この作文は第25回全国中学生人権作文コンテスト滋賀県大会 受賞作品で奨励賞を受賞した蒲生町立朝桜中学校 3年 広瀬 真理さん(当時)の作文です。
サザンオールスターズ 「蛍」をBGMにお読みください。
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「夏と過去、甲子園と未来 」
今年も夏が来ました。夏といえば何ですかと聞かれたら、いろんな答えが返って来ることでしょう。お祭り、海、花火…答えはそれこそ数え切れないほど。その中で、私は夏といえば高校野球を思ったりするのです。
私は、いつの頃からか、必ずといっていいほど高校野球を観るようになっていました。私はスポーツマンというわけでもないし、正直プロ野球はあまり観ません。阪神が優勝すればちょっと嬉しいですが、その程度です。でも、高校野球は観るのです。夏だけでなく、春の選抜もしっかり観てます。
つまり、私は高校野球が好きなのです。汗を流し、涙を流し、全力で挑む球児たち。そんな彼らは、とても輝いて見えます。トーナメントは負ければ終わりです。勝ち残るのは一校だけ。だから、一勝一勝が全力で勝ち取った勲章なのです。でも勝者がいれば敗者もいます。負けた瞬間、泣き崩れている彼らを見ると、なんともいえない気持ちになります。しかし、負けたチームも、はじめは涙を流していますが、最後にはとても清々しい表情を浮かべています。きっと彼らに悔いはないのでしょう。ああ、この人たちは野球が大好きなんだなぁ、と思います。勝者も、敗者も、そういうのを越えて、みんな輝いています。私は、それを見るたび、高校野球っていいなあ、と思います。
彼らはこれから未来へと進みます。たいていの人は進学か、就職でしょうが、中にはプロになる人もいることでしょう。どちらにせよ、野球で鍛えられた肉体と精神は、社会に出ても役に立つでしょう。
ゆえに、甲子園を目指せなかった人たち、輝かしい未来を閉ざされた人達が数多くいることを思うと、ひどく悲しく思います。
夏の大会は、1915年から今にいたるまでずっと開催されています。しかし、その間に、5年間大会が開催されなかった時期があります。41年から、4年、第二次世界大戦です。
そのころの日本は、多くの人達が軍人とされ、戦争に連れて行かれました。戦争によってたくさんの人が戦地におもむき、たくさんの罪なき命を消し、消されたのです。
松井栄造という選手をご存じでしょうか。昔、岐阜商業高校にいたピッチャーです。岐阜商は、過去に春夏合わせて4回優勝していますが、その内3回は彼が導いたといわれています。彼の名は、全国に知れ渡り、みんな将来はきっと大物になるだろうと思っていたに違いありません。
しかし、彼は1943年5月、中国で戦死しました。
一体日本は、いや、世界は優秀な人材をどれだけ失ったというのでしょう。戦争に行った人達の中には、有名なスポーツマン、小説家、音楽家等、そんな輝かしい未来を夢見、そして実現していた人がたくさんいたのです。親がいて、兄弟がいて、友達がいて。恋人だっていたかもしれないし、もうすぐ親になる人だっていたんです。本当なら甲子園でエースで4番、みんなが応援する中で完投そしてホームラン。そんな甲子園のヒーローになっていた人もいるんです。でも、戦争はそんな夢を、幸せを、全部奪ってしまった。たくさんの人を、殺した。
人の数だけ夢がある。人の数だけ幸せがある。同じ夢、同じ幸せを持つ人はたくさんいます。でも、そして叶えることが出来るのは、その人本人だけです。自分自身の夢と幸せは他の人には叶えられないんです。だから人は、立つことが出来る。夢のため、幸せのため、前を向いて。何度つまづき、転んだって、諦めず走り続けられるのは、叶えたいから。全ての人が叶えられる訳じゃない。それはどうしようもないことです。でも、夢と幸せを追うことは、素晴らしいことです。輝いています。
では、戦争は?人の夢、幸せ、そして命。たくさんの大切なものを失ってまで得たものは、何だというのでしょう。土地ですか?資源ですか?お金ですか?戦争で負けた国の支配権ですか?そんなものより、人の命が軽いわけないじゃないですか。たとえ守るための戦争でも、私はそれは違うと思います。人の人生を奪う権利なんて、誰にも無いでしょう。
戦争はどうしようもないことではありません。無くせるはずなのです。すぎた過ちを消すことなんて誰にも出来ません。なら、せめてつくりましょう。未来を。理不尽に消されることのない夢と幸せのある未来を。罪無き人達が殺し合うなんて、悲しすぎることはもう、終わらせましょう。不可能なはずはありません。人は夢を、幸せを、追えます。なら出来るはずです。戦争を無くすことも、未来をつくることも。世界中の人と手を取り合って生きることも。
さて、来年の甲子園も暑そうです。球児達が甲子園をずっと、目指せますように。
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高校野球100年。
その歴史の中には多くの高校球児がいました。
甲子園を夢見て、叶わず、その後二度と白球を手に出来なかった方は数多くいると思います。
現役球児もOBも、野球を観ている私たちも、これが当たり前のことではないことを忘れてはいけません。
また、次の世代も安心して野球が出来る、野球が観られる世の中にしないといけません。
「僕らは『戦争に行きたくない』だけでなく『行かせたくない』。自衛官が人を殺すことも防ぎたい」
この大学院生の発言は至極まっとうなものだと私は考えます。
私は戦争を知らない世代です。
ですが、自分の命だって、自分の子どもたちの命だって、自分の家族の命だって…自分の知っている人、自分の知らない人、すべての人の命を戦争のような無駄な形で亡くしたくない。 そう思う。
そして、プロ野球、高校野球の一球で湧き上がる満員の中の歓声を、二度と打球音もない、歓声もない球場に戻してはいけないのです。