子供の頃に熟れた実を糸でつないで数珠を作ったジュズダマ。今ではそんな暇なことをする子供はいないだろう。「数珠玉やむかし一日永かりき 渡邊千枝子」。大人が実際に数珠にする目的で作っていたことあるらしい。それにハト麦の原種だとは驚いた。役に立たない雑草だと思い込んでいたのだが。雑草ではあるが、俳句の世界では意外に好まれた季語らしい。黒く実った数珠に日光があたると光るところがとくに注目されたようだ。「数珠玉のかちりと夕日返しけり 大嶽青児」の句のように。
(2019-09 川崎市 森林公園)
ジュズダマ(数珠玉、Coix lacryma-jobi)は、水辺に生育する大型のイネ科植物の1種である。
インドなどの熱帯アジア原産。
特徴
一年草で、背丈は1m程になる。根元で枝分かれした多数の茎が束になり、茎の先の方まで葉をつける。葉は幅が広い線形で、トウモロコシなどに似ている。花は茎の先の方の葉の付け根にそれぞれ多数つく。葉鞘から顔を出した花茎の先端に丸い雌花がつき、その先から雄花の束がのびる。雌花は熟すると、表面が非常に固くなり、黒くなって表面につやがある。熟した実は、根元から外れてそのまま落ちる。
ハトムギ
ハトムギ(C. lacryma-jobi var. ma-yuen)は、ジュズダマの栽培種である。全体がやや大柄であること、花序が垂れ下がること、実がそれほど固くならないことが、原種との相違点である。
イネ科植物の花は、花序が短縮して重なり合った鱗片の間に花が収まる小穂という形になる。その構造はイネ科に含まれる属によって様々であり、同じような鱗片の列に同型の花が入るような単純なものから、花数が減少したり、花が退化して鱗片だけが残ったり、まれに雄花と雌花が分化したりと多様であるが、ジュズダマの花序は、中でも特に変わったもののひとつである。
まず、穂の先端に雄花、基部に雌花があるが、このように雄花と雌花に分化するのは、イネ科では例が少ない。細かいところを見ると、さらに興味深い特徴がある。
じつは、先に“実”と標記したものは、正しくは果実ではない。黒くてつやのある楕円形のものの表面は、実は苞葉の鞘が変化したものである。つまり、花序の基部についた雌花(雌小穂)をその基部にある苞葉の鞘が包むようになり、さらにそれが硬化したものである。この苞葉鞘の先端には穴が開いており、雌花から伸び出したひも状の柱頭がそこから顔を出す。
雌花は受粉して果実になると、苞葉鞘の内で成熟し、苞葉鞘ごと脱落する。一般にイネ科の果実は鱗片に包まれて脱落するが、ジュズダマの場合、鱗片に包まれた果実が、さらに苞葉鞘に包まれて脱落するわけである。
実際にはこの苞葉鞘の中には1個の雌小穂のほかに、2つの棒状のものが含まれ、苞葉鞘の口からはそれら2つが頭を覗かせている。これらは退化して花をつけなくなった小穂である。したがって、包葉鞘の中には、花をつける小穂(登実小穂)1つと、その両側にある不実の小穂2つが包まれていることになる。
これら雌小穂と不実の小穂の間から伸びた花軸の先には、偏平な小判型の雄小穂が数個つく。1つの雄小穂にはそれぞれに2つの花を含む。開花時には鱗片のすき間が開いて、黄色い葯が垂れ下がる。
利用
脱落した実は、乾燥させれば長くその色と形を保つので、数珠を作るのに使われたことがある。中心に花軸が通る穴が空いているので、糸を通すのも簡単である。実際に仏事に用いる数珠として使われることはまずないが、子供のおもちゃのように扱われることは多い。古来より「じゅずだま」のほか「つしだま」とも呼ばれ、花環同様にネックレスや腕輪など簡易の装飾品として庶民の女の子の遊びの一環で作られてきた。秋から冬にかけて、水辺での自然観察や、子供の野外活動では、特に女の子に喜ばれる。
数珠玉
ずずだまや昔通ひし叔父が家 正岡子規
あをあをとかまきりの子と数珠玉と 黒田杏子
ずずだまの穂にうすうすととほき雲 長谷川素逝 暦日
とりためて数珠玉の掌にあたたかし 西山誠
のばせば手とゞくどの数珠玉も愛ためて 磯貝碧蹄館 握手
