「なぜ球団を増やせば、地域創生、若い人たちの夢、地域貢献につながるのか政府として検討する」
最初にこの話が出たのが2014年5月21日に自民党・日本経済再生本部がまとめた成長戦略(アベノミクス)第2次提言案に、「プロ野球球団を新たに4球団増やし16球団にする」という案が含まれていたことでした。ここでは、既に新球団をつくる具体的な候補地として、北信越、静岡、四国、沖縄が挙げられていて、セ・パの各8球団を東と西4球団ずつ分け、MLBのように各地区の1位がプレーオフを行い、その勝者が日本シリーズで対戦するという構想までありました。
元々は、静岡県静岡市の市長が地元の子どもたちに夢を与えることを目的にプロ野球球団創設を提言し、その予算として数千万円を計上したことがきっかけになり、1球団だけではリーグ参入が難しいため、他の地域にも呼びかけ、4球団創設案が出来たところに自民党・政府が乗ったものです。
景気もなかなか回復せず、さらに消費税増税で落ち込むであろう景気の回復策として、成長戦略に地域活性化は不可欠であり、そのためにプロ野球球団がなかった地域(一部、独立リーグはありますが)に球団をつくる意図は判ります。
モデルとなったのはJリーグでもあるでしょう。1993年にJリーグは10クラブで創設し、地域密着運営でファンの支持を得て、現在J1=18、J2=22、J3=11の計51クラブとなり、36都道府県にチームがあり、47都道府県すべてにクラブが揃うのも、時間の問題です。しかも、その組織体は下部組織から地域に根付いていることや、自治体のバックアップなども得ています。
逆にプロ野球はチームが大都市圏に集中し、地域を意識した運営をしていませんでしたが、近年、福岡ソフトバンクホークスや北海道日本ハムファイターズなどパの球団が地域密着の方向性を打ち出して多くの地元ファン獲得に成功し、地域性を打ち出すようになってはいるものの、全体としてその方向性は一致していません。
自民党・政府としてはJリーグの例もあることと、東北楽天ゴールデンイーグルスのようにゼロから作り上げた成功例もあるので、実現可能だと考えているのではないかと思いますが、ファンの反応はどうなのか、名前の挙がった地域の反応は今一つどころか、実現しようという機運さえ見当たりません。また、NPBとの協議もないようですし、自民党・政府の単独案の域に留まっているだけでは、実現性は難しいでしょうね。
まずは、球団運営をどうするか。プロ野球には広島東洋カープという親会社の支援頼みではなく、市民球団として独立採算という手段もあるでしょう。新球団が出来た地域は当初は話題もあり、多くの観客をみこめるでしょうけど、市場規模が限られてしまうと、長期間に渡って観客動員が維持できるかという不安が付きまといます。実際、埼玉西武ライオンズは人口が少ない所沢市(34.3万人;2016年1月末)を本拠地としているため、入場料収入で苦戦していると言われています。しかも、球場までが遠いですし。なお、広島市は118.8万人(2016年2月10日)の人口です。
それを補うために、親会社がスポンサーとして参入すればいいでしょうけど、このご時世にプロ野球運営を望んでいる、または出来るだけの体力のある企業が日本国内にどれだけあるのでしょうか。最終手段として、外資参入解禁といった方法もあるでしょう。
しかし、プロ野球の場合には資金も必要ですが、それに先立つ選手の確保が一番の問題になると思います。単純計算で新4チーム×支配下選手70名=280名の選手は最低限必要になります。
2004年に大阪近鉄バファローズを吸収合併したオリックスブルーウェーヴ(当時)とイーグルスに旧近鉄の選手が分配されましたが、あの時とは違って新球団設立ですから、他球団から戦力外通告を受けた選手や独立リーグ、社会人などから独自に選手集めをしなければならないでしょう。仮に、既存12球団が同意して、米プロスポーツ界で見られるような、既存球団から選手を分配するエクスパンション(拡張)・ドラフトが行われたとしても、選手のレベル差は大きいものであって、イーグルスの歴史が語るように当初はなかなか勝てないでしょうし、プレーレベルは下がることでしょう。それによって、オラが町の新規ファンは増えても、現行ファンが球場から離れて行ってしまうことも考えられます。ただ、逆にプロ野球選手の全体枠が増えることで、野球人口の減少には歯止めがかかるかも知れませんが。
安倍内閣は消費税を5%から8%へと増税を断行しました。そして、ここで8%から10%にさらに増税しようとしています。アベノミクス成長戦略が軌道に乗り、景気が上向いた上で、日本国民全員がその実感と恩恵を得ているのであればまだしも、まったくそんな状態でない現段階での増税は負担感が大きく、将来への不安だけしかありません。
野球ファンとしては夢のある話ではあります。しかし、折しも、大事な来年度予算の審議をしている国会のさなか。失言、暴言、残念・・・まずやるべきは、私たちが将来への不安を持たずに、心の余裕を持つことが出来る社会を創り出すことだと思うのですが。
選挙のための保身による人気取り第一ではなく、滅私奉公こそ国会議員ではないでしょうか。