「スパイ大作戦(原題/Mission : Impossible)」は、1966年~1973年まで放送された米国のTVドラマ。米国政府が直接手を下せない極秘任務を遂行するスパイ組織・IMF(Impossible Mission Force)メンバーの活躍を描いています。原題の「Mission: Impossible」とは「実行不可能な指令」です。
日本では1967年4月からフジテレビ系列で放送され、映画「ミッション:インポッシブル」でもおなじみの、あのオープニングテーマ曲を耳にしたことのある方は多いでしょう。
さて、MLBを揺るがしているヒューストン・アストロズなどサイン盗み問題では、すでに、元監督のA.J.ヒンチさんと元GMのジェフ・ルーノーさんはMLBから1年間の職務停止を科された後に、アストロズから解任となり、球団にも罰金500万ドル(約5億5000万円)と、2020年と2021年のドラフト1巡目と2巡目の指名権剥奪が言い渡されました。
MLBはヒンチさんや当時ベンチコーチだったアレックス・コーラさん(前;ボストン・レッドソックス監督)の携帯電話を回収して徹底調査し、当時選手だったカルロス・ベルトランさん(現;ニューヨーク・メッツ監督)らや選手たちにも聞き取り調査を行った結果、次のことが明らかになりました。
1. 2017年の開幕直後にアストロズ職員が試合の中継画面を用いて「サイン解読」に着手し、ダッグアウトに伝えていた
2. コーラ・ベンチコーチがテキスト・メッセージでそのやり取りをした
3. 同コーチが後にモニターをダッグアウトのすぐ裏に設置し、件の「ゴミ箱叩き」に関係した
4. シーズンが始まって2カ月を過ぎた頃、ベルトランさんがほかの選手とコミュニケーション法について話し合った
この件で私が思い出したのが、2007年のF1での事件です。
これは2007年7月、フェラーリの元;チーフメカニックであるナイジェル・ステップニーさんがチームから技術に関する秘密情報を持ち出し、マクラーレンのマシンデザイン部門を統括していたマイク・コフランさんに提供していたことに端を発したものです。フェラーリはイタリアとイギリスに告発し、両国当局が捜査を進め、その中で家宅捜索に入ったマクラーレン関係者の自宅から、約780ページに及ぶフェラーリの機密情報が記録されたディスクが発見されたりしました。
当時のFIA世界モータースポーツ評議会では、これをスパイ行為と裁定し、マクラーレンチームに対して、1億ドル(当時で約114億円)の罰金に加え、2007年F1ワールドチャンピオンシップでのコンストラクターズポイントが剥奪されるというものでした。
既にシリーズは13戦まで終了していましたが、これまでの既得ポイントは無効とされ、今後のレースではポイント対象外とされました。マクラーレンは1998年以来のコンストラクターズタイトルを狙って、この時点でランキング首位でしたがタイトル獲得は不可能となりました。
一方で同チームドライバーであるフェルナンド・アロンソ選手とルイス・ハミルトン選手(現;メルセデス)のドライバーズポイントは有効とされ、今後もタイトル争いを続けることはできました。
これに比べると、今回のMLBの裁定はまだまだ、甘いかなという感じはします。何しろ、ワールドチャンピオンがかかった時にも行われており、MLBの歴史に大きな汚点を残した不祥事であることには間違いないからです。
私が、「あれ?」と思ったのは個人へ対する処分ではなく、球団に対する処分の方です。
ルーノーさんの1年間の職務停止処分については、過去に外国人選手との契約の際に当該選手やその代理人に不正に金銭を渡していた、ジョン・コッポレラさん(元;アトランタ・ブレーブスGM)や、アストロズのデータベースに不正に侵入し、ドラフト対象の選手のリストやトレードに関する情報を引き出し有罪判決を受けた、元;セントルイス・カージナルスの職員だったクリス・コレアさんが「永久追放」になったことに次ぐ重いものです。
ヒンチさんについても、監督への処分としては野球賭博に関連して「永久追放」になった元;シンシナティ・レッズ監督のピート・ローズさんに次ぐ重いものです。
いまさら、ロサンゼルス・ドジャースが29年ぶりに手にするはずだった2017年のワールドシリーズでの優勝を要求することはないとは思いますが、アストロズの優勝を無効にして、2017年ワールドシリーズの記録は空白にすべきものだと個人的には思います。ただ、サイン盗みに伴って、残した個人記録は・・・
さて、現在、調査が進められているボストン・レッドソックスはMLBの調査結果を待たずに疑惑の当局とも思えるコーラさんについて、監督を解任しました。契約は2021年までありましたが、当時アストロズで2017年から2018年まで当時ベンチコーチでした。
理由は「チームを効果的に導けないと判断した」としており、元監督は「チームの前進を妨げたくない」とのコメントをしており、直接的にはサイン盗みとは関係ないような話ですが、MLBはコーラさんが不正の中心にいたと結論付け、レッドソックスの調査が終了次第、処分を決めるとしていますが、厳罰は不可避とみられていました。
さらに、ニューヨーク・メッツは1月16日(日本時間1月17日)、2019年11月に就任したばかりで、一度も指揮を執っていない、カルロス・ベルトランさんの監督の解任を発表しました。MLBが発表した調査報告には、シーズン中にサイン盗みを主導したとして、選手でただ1人名前が挙がっていました。
そして、2014年から4年連続でシーズン200安打をマークするなどMLBを代表する選手の1人して知られるアストロズのホセ・アルトゥーベ選手とアレックス・ブレグマン選手に、ユニフォームの下にブザーを身に着けていたという新しいウワサが浮上しており、騒ぎは収まるどころかさらに広がっています。
さてさて、日本で放送されたスパイ大作戦はオープニングで、「実行不可能な指令を受け、頭脳と体力の限りを尽くし、これを遂行するプロフェッショナルたちの秘密機関の活躍である。」とナレーションされていました。
解任された監督らは確かにMLBというプロフェッショナルな集団に所属していましたが、「頭脳と体力の限りを尽くし、これを遂行する」のは、正義のためではなく、悪事に使われたのは残念です。