけど…」
「えっ…? 何でまた…?」
「さあな~…。司さんの事だから、どうせまた作戦変更でもするんじゃないのか?」
洋次は、そうはぐらかし、せめて竜次だけでも司から引き離そうと嘘をついた。
<これで、良かったんだよな…? 竜次、お前は、あの眼鏡チビのところに、戻るんだっ…>
洋次は、竜次の家をあとにし、ひと足早く空き地に到着すると、司が来るのを待った。
10分後、司が到着した。
「よぉ、珍しいな…。今日は一人で来たのか?」
司は、洋次の肩をポンと叩いた。
「みんなが集まる前に、司さんに話があって…」
「んっ? 何だ、言ってみろ。女の事での悩みか?」
司は、最初茶化すように言ってみたが、洋次が真剣な表情をしていたので、人目につかないよう、物陰に連れ込んだ。
「…あのなぁ、何があったか知らんが、相談事だったら、違う日に…」
「竜次を、俺らのグループから、外してもらいたいんですっ…」
「はぁ~っ?」
洋次の言葉に、司は思わず唖然としてしまった。
「お前さぁ、自分が何言ってるか、わかってんのかっ?」
司は、洋次の襟首をグッと掴んだ。
「竜次は、元はといえば、俺が仰せに暴力受けているのをかばって、巻き込まれたようなものなんですっ。だから、アイツを、これ以上巻き込むワケにはっ…」
洋次がそう言いかけると、司はパッと手を離してから、洋次の腹を思い切り殴った。
「ぐっ…」
洋次は、腹を抑えてその場にうずくまった。司は怒りをあらわにした表情で、洋次の髪をグイッと掴んで引っ張った。
「今すぐ、呼んで来いっ!」
司が怒りをあらわにして言っても、洋次は首を横に振った。
「ムダですよっ…。アイツ、俺が朝早く行って起こして、今日の作戦は中止になったって言ってきたから、今頃は二度寝して、今日はもう起きないかもっ…」
司はそれを聞いて、洋次を地面に叩きつけた。
「…ナメたマネしやがってっ…!」
司は、更に洋次の身体を、何度も蹴った。
「お前、そこまでするには、それ相応の覚悟が出来てるんだろうなっ! いいか、この落し前は、後でじっくりつけさせてもらうからなっ! 今日は何が何でも、あの三人組を捕まえるんだっ! わかったなっ!」
司は、もうひと蹴りすると、洋次の顔にペッとツバをかけた。洋次は、唇から出ていた血を手で拭いながら、司の後ろ姿を見た。
<…あの女と決着つける前に、こいつを何とかしないとな…>
洋次は、いずれ司を倒す機会を狙おうと考えていた。
その頃、竜次はというと、まだ眠かったので、もう一度寝ようとベッドに寝転がった。だが、次第に目が冴えてきたので、仕方なく起き上がりシャワーを浴びた。
シャワーを浴びながら考えれば考えるほど、洋次の態度が腑に落ちなかった。
<…アイツ、まさかっ…!>
竜次は、洋次が自分に嘘をついた事に気付くと、慌てて着替え、急いで街中へ向かった…。