先日、大阪国際女子マラソンで優勝し、リオデジャネイロオリンピック選考のための日本陸連が決めた派遣設定記録(2時間22分30秒)もクリア(2時間22分17秒)した福士加代子選手ですが、代表決定(内定)の発表がないためか、代表最終選考会となる名古屋ウィメンズマラソン(3月13日)に出場するプランがあるとのニュースが大阪国際女子マラソンの直後に流れました。
これにはいろいろな憶測が飛び交っていますが、マラソンの代表選考はいつまで経っても、スッキリしません。
大阪でのレース翌日のこと、福士選手が所属するワコールの永山忠幸監督は「日本陸連から確定と言ってもらえず、外れる可能性も数%残っている。無理は承知だが、福士の名前が必ず選考に残るように無茶を承知で名古屋にエントリーします」と明言し、その数日後には既ににエントリーを済ませたとも報じられています。これに対して、日本陸連は「出るなとは言えない。選考要項ではわずかに落選もありえる」と話しています。
ここで女子の選考要項(205年7月発表)をまとめてみました。
・北京世界選手権で8位以内に入った日本人最上位者を代表に内定
・女子の国内選考会は、さいたま国際(2015年11月)、大阪国際(2016年1月)、名古屋ウィメンズ(2016年3月)のそれぞれ「日本人3位以内」の競技者が選考対象
世界選手権7位になった伊藤舞選手(大塚製薬)がまず内定しました。その結果、残る国内選考レースで残りの2枠の代表選手を決めることになりました。
国内選考レースでは日本陸連設定記録(2時間22分30秒)を突破した者を優先的に1名だけ選出。その他は、各選考会での順位、記録、レース展開、タイム差、気象条件などを「総合的に判断」して、本大会で活躍が期待できる選手が選出されることになっています。
2015年11月に開催されたさいたま国際では、吉田香織選手(ランナーズパレス)が2時間28分43秒で日本人トップの2位となりました)。ただし、設定記録には遠く及ばず、また、優勝した外国人選手には約3分のタイム差つけられており、選考対象としては難しい現状だと思います。
2016年2月に行われたばかりの大阪国際では、福士選手は優勝している上に、設定記録もしっかりと上回っているため、現時点では福士選手は文句なしの状態です。
ここで話がややこしくなるのが、3月の名古屋ウィメンズです。2004年アテネオリンピック金メダルの野口みずき選手(シスメックス)、2012年ロンドンオリンピック代表の木良子選手(ダイハツ)、2014年横浜国際優勝の田中智美選手(第一生命)らの実力者が出場を予定しています。比較してはいけないのですが、大阪国際よりも“候補者”は多いと言っても良いかも知れません。ここで、設定記録を上回るタイムを出す選手が2人以上出て、さらに大阪国際の福士選手の2時間22分17秒を上回る選手が2人以上出ることになれば、福士選手は代表選考から外れてしまいます。
極めて高いハードルではありますが、あり得ないことではありませんので、ワコールは福士選手を出場させて、「日本人2位以内」に入り、自力で日本代表を勝ち取る作戦を考えたのだと思います。
過去には国内選考レースを複数走った場合、2回目以降のレースで最初のレースの設定記録を上回る場合いしか、選考対象として評価しないそうです。つまり、今回、仮に福士選手が名古屋に出て、大阪国際よりも悪いタイムだったとしても、何ら影響はないのです。ただし、代表に選出される可能性の高さと、無理を押して走って故障するなどのリスクを考えると、強行出場するかどうかは判りません。
これには、未だに明確ではない選考基準に対する問題があるからです。
過去にはバルセロナオリンピック(1992年)の「有森裕子 vs. 松野明美」を筆頭に北京世界選手権(2015年)の女子選考も不透明でした。
シドニー五輪マラソン選考でも、もめた前例があります。前年の世界選手権銀メダルで市橋有里選手が内定。ところが冬の選考大会で好成績が相次ぎ、東京国際女子マラソンで山口衛里選手が2時間22分12秒で優勝、大阪国際女子マラソンで弘山晴美選手が2時間22分56秒で2位。その後の名古屋国際女子マラソンでは高橋尚子選手が優勝。この山口選手、弘山選手、高橋選手の誰かが落選せざるを得ない状況になりました。
2015年の世界選手権の選考では、まず、名古屋ウィメンズで2時間22分48秒という好タイムで3位に入った前田彩里選手(ダイハツ)が当確になります。残り2枠は名古屋ウィメンズ4位(日本人2位/2時間24分42秒)の伊藤舞選手(大塚製薬)と、大阪国際3位(日本人トップ/2時間26分39秒)の重友梨佐選手(天満屋)が選ばれ、横浜国際で優勝(2時間26分57秒)した田中智美選手(第一生命)は落選しました。
複数のレースを選考対象とすれば、マラソンですから距離は同じではあるものの、コース状況、出場選手、気象条件などが異なり、それらのレース展開がタイムに大きく影響します。ですから、過去の代表選考では「タイム」より「勝負強さ」が評価されてきたのですが、世界選手権ではタイムが選ばれたのです。
また、この時は「勝つことよりも世界で戦う意識を見せることが大切。田中選手の優勝は評価できるが、序盤で先頭集団から遅れるなど世界と戦うには物足りない。それに比べて重友選手は、派遣設定記録(2時間22分30秒)を目指して積極的にレースしたことが評価できる」という陸連の説明でした。こういうこともあって、ワコールとしては名古屋出場ということも考えているのでしょう。
オリンピックまではまだ時間があると思いますが、少なからず連戦を戦うようなレースをしているとコンディション調整も難しくなってしまうでしょう。
海外ではマラソン選考を一発レースで決めることがあります。しかし、日本ではなかなかそうはいきません。
どうやら、日本は選手のコンディション調整よりも、マラソンのテレビ放映権の調整の方が大事なようです。