江夏の41球

「江夏の41球」とは「スローカーブを、もう一球(著 山際淳司)」に収録されている「江夏の21球」から作った、私の造語です。
(そういえば、3年前に「江夏の21球http://blog.goo.ne.jp/full-count/e/b5f6617d093ef94ad04ce6c3aec97b25」を書いていました)

さて、昔はプロ野球のオールスターと言えば、今と違って心待ちにしていたイベントであったのですが、“人気のセ”、“実力のパ”と言われていて、今と違ってパ・リーグの試合のTV中継はほとんどありませんでした。そんなこともあって、全国中継されるオールスターの舞台でパ・リーグの選手は張り切り、真剣勝負を挑んでいたのです。

ここ数年、お祭り化となって行くとともにその興味は薄れてしまいました。ただ、今年は大谷翔平選手(北海道日本ハムファイターズ)の162km/hもあり、来年以降、また楽しみになるような試合が観られることを期待しています。

さて、1971年7月17日。プロ野球オールスターゲーム第1戦(西宮球場)。
ここで公式記録にはなりませんが、江夏豊選手(当時阪神タイガース在籍)がパ・リーグの強打者から9者連続三振を奪うという快挙を達成したのです。

この年の江夏選手は体調不良もあり、オールスター前は6勝9敗、防御率3.12という成績でした。
また、キャッチャーの田淵幸一選手(当時阪神タイガース在籍)も体調不良により、シーズン中は外野を守っていることが多かったと言う。

それでもファン投票で選んでもらって、しかも第1戦の先発。
当日は何かやってやろうという雰囲気があったと言います。当日朝のスポーツ紙には「すべて三振でアウトにする」と9者連続奪三振の達成を予告したが、「江夏は9人全部、三振にとったるワ・・・とジョークも言った」と片隅に一行記事で片付けられていたそうです。

一回裏
有藤通世(当時ロッテオリオンズ) ; 2ボール2ストライクから空振り三振
基満男(当時西鉄ライオンズ) ; 2ボール2ストライクから空振り三振
長池徳二(当時阪急ブレーブス) ; 1ボール2ストライクから空振り三振

二回裏
江藤慎一(当時ロッテオリオンズ) ; 2ボール2ストライクから空振り三振
土井正博(当時近鉄バファローズ) ; 0ボール2ストライクから空振り三振
東田正義(当時西鉄ライオンズ) ; 2ボール2ストライクから見逃し三振

三回裏
阪本敏三(当時阪急ブレーブス) ; 2ボール2ストライクから見逃し三振
岡村浩二(当時阪急ブレーブス) ; 0ボール2ストライクから空振り三振
加藤秀司(当時阪急ブレーブス) ; 1ボール2ストライクから空振り三振

この時のキャッチャーの田淵選手は「ど真ん中に構えるだけ。サインも出していない」ということでした。
江夏選手は「この中で一番用心したのは長池さん。何しろ32試合連続安打男でしたから。僕はただ1球だけフォークボールを投げました」と語っています。
また、 9人目の加藤選手を迎えた時、球場が球場全体が静まり返り、すべての人がマウンドのただ一点を見つめているような状況だったそうです。そして、1ボール1ストライクからの3球目に一塁側バックネット方向へのファウルを追うとした田淵選手に「追うなっ!」と叫んだそうです。これは三振よりも「早くこの緊迫感から逃れたい」という心境だったそうです。

対戦した土井選手は「まさに剛速球だった。スピードも一流だが、投げ方がいいから球が手元で伸びてくる」、長池選手は「あいつの球はズシリと重いんだ。鈴木啓示とか、ほかにも速い左ピッチャーはいたけど、球質が違った」と評しています。

最後、外角高めの直球で加藤選手を三振に取ると、球場全体が爆発するように大歓声が起きたそうです。

奇跡が生まれた瞬間。これが江夏の41球です。

また、この試合、セ・リーグのピッチャーはこの試合で(現時点で)オールスター史上最初で最後のノーヒットノーランを達成していたのです(渡辺秀武選手(当時読売ジャイアンツ)、高橋一三選手(当時読売ジャイアンツ)、水谷寿伸選手(当時中日ドラゴンズ)、小谷正勝選手(当時大洋ホエールズ))。

実は江夏選手は、この後の第3戦にも登板して1つ三振を取っています。

そして、前年のオールスターでも5連続奪三振を記録しているので、実はトータル1516連続奪三振を記録していたのです。