「物事の正邪、善悪、是非をはっきりさせる」
という意味で、古くから使われてきたのは
「黒白(こくびゃく)をつける」だった。
いまはどうか。
「白黒(しろくろ)をつける」の方が一般的か。
どこで、どうなったのかは浅学にして不知だが、
どうやら、どちらも正解のようである。
【なぜ下手が黒を持つようになったのか ~ 色にはイロがイロイロあってカオスの世界 の巻】
■20世紀の初め、百年前まで。
中国の碁は、下手が白を持って打っていた。
古代中国では、「白衣」は無位無官の平民服。
「白人」「白丁」は、普通の人を指した。
平凡・その他大勢・下位の者、というニュアンスの色。
黒だってエラソーなことはいえない。
「黒」の原義は、炊事や暖房にあって
「煙が窓から出て、くすぶった色」からきている。
パッとしない色だったのである。
■しかし「黒」は「玄」に通じる。
「玄」という黒色は、赤みががかった黒。
天の色、奥深い色、といつしか考えられるようになった。
「奥深く、はかり知れない状態」を「幽玄」と言う。
現在の日本棋院の最上等対局室は「幽玄の間」と命名され、
最高峰の芸を展開する場である。
「素人」「玄人」という言葉もある。
「素」は色の付いていない白い布から
「モノゴトの経験が乏しい状態」にと後退した。
「玄」は何度も染め返した黒い色という解釈から
「モノゴトの経験豊富なさま」と評価された。
素人はアマ、玄人はプロの意である。
■中国から発し、日本の江戸期に急発展した囲碁は
昭和の頃までは世界をリードする立場にあった。
下手(弱い方)が黒を持ち先番、
上手(強い方)が白を持ち後手番、
と古くから決まっていた。
世襲制名人は必ず白を持った。
日本人の好きな色が白だったことによる。
万葉集の中に使われている白は四割を占め、
御撰和歌集では半数を超えているという研究者もいる。
昭和の頃まで、白は上位の色だったのだ。
ファッションの世界で
黒の価値を劇的に浮上させたのは
ココ・シャネル(1883~1971年)だが、
世界的潮流のなかで日本も例外ではなく、
ここにきて混沌としているといえようか。
◇
■最後に、囲碁の話に戻しておきたい。
あなたは盤を前にして
黒を持ちたい?
白を持ちたい?
コミ6目半の今
わたしは白を持ちたい。
黒は焦ってしまい、どこかでしくじる。
白はゆっくり落ち着いて打てるからだ。
もしコミが7目半にでもなったら、
いったいどうなってしまうのか。