ムラサキシキブは花よりも実が美しいので、多くの場所に植えられている。紫の小さな果実が並ぶと、宝石みたいだ。コムラサキシキブと判別が難しいが、写真でみると葉全体に鋸歯があるので、ムラサキシキブだろう。優雅な名前だが、もともとはムラサキシキミだったらしい。たくさんの紫の実がつく木というわけだ。
(2019-10 東京都 神代植物公園)
ムラサキシキブ(紫式部、Callicarpa japonica)はシソ科の落葉低木である。日本各地の林などに自生し、また果実が紫色で美しいので観賞用に栽培される。
特徴
高さ3m程度に成長する。小枝はやや水平に伸びる。
葉は対生で長楕円形、鋭尖頭(先端が少し突き出すこと)、長さ6-13cm。細かい鋸歯がある。葉は黄緑で洋紙質、薄くて表面につやはない。初めは表側に細かい毛があることもある。
花は淡紫色の小花が散房花序をつくり葉腋から対になって出て、6月頃咲く。秋に果実が熟すと紫色になる。果実は直径3mmで球形。栽培品種には白実のものもある。
名前の由来は平安時代の女性作家「紫式部」だが、この植物にこの名が付けられたのはもともと「ムラサキシキミ」と呼ばれていたためと思われる。「シキミ」とは重る実=実がたくさんなるという意味。
スウェーデンの植物学者のカール・ツンベルクが学名を命名した。
分布など
北海道から九州、琉球列島まで広く見られ、国外では朝鮮半島と台湾に分布する。低山の森林にごく普通に見られ、特に崩壊地などにはよく育っている。ムラサキシキブ(コムラサキ、シロシキブ)の名所として、京都・嵯峨野の正覚寺が有名である。
オオムラサキシキブの果実(石垣島)
非常に変異の幅が広い植物で、栽培もされるため、園芸品種もある。特に果実が白いものはシロシキブと呼ばれ、よく栽培される。その他に果実の小さいコミムラサキシキブ、葉の小さいコバノムラサキシキブなどの名称で呼ばれるものもある。ただし栽培品には下記のコムラサキもあるのでその点には注意されたい。
オオムラサキシキブ
より大きな変異としては変種として扱われるものにオオムラサキシキブ var. luxurians Rehd. がある。岩手県の準絶滅危惧の種に指定されている。基本変種に比べて葉は厚く大きく、長さ20cmにも達する。枝や花序も一回り大きい。本州以南に見られるとされ、やや南よりの分布を持つ。『琉球植物誌』では琉球列島のものはすべてこれであると判断している。しかし、この二者は典型的なものでは一目で全くの別物と思えるほどに異なるのに、中間的なものが結構あり、明確な判断が難しい例も多い。
近似種など
コムラサキ
コムラサキ(C. dichotoma)も、全体に小型だが果実の数が多くて美しいのでよく栽培される。別名コシキブ。ムラサキシキブとは別種であるが混同されやすく、コムラサキをムラサキシキブといって栽培していることが大半である。全体によく似ているが、コムラサキの方がこぢんまりとしている。個々の特徴では、葉はコムラサキは葉の先端半分にだけ鋸歯があるが、ムラサキシキブは葉全体に鋸歯があることで区別できる。また、花序ではムラサキシキブのそれが腋生であるのに対して、コムラサキは腋上生で、葉の付け根から数mm離れた上につく。岩手県で絶滅、その他多数の都道府県でレッドリストの絶滅寸前・絶滅危惧種・危急種・準絶滅危惧の種に指定されている。
ウラジロコムラサキ
ウラジロコムラサキ(C. nishimurae)は、環境省のレッドリストで絶滅寸前の種に指定されている。小笠原諸島の固有種で父島では絶滅し、兄島に少数の個体が残っている。