イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

個展"SHINRA-BANSYOU"

2011年04月25日 00時39分41秒 | イタリア・イベント

先日のオークションで出会った作家さんの一人で現在Arezzoで個展を開催されている方がいます。

Kiyoko Hiraiさん
フランス文学を勉強した後、芸術の道へ。
修復の学校やFirenzeのアカデミアで勉強され、今に至っています。
ロシアやイタリアで賞を取っています。

作品はリトグラフ
写真をここに載せようと思ったら、圧縮したので、作品のよさが全然伝わらない。
作品と作家さんに失礼なのでやめます。
作品はこちらの29番

私もこの作品が一番好き。
この微妙な色合いとか、なぞめいた雰囲気などがすごく素敵。
もちろん彼女も特に思い入れのある作品の1つ。

個展会場にも飾られていたこの”鹿”の作品を平井さんはこんな風に語っています。
(この作品は)自分の過去の夢と関係があり、鹿が私の命を助けてくれるというストーリーでした。
日本では、奈良の春日大社の所有する鹿が、奈良旧市街を歩いていて、神様のお使いとして大切にされています。
そして、キリスト教では、鹿は、キリストの象徴だということです。
聖なる動物ということで、洋の東西で扱われている動物であり、割に無意識にテーマとして選びました。

こちらは個展会場の様子
 
 
美術史を勉強している私でも、「litografia(リトグラフ)=石刷り」ということくらいしか知らなかった。

リトグラフ
(lithograph, lithography) は版画の一種で、平版画にあたる。水と油の反発作用を利用した版種で、製作過程は大きく「描画」「製版」「刷り」の3行程にわかれる。ほかの孔版画、凹版画、凸版画などに比べると複雑で時間も多く要するが、クレヨンの独特のテクスチャや、強い線、きめ細かい線、筆の効果、インクの飛ばした効果など、描写したものをそのまま紙に刷ることができ、多色刷りも可能で、版を重ねるにつれて艶を有した独特の質感が出てくる。
19世紀頃、ヨーロッパで偶然から原理が発見され、以降ロートレックなどの画家が斬新で芸術性の高いポスターをこの方法で描いた。以前は巨大な石(石灰岩)に描いていたため石版画(石版印刷術、リトグラフィ)とも呼ばれるが、近年は扱いやすいアルミ板を使うことが多い。
(wikipediaより)

こちらは実際の作家、平井さんから伺ったお話

リトグラフが敬遠されてしまう一つの大きな理由が制作費と技材費が、他の版画より遥かに高いということです。
現在、専門技術師自体の数が激減してしまった、ということも大きな要因です。

もちろん、オフセット印刷の出回る前は、すべてのカラー印刷がヨーロッパでは、石板リトで、労力も多く伴いました。
アールヌーボーのアルフォンスミュシャの絵画やポスター、絵本のイラストからジャムのラベルまで、石板版画は、広く使われていました。 
でも、重労働なのです。
石のキメが絵の表面に出て、一見、普通のデッサンのようですが、近づいてみると微粒子の集まりのようになって、仕上がりがデリケートなものです。
でも、最近は、写真印刷や、デジカメ写真、コンピュータアートが主流になり、大量生産向きではない上、リトグラフは原板廃棄があるので、手刷りだと一枚一枚が刷りが違っていることもあり、芸術性が高く、市場でも他の版画に比べて商業価値が高いとされています。

原板廃棄、というのは、たとえば、エッチングや他の技法なら、銅板や亜鉛板を自分で保管し、200枚限定と記入しても、現実にはそのナンバーをこえて、PROVA DI ARTISTA (試し刷り)と記入すれば、300~350枚とか刷りつづけられます。
もちろん、原板がつぶれていくので、後のナンバーのものは、価値が下がります。
一方、リトグラフは、専門工房の石を使います。自分の使った石は、刷った後、他のアーティストの手にわたります。
親油性があるかどうかで、絵が形を保つので、空気中にさらしておくだけで、空気中の中の油分と石の表面が結合し、その結果、絵は消えて、真っ黒になってしまうのです。
水を補ったり、アラビアゴムでその現象を止めたり、という加減が必要になり、刷り師との共同作業が必須です。
そして、他の作家の手に渡り、完全に原板が消えてしまうので、30枚と決めて刷り、作業が一通り終われば、その後は、その原板は存在しなくなります。そのために、リトグラフは、他の版画より、原板やナンバーの信頼度が高いのです。

リトグラフには、二つの他の版画と違う特徴があります。
石板による古典的なリトグラフの最初の特徴は、原板廃棄の原則が確実に守られることです。
二つ目は、亜鉛板や銅板の版画なら、写真の転写が可能で、写実的なデッサンをしたように
見せかけることができますが、石板のリトに関しては、それが不可能なので、作る側の
デッサン力にすべてがかかってくる、ということが挙げられます。

私は彼女の作品とても素敵だと思うのですが、日本ではリトグラフはあまり人気がないとか。
「この作品のよさが分からないなんて、あんた、どうなってんの???」と言いたいところですが
これはひとえに日本人がリトグラフのことを良く知らない、目にする機会がないからではないか?
それとも日本人の目は節穴か?
だって「浮世絵」の価値が認められたのもまずヨーロッパだもんね。
つくづく日本って芸術後進国だと思います。
(大きなこと言ってごめんなさい
かなり長居をして、彼女の芸術感など色々伺い、よりいっそう作品が好きになった。

私、実は人間嫌いだと思っていた。
でも、作品って人間が作ったものだから、いいなぁと思う作品を作る人も好きでした。
彼女の手からちゃんと彼女の思いが形になっていました。
作品は彼女の人柄を表すような暖かい雰囲気で、心を和ませてくれます。
個展を訪れたセラピストの方たちがとても作品を気に入っていた、というのも分かる気がします。

こういう貴重な作品を後世に伝えるために私に出来ることは、こうして少しでも多くの人にすばらしい作品を伝えることだと、
今回のオークションで学んだんです。
近々、アート専用のページを作ります。(有言実行の為にここで宣言しておきます!って大丈夫か、おいおい?)

個展は明日(25日)の休日をのぞく29日まで
16時から19時半
via Cavour,57
Arezzo駅から歩いて7,8分

先日ここでもお話しましたが
彼女も過去に「芸術は心の栄養」という話を聞き、ずっとその思いを抱いて作品を制作してきたそうです。
モノクロの画面から、不思議な暖かさを感じられるそんな素敵な作品です。

オークションに出す版を選ぶとき、自分の収入にならないんだから、言い方は悪いけど、刷りの悪い作品を出すことも出来たのに、
「人の手に渡るのだからと一番いいものを出したんです」と笑った彼女。
誠実な人柄が作品からにじみ出ていました。
「プレゼンテーション、苦手なんですよ」と言っていましたが、
私はすっかりリトグラフの魅力に引き込まれてしまいました。
(実は私が一番欲しかった作品でした・・・あ~残念!)

こんな文章で人の心に訴えられるかどうかはわかりません。
でも、こんな時代だからこそ、「心の栄養」を少しでも多くの人に届けるお手伝いをさせていただければ幸いです。



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