皆さん、本当に怖いものが、まさか幽霊とかお化けだとか思っていませんか?
いやいや、そんなのは序の口。
もっと、怖いモノが、直ぐ周りに存在しているんです。
貴方は、まだ、その怖さに出会っていないだけなんですよ。
世の中には、もっと恐ろしい存在ってあるんです。
仮説トイレって、ご存知だろうか?
今でこそ樹脂製の軽い素材で出来ていて、鍵付きノブも装備され、最初は小奇麗なアレ。
でも、昔は鉄板で出来ていて、内部から締める鍵は、いかにも頼りない、幅30ミリ厚さ2~3ミリほどの鉄板で出来ていた。
この話は、3号がまだ30代の頃、例の家出期間中の話である。
財団の仕事期間が終わり、愛車のボーナス払いの支払いをするため職人の世界に入った。
30代で職人の世界ってのも、年下が先輩になったりするので辛いものがある。
都心の結婚式場で改装の仕事が入り、1ヶ月ほど、その結婚式場が現場だった。
裏にはタワー式の駐車場が在り、その駐車場の片隅に仮説トイレが在った。
この仮説トイレは工事用ではなく、駐車場係やお客さんが使うもので、我々も使わせてもらっていた。
お昼過ぎになって腹痛になり、その鉄板で出来た仮説トイレに入った。
トイレの外にバケツが在り、どーもトイレの掃除中らしいのだが、周りには誰も居なかった。
ただ、この時の3号は、いわゆる緊急事態である。
その緊急事態は、時間と共に逼迫している事を知らせるアラームを私のお腹に響かせ、腰が引けた姿勢の私は、
「鍵を締めれば開かないんだから、使用中だって判るでしょ」
と判断し、使用することにした。
薄暗いトイレに入り、一安心。
緊急事態は解除・・・
この時もまだシクシクするので、拭き取り作業をせずに、シクシクの元が顔を出すのを待っている時に、外からの緊急事態の恐怖の時間がやってきました。
そう・・・、掃除のオバさんが戻ってきたのです。
ガチャ(ドアノブを回す音)
「あれ、開かない・・・」
ガチャガチャ
「どうしちゃったのよ!」
ガチャガチャ
「何んでぇ?」
ガチャガチャ、ドンドン!
ノブを回しながらドアを開けようと引っ張り、仮設トイレ自体が揺れています。
仕事へ戻らなければならないというオバサンの責任感が、鉄板モノコックのドアが歪むほどの力を与えているんです。
しかも悪い事に、このトイレのドアは外側へ開くドアで、内側のドアノブは、平たくて小さな四角いもの。
つまり、内側からでは、引っ張る力に対して抑えが効かない構造なんですな。
焦るオバさんの声と揺れる昼尚暗い仮設トイレの中で、拭くのを忘れアタフタする私。
トイレの中で、
「入ってます!」
と言っているのに、大きな声で騒いでいるものだから、私の声など届く筈もないんです。
鍵として取り付けられている金属板は、オバサンの勢いの前でも、なんとか・・・・なんとか、頑張ってくれています。
その金属板に儚い望みを託し、最後のシクシクを出そうとしゃがんだ、まさにその時!
・・・・む・・・・無常にも扉が開いてしまいました。
「ごめんなさい・・・」
余りの事に振り返る力も出せず、小さな声で謝ったオバさんの声を背中に受け、後ろ手に鍵を閉め最後のシクシクを出しましたが、精神的には『灰』の状態です。
便器に繰り広げられているシクシクと、最後のシクシクを出す為にしゃがみ込みシクシクを拭く前の大事な部分を、全く知らないオバさんに後ろから見られてしまうのって、なんて表現していいのか判りません。
ドアが開いた瞬間
「終わった・・・」
って、思いましたから・・・
それでも、これで、あのトイレごとオバさんに揺さぶられる恐怖からは開放されましたけどね。
ちくしょーーーーーーーー!
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