ゆふいんの銀鼠ずずこ雨まみれ 高澤良一 鳩信
惜しむべし巨大放屁も数珠玉も 永田耕衣 人生
数珠玉がこぼれ眼路には八重の潮 木村蕪城 寒泉
数珠玉が光れば村の十里見ゆ 本郷 潔
数珠玉にきざすむらさき神衣織る 浜地和恵
数珠玉にことし川原の肥えにけり 辺見京子
数珠玉にまた大雨の予報あり 青山 丈
数珠玉に子が群れり何のためか 平井照敏
数珠玉に水流れをり記憶失せ 木村蕪城 寒泉
数珠玉に触れゆけり皆母となり 加藤みな子
数珠玉に雨ほそくなる睡りかな 飯名陽子
数珠玉に霧か雨かもわかずとぶ 西村公鳳
数珠玉のいく叢過ぎし風のいろ 根岸 善雄
数珠玉のいつまで玉を生むかなし 田村木国
数珠玉のかたきひかりとなりにけり 千代田葛彦
数珠玉のかちりと夕日返しけり 大嶽青児
数珠玉のひかり子育て終らむか 蓬田節子
数珠玉のまだ実の入らぬ青さかな 海老沢貴美
数珠玉の今日まで青き秋日和 下村槐太 天涯
数珠玉の入口うづむ隠れ里 松崎鉄之介
数珠玉の壁に立ち添ふ秋の風 右城暮石
数珠玉の幾株野川折れまがり 市村究一郎
数珠玉の数珠つなぎつつ子が眠し 上野さち子
数珠玉の流失村も灯せり 萩原麦草 麦嵐
数珠玉の結び初めたる隠れ井戸 呉屋菜々
数珠玉の裏山道を塞ぎけり 岡本 求仁丸
数珠玉の露やけふより母に杖 古賀まり子 緑の野
数珠玉の青きひかりや海のみち 壺井 久子
数珠玉の風にしやりしやり戦知らず 大木あまり 山の夢
数珠玉の鳴つて夕闇下りてくる 寺岡捷子
数珠玉はその量ほどの露を吊る 田中灯京
数珠玉は刈り残されぬ土堤の腹 石塚友二
数珠玉も固きひかりとなりにけり 千代田葛彦 旅人木
数珠玉も江も暮れ切つてゐる別れ 木村蕪城 寒泉
数珠玉やきのふと同じ風が吹き 今井杏太郎
数珠玉やこの世にあまた節子の名 鈴木節子
数珠玉やむかし一日永かりき 渡邊千枝子
数珠玉や夕霧野川べりに濃き 宮下翠舟
数珠玉や子に出始めし癇の虫 平子 公一
数珠玉や子の事故現場弔へる 山田建水
数珠玉や家のまはりの水消えて 岸田稚魚 『萩供養』
数珠玉や小さく乾く母のもの 古賀まり子 緑の野以後
数珠玉や川にむかしの櫂の音 岡島雅子
数珠玉や弱くなりたる虫の唱 徳永山冬子
数珠玉や戸のあけたての合はぬまま 多田一峰
数珠玉や日暮はいつもうしろより 岸田稚魚 『紅葉山』
数珠玉や月夜つづきて色づける 新田祐久
数珠玉や歩いて行けば日暮あり 森澄雄(1919-)
数珠玉や汽車の煙が汽車を追ふ 磯貝碧蹄館 握手
数珠玉や浦の方より鶏のこゑ 古舘曹人
数珠玉や真間の低山露に伏す 千代田葛彦 旅人木
数珠玉や舟板かけて橋とせる 山野邊としを
数珠玉や蔵に用なき一斗枡 溝口みさを
数珠玉や赤子抱かせてもらひたる 関戸靖子
数珠玉や里の下草富士詣 才麿
数珠玉や野川ここより北へ急く 石田波郷
数珠玉や靴をはかない風の群 磯貝碧蹄館 握手
数珠玉や風にしやりしやり戦知らず 大木あまり
数珠玉や鶏がかほ出す札所寺 関戸靖子
数珠玉をあつめて色のちがふこと 小川軽舟
数珠玉をお手玉にしてひいふうみ 有馬 芳子
数珠玉をつなぐ心は持ち合はす 後藤比奈夫 祇園守
数珠玉をつなげば光つながりぬ 豊東蘇人
数珠玉を刺す針光り誕生日 北見さとる
数珠玉を己さいなむごと*もぎぬ 石田あき子 見舞籠
数珠玉を手ぐさに野路や業平寺 的場 敏子
数珠玉を採りて化仏の薬壺にせむ 高澤良一 素抱
数珠玉を握れば軽ろき音のして 中野 喜久枝
数珠玉を摘めば音たつ玉藻塚 八牧美喜子
数珠玉を植ゑて門前百姓かな 村上鬼城
数珠玉を過ぎてずんずん暮るゝ道 高澤良一 ももすずめ
数珠玉摘み泡立つ海に出会ひたり 山田みづえ
日照雨して数珠玉は実のうらわかし 石田いづみ
物識り狐が手繰る数珠玉かき鳴らし 鈴木栄子
若者の訃や数珠玉の乾く音 萩原俊佑
行き過ぎて数珠玉に日の強かりき 岸田稚魚
醜草のなか数珠玉の鳴りにけり 見原山葉
ずず玉の天つ日返す地蔵盆 高澤良一 ぱらりとせ
ずず玉のつるんつるんにかえりゃんせ 高澤良一 ぱらりとせ
数珠玉や使い途なき三角地 高澤良一 石鏡