今秋のドラフト会議において、プロ野球スカウトの間で高校四天王と呼ばれた岩手・大船渡高の佐々木朗希選手(千葉ロッテマリーンズ1位指名)、神奈川・横浜高の及川雅貴選手(阪神タイガース3位指名)、石川・星稜高の奥川恭伸選手(東京ヤクルトスワローズ1位指名)、岡山・創志学園高の西純矢選手(阪神タイガース1位指名)にも匹敵する好素材ともいわれた選手がいます。
身長185cm、体重90kg。恵まれた体格で最速148km/hの直球に、多彩な変化球、制球力もあり、高校二年春ごろに頭角を現してきました。
中学時代に所属したチームではレギュラーではなく、あまり野球に興味も持てなかったため、仲間との遊びが楽しかったそうで、その影響で趣味はBMX(バイシクルモトクロス)やスケートボードでした。うわさの大器ではありましたが、進学した高校側は何部に入るのかも分からなかったそうで、野球部に入ったのも、顔見知りだった選手の存在と、「説明会に行って(野球を)やってみようかな」という軽い気持ちからだったようです。
しかし、入部後の監督からの熱心な指導もあり、調子のムラはあるものの好調時ならどんな強豪も牛耳ってきました。一方で、将来性をつぶさないよう、あまり口を出さず、「人間的にもだいぶ成長しました」と、自覚の芽生えを待てもきたそうです。
そして、今年の県大会一回戦には日米合わせて10球団のスカウトが視察に訪れるなど、ドラフト上位候補まで成長し、注目を集めていました。
ただ、ドラフト前には監督から、「あいつの面倒を見られますか?」と、訪れたスカウトに言葉を伝えたそうです。これは、本人について、「才能は申し分ない。だが、野球で生きていく決断がまだ固まっていない。心を育てないと、茨の道は乗り越えられない」ということだったようです。
結果、残念ながらドラフトでは指名漏れとなりました。監督は、支配下での指名があった場合には入団する意思を示していたそうですが、「育成からはい上がる根性はない」という理由で、育成での入団は考えていなかったといいます。また、「野球を辞めて就職します」と明かし「あっさりした子なので『もういいです』と言っていました。ちょっとすねていましたけど、大化けするかダメになるか、環境で変わる子なので、結果的に彼にとってはこれが良かったのかもしれません」と、高校に入ってから急成長した教え子を思いやっていました。
それでも、その素質と将来性に賭けるプロ関係者が独立リーグ球団に、「もったいない。そちらで育てられないか」と働きかけ、10月下旬から本人と面談を重ね、入団合意となりました。
そして、11月中旬に独立リーグ球団は入団会見を開きましたが、本人は会見場に姿を現しませんでした。これは、会見前々日の話し合いでも、本人から、「入団する」という明確な意思は示されなかったこともあります。また、本人を高く評価していた前監督が来シーズンからNPB球団のコーチに就任した影響もあるようです。
球団側は、「気持ちの迷いがあるようで、今日の時点では入団は保留となった。こちらとしては、いつ来てもいいように門戸を広げて待ちたい」と、気持ちの整理がつくまで待つ姿勢のようです。
確かにNPB球団からしてみれば、将来性を買っての動きだとは思います。だったら、どうして支配下枠で指名しなかったのかという疑問はありますが、まだ、心が育っていないという一面も考えての見送りだったとも思えます。
でも、監督が言っているように、「結果的に彼にとってはこれが良かったのかもしれません」とコメントしていることが、この結論かも知れません。
舞台の裏側には、超高校級とも評される未来ある選手を巡って、大人たちの思惑が大きく動いていると思います。ただ、その大人たちが一人の青少年の将来を左右させてしまうのは、いかがなものかと考えます。