竜次と洋次は、中学校に入学して間もなく学校の不良達に目をつけられたが、二人だけで全員倒してしまった事から、同学年だけでなく、上級生からも恐れられる存在になってしまっていた。
「あいつら小学時代に、白石北中の風間達と一緒に大瀬にヤキ入れて、大怪我させたんだって…」
「マジでっ…?」
「それに、この学校の不良達も、あの二人にボコられたらしいぞっ…」
「そうそう、あいつらとヘタに関わると、危ないってよっ…」
「でもよ、あいつら、何で逮捕されなかったんだ?」
「それがさ、あいつらの親、かなり金持ちらしくてよ、警察に行って多額の賄賂払ったからじゃないかって噂だぜ…」
他の生徒達は、二人を恐れ、関わり合いにならないよう、避けていた。特に竜次は、この頃になると2m近くまで背が伸びていたので、廊下を歩いているだけで、前から来る生徒達が恐がってよけていた…。
ある土曜日の午後、好美と忍は街中で逢っていた。
ハンバーガーショップで、忍は竜次と洋次の事を話していた。
「…どうやら、とんでもない事になってしまったみたいね…」
竜次と洋次の噂は、好美の耳にも入っていた。好美は、司と同じ白石北中学校に入学していて、司がやりたい放題しているのを見て、何とかしなければと考えていた…。
「…文人君も、二人の噂聞いて、あの時ちゃんと説得して止めていればよかったって、胸を傷めているみたい…」
「あの子だけが悪いワケじゃない…。あたし達も、二人を止められなかった…」
好美と忍も、二人を止められなかった事を、ずっと後悔していた。
「司のヤツ、学校の中だけでなく、街中でも他校の連中とつるんで色々と悪さしてるみたい…。このまま放っておいたら、大変な事になりそうな気が…」
「でも、いくら好美ちゃんが強くても、俺と好美ちゃんの二人だけじゃ限界が…」
「…そう、それなんだよねぇ…。あともう一人ぐらい、誰かケンカに強いのがいれば、何とかなるかもしれないけど…」
好美はそう言うと、ドリンクを飲みながら溜息をついた。
「あっ…!」
その時、忍は何か思い出し、大声を出して立ち上がった。
「ねぇっ、好美ちゃんっ! もしかしたらっ、何とかなるかもっ…♪」
「えっ…?」
忍は、一気にドリンクを飲み干し、少し落ち着いてから、好美の耳元で何か話した。
「…それ、本当なのっ…?」
好美は半信半疑だったが、忍はニコッと笑みを浮かべていた。
夕方、文人はいつものように公園で自主トレをしていた。文人は、竜次を以前のような優しい少年に戻す為、中学生になってからも毎日懸命になって自主トレを続けていたのである。手首と足首に巻き付けたリストバンドも、今では40キロにまで増え、その重さも文人には既に軽いものになっていた。
〈…そろそろ、また増量しないと…〉
公園の樹木に吊るしてある5個目のサンドバッグも、文人が毎日使い込んだおかげですっかりボロボロになっていた。
〈もっと強くなって、竜次君を元に戻さないとっ…〉
文人はサンドバッグに、何度も突き刺すような鋭い拳を叩きつけていた。その様子を、好美と忍が物陰から見ていた。
「こないだ、偶然見かけたんだけど…」
「…なるほどねぇ…」
好美は、懸命に自主トレをしている文人を見ながら、何か思いついていた。
翌朝、文人は朝食前に自主トレをしに、いつもの公園に来た。すると、好美と忍が先に来ていた。
「おはよう、文人君♪」
文人は一瞬驚いたが、自主トレの事を知られないよう、平然と振る舞った。
「おはよう、忍君。君が朝早くから珍しいね。君も散歩かい?」
文人は散歩のフリをして、時間をずらしてからまた来ようと思い、家へ帰ろうとした。
「待って…。君がいつもここで自主トレしてる事、俺達もうわかってるから…」
それを聞いて、文人は思わず振り向いた。
「…二人があんな事になってしまって、君が後悔するのもわかる…。でも、何でも一人で背負い込まないでほしいんだ…。ひと言相談してくれれば、俺や好美ちゃんだって…」
忍は、文人の肩を軽く叩いてそう言った。すると、今まで張りつめていたものが切れたかのように、文人の目から涙が溢れた。
「僕が…、もっと強かったらっ…! だから、もっと強くなって、竜次君をっ…!」
文人は悲痛な表情を浮かべ、サンドバッグに一撃した。その瞬間、サンドバッグが鈍い音を立てて破裂し、中に入っていた砂が辺りに飛び散った。
「…気持ちはわかるけど、君一人だけじゃムリだよ…」
忍がそうなだめると、文人は忍の胸に顔を埋めて、ワッと泣き叫んだ。文人の手を見ると、傷だらけになっていた。
〈ずっと一人で、ここまで頑張ってきたのね…〉
好美は、痛々しくもけなげな文人の姿を見て、決心した。
「あなたがそこまで覚悟を決めてるなら、あたし達も、協力する…」
「…えっ…?」
文人はそれを聞いて、好美を見た。
「俺も…。一人より、誰かと一緒の方が、良い考え浮かぶと思うんだ…」
忍は、文人の涙を拭うと、固く手を握った。そして、好美も。
「かなりキツイ特訓になるけど、大丈夫?」
好美の言葉を聞き、文人は、強い眼差しで二人を見ると、黙ってうなずいた。
その日から、好美達の『猛特訓』が始まった…。
…To be continude,to the next story…