イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

今度はイカ墨パスタ発祥の店!?

2019年10月30日 16時54分08秒 | イタリア・食

月曜の夜、9時過ぎ、妹からいきなり電話
「7チャン見て!」
はぁ?と思ってチャンネルを回すと、いきなり具志堅さんin Venezia
世界ナゼそこに?日本人」という番組で、「イカ墨パスタ発祥のレストラン」というのが出ていて、妹が昔々2人で行ってすごくおいしかったレストランではないか?と
実際件のレストランではなかったのだが、気になる…またでた「××発祥のレストラン」

日本語で検索したら、案の定「イカ墨パスタ発祥のレストラン Trattoria alla Madonna」出てくる出てくる。
ちなみに検索1番で出て来たこちらのサイト、”Trattoria”のスペル完全に間違ってまっせ。
そんなことはさておき、レストランのサイトには「発祥」なんてことは書かれていない様子。
「イカ墨パスタ発祥の店」とイタリア語で検索をかけても、全く出て来やしない。

私を含め「××発祥の店」と聞けば、やはり行ってみたくなる。
そんな日本人特有の心理を使った宣伝文句なのだろうか?どこかに根拠が有るのだろうか?
例えばカルボナーラの時は、2店とも名前が「La Carbonara」だったから、まぁそう思っても仕方がないかぁ、という気はするんだけど。
なら、と「ビステッカ・アラ・フィオレンティーナ(Bistecca alla fiorentina)発祥のレストラン」で検索かけたけど、さすがに出なかった。

余談だが、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを生んだのはメディチ家。
毎年8月10日に聖ロレンツォ(San Lorenzo)を祀るお祭りの時に、市民にローストした牛肉の塊を街のメインの広場で配ったのが始まり。
「ビステッカ」という名前の方は、1500年後半仕事でフィレンツェに来ていたイギリス人が、仕事が終わるとグループで集まって宴会を開いていたところに、雄牛のローストした肉が提供されていました。するとこのイギリス人たち、旨さを称えるため、おかわりを求めるため「beef steak! beef steak!」と大声で叫び始めました。
この「ビーフステーキ」コールを聞いたフィレンツェ市民は、すぐにこのお肉をイタリア語化して「bi-stecca」と呼び始めたとか。(参考

ちなみにフィレンツェでビステッカ・アッラ・フィオレンティーナを食べるならこちらのお店がおすすめ。
Ristorante Perseus
あら?ここリストランテなの?
ここは全然かしこまった恰好じゃなくても大丈夫!

話は「イカ墨」に戻りますが、これ自体オリジナルに2説有るらしい…ってこの度初めて知った。
「イカ墨」ってもともと好んで料理に使われるような食材ではなかった、ということは例えば食べた後は口の中が真っ黒になるから。これもpiatto poveroつまり貧しい一皿の1枚だったみたい。
イカ墨パスタは、現在は基本的にはスパゲッティとかリングイネのような長いパスタと和えられる。
イタリアの海岸地方で普及した一皿なのだが、中でも2つの地域のレシピが代表的。
1つは言うまでもなくヴェネト、そしてもう1つはシチリア。

シチリアの東部で生まれたイカ墨料理は、豚を殺す時は、余すところなく使うように、漁師たちはイカも全部を食べるために残していた。
漁師のおかみさんたちは、イカの墨と軽く炒めたニンニク、トマトとイタリアンパセリを混ぜて調理をしていた。
私が参考にしていたサイトには「パスタ」はこの材料の中になかった。
この辺はパスタの歴史に関連しているので、もう少し調べてみよう。
この料理、はっきりシチリアのどこで生まれたものかは分からない。多分同時発生的でしょう。
しかしその中でもカターニャには「Ripiddu nivicatu」(発音不明…)という伝統的なイカ墨を使ったリゾットが有る。


写真:https://www.siciliafan.it/u-ripiddu-nivicatu-ricetta/
これがそのリゾット。初めて見た。

カターニャには2006年、日本人サッカー選手森本貴幸が滞在していたこともある。
現在も活発な火山活動を続けているエトナ山の麓にある、シチリア第2の都市。
このイカ墨のリゾットはそのエトナ山をイメージして作られらた、とか。
イカ墨を和えたお米を山型にして、てっぺんには山羊のリコッタチーズを乗せ、その上にトマトソースをかけたもので、まるで雪の積もった山から溶岩が流れてきているみたい。

そしてもう1つのレシピはヴェネトのもの。
ヴェネツィア湾で取れたイカの墨は、古代から食材として利用されていたが、こちらはイカの本体も使う。
ぶつ切りにしたイカと墨、一緒に調理されていた。
そしてある時、それを誰かがヴェネツィアの伝統的なパスタ”Bigoli(ビゴリ)”と混ぜた。
それがイカ墨パスタの始まり。
これは多分それまで食べ続けていたアンチョビ、イワシ、玉ねぎのソースに飽きたせいでは?と。

ただし、イカ墨料理を食べていたのはイタリアだけではない。
お隣のクロアチアにも伝統的なイカ墨リゾット料理がある。
米は、昔ヴェネツィア人がクロアチアに持ち込んだ。
アドリア海はイカやタコが豊富だった。

またスペインのカタロニア。
Palafrugell(パラフルジェイ)という街には、伝統料理”arroz negro catalano”というのが有る。
これはイカ墨を和えた米に小エビを混ぜ、ニンニクソースをかけたもので、現在はパエリアのバリエーションとしてスペイン中で食べられている。

ということで、「イカ墨発祥のレストラン」というのもどうだか、というお話でした。
更にもう1つ
イカがシーズンでない時は、ほとんどの良心的なレストランは、イカ墨パスタを出してくれない。
当たり前だ、イカ取れてないんだから。
また、もし出てきたらそれは冷凍イカ墨だってこと。(観光客相手の店は特にストックしているらしい)
私も一番最初にイタリアを旅行した時、食事付きツアーだったのに、特注したことがある。
「本場で食べるイカ墨パスタはやっぱりおいしいねぇ」なんて、お歯黒状態で言ってたかも。
しかし、今考えるとあんなに真っ黒になるもんかな?
自分では作らない(作れない)ので分からんが。
イカ墨が練り込まれた黒いパスタも真っ黒だけど。


参考:https://www.lacucinaitaliana.it/news/in-primo-piano/pasta-nero-di-seppia/



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4 コメント

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10月も終わり (カンサン)
2019-10-30 21:30:31
fontanaさんへ、関東地方は10月、雨ばかりですね。投稿されているので、被害はなかったと思っています。
私、10月14日-22日の9日間、ロシア旅行に行っていました。ブログも書き進んでいます。あと残り2日間です。お時間がある時、ご覧ください。
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ロシアですか、いいですね! (fontana)
2019-10-31 14:28:49
カンサンさん
ご心配ありがとうございます。幸いうちの辺りは殆ど被害は有りませんでしたが、ここのところ毎年どこかで大規模の災害が起き、多くの被害者が出ていることには心が痛みます。特に7月に旅行で出かけた、南房総は残念でなりません。

ロシアに行かれていたんですね、羨ましい。
向こうは既に寒そうですね。
ツアーで、エルミタージュに6時間というのは割と長い方ですよね。それでやはり時間足りないんですね。
またバレエもご覧になったようですが、本場は日本で観るより安いので多少のことは大目にみられますが、さすがに「がっかり」というのは…残念でしたね。
教会もヨーロッパとは全然違う建築様式で、とても興味が湧きました。
私も是非行ってみたいです。
続きも楽しみにしています。
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古代ローマ (山科)
2019-11-01 04:26:55
イカ墨料理は、古代ローマの料理書として有名なアピーキウスにも記載されています。
 エンドウ豆のインド風墨煮
 PISUM INDICUM
このインドというのは、黒いという意味だけ。イカの墨でエンドウ豆を煮る料理なのは間違いないので、この料理古いですよ。
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そうなんですねぇ (fontana)
2019-11-02 13:01:46
山科様
コメントありがとうございます。
そんなに古いんですねぇ…人間の食に対する飽くなき渇望と挑戦に脱帽です。
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