けんいちの読みもの

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【名馬物語】第5回 シーキングザパール

2020-03-18 23:30:00 | 名馬物語
先日、サウジアラビアのサンバサウジダービーCで武豊騎手が騎乗したフルフラットが勝ち、日本調教馬によるサウジアラビア初勝利となりました。
フルフラットは早くから海外遠征に目を向けていた森秀行調教師の管理馬。武豊-森コンビの海外遠征といえば、今回の主役、シーキングザパールです。


[外国産馬がゆえの「裏街道」]

父Seeking the Gold  母Page Proof(母の父Seattle Slew)
栗東・佐々木晶三厩舎→栗東・森秀行厩舎→米・アラン・E・ゴールドバーグ厩舎
牝 鹿毛

シーキングザパールは、アメリカのキーンランドで開催されたセールで購入され、日本にやって来ました。シーキングザパール=森厩舎のイメージが強いですが、実は当初、佐々木晶三厩舎の所属でした。
武豊騎手を鞍上に迎えたデビュー戦は小倉の芝1200m戦で、2着馬に1.1秒の大差をつけて圧勝。続く新潟3歳S(芝1200m)でも1番人気を集めますが、ここで後に有名となるアクシデントが発生。スタート直後に突然外側に逸走したのです。大きなロスとなりましたが、それでも後半追い上げて3着に食い込みます。

武豊騎手に逸走の真相を聞くと、「弁当買いに行きよったんです」と答えたそうですw

一躍、「おてんば娘」のイメージがついたシーキングザパールですが、続くデイリー杯3歳S(芝1400m)で圧勝。阪神3歳牝馬S(現・阪神ジュベナイルフィリーズ)でも1.5倍という圧倒的な人気に押されます。
ところがここでも人気を裏切る4着となり、「気性難」のイメージで定着していくことになりました。

当時の外国産馬はクラシック競走(皐月賞・ダービー・菊花賞・桜花賞・オークス)等への出走権が無かったため、トライアル競走ではない重賞レースは「裏街道」と呼ばれていました。
シーキングザパールはシンザン記念→フラワーC→NZT4歳Sで重賞3連勝。NHKマイルCへ駒を進めます。
今でこそお馴染みとなったNHKマイルCですが、元はダービーのトライアルレースとして行われていたG2「NHK杯」がモデルチェンジし、外国産馬も出走できる3歳限定のG1レースとして新設されたものでした。「裏街道」にもG1ができたのです。

「マル外ダービー」とも呼ばれた第2回NHKマイルCは、出走18頭中、12頭までもが外国産馬。「芦毛の怪物」と呼ばれ、有力候補と見られていたスピードワールド(大好きすぎる馬でした・・・w)が捻挫によって回避したことでシーキングザパールは圧倒的な人気となりました。
レースは中団から進めたシーキングザパールが直線抜け出し、ブレーブテンダー以下を振り切って快勝。

青嶋アナ「文句なし、名牝の道!」

牡馬混合のG1を勝ち切ったシーキングザパールは、春の牝馬クラシックをにぎわせた桜花賞馬キョウエイマーチ、オークス馬メジロドーベルとの決戦に挑むことになります。


[頂点と、適性を探す旅]

牝馬3冠の最終関門である秋華賞は、外国産馬にも出走が認められているレースでしたが、シーキングザパールに立ちふさがった壁は「距離」でした。

前哨戦のローズS(芝2000m)で桜花賞馬キョウエイマーチと初対決となり、シーキングザパールは1.4倍の一番人気に支持されますが、キョウエイマーチに逃げ切りを許しただけでなく、上り馬のメイプルシロップにも伸び負け、3着に敗れてしまいます。
さらにノド鳴りの症状が出たことで、手術に踏み切ることになり、秋華賞を断念することになってしまいます。

シーキングザパールがターフに戻ったのは翌年のシルクロードS(芝1200m)でした。短距離路線に活路を見出すことになったのです。
ここにはキョウエイマーチも出走していたほか、古馬の骨っぽいスプリンターが相手ということで、シーキングザパールは4番人気の低評価となっていました。しかし、マサラッキやシンコウフォレストら、後のG1馬を退けて快勝。見事に復活してみせました。

続く高松宮記念は一番人気に支持されますが、道悪で伸びきれず4着。続く安田記念はさらに悪い不良馬場となり、10着に大敗してしまいます。


[歴史の扉を開く]

復帰戦を絶好の形で飾ったものの、G1の舞台では馬場に泣く形で実力を発揮できず終わったシーキングザパールは、ベストの舞台を求めて海外遠征に向かいます。

ここで日本の馬による海外遠征について少し。
日本競馬は1981年に国際招待競走であるジャパンカップを創設し、世界に通用する馬作りを目指しました。ところが第1回のジャパンカップは、北米で重賞を勝っている程度の馬に1~4着を独占されるという衝撃的な結果。第2回も同様に外国馬に上位を独占され、日本馬による勝利は第4回のカツラギエースまで待たなければなりませんでした。
第5回のジャパンカップを勝った三冠馬・シンボリルドルフはアメリカに遠征を行いましたが、7頭立ての6着と完敗。「皇帝」と呼ばれたルドルフがこのような結果となってしまうと、当然ながらその後海外遠征にチャレンジする馬などなかなか現れませんでした。
その機運を高めたのは、他ならぬ森調教師でした。1995年の香港国際競走をフジヤマケンザンで勝利し、実に36年ぶりの海外重賞制覇、日本人スタッフによる勝利という点では史上初の快挙と言えました。

当時の日本馬の海外遠征とは、そんな状況だったのです。
そんな中で、森調教師はシーキングザパールの海外遠征を計画します。また、同じく国際派であった藤沢和雄調教師も、当時10戦9勝と無敵を誇ったタイキシャトルでの遠征を発表していました。

シーキングザパールの遠征するレースとして白羽の矢が立ったのはフランスのG1モーリス・ド・ギース(ゲスト)賞(芝直線1300m)でした。翌週のジャック・ル・マロワ賞(芝1600m)も候補にあったようですが、安田記念で完敗したタイキシャトルが出走を決めていたため、前者が選ばれました。

かくして、日本競馬の歴史に大きな1ページが刻まれます。
シーキングザパールは先手を取ると、豊富なスピードを活かして逃げ切り。国内でのレースとは違ったスタイルでの競馬でしたが、フランスでの騎乗経験の豊富な武豊騎手の好判断も光りました。

(ジェニアルで制したメシドール賞も日本でのレースとはうって変わって先行策でした。さすが天才!)

日本調教馬による海外G1制覇達成という快挙の翌週、日本で無敵を誇るタイキシャトルでジャック・ル・マロワ賞に挑む岡部幸雄騎手は、とてつもないプレッシャーだったのではないでしょうか。レース前に岡部騎手は武豊騎手の元を訪れ、質問をしたそうです。
20歳も年下の武豊騎手に教えを請い、そしてタイキシャトルでジャック・ル・マロワ賞制覇を成し遂げた岡部さん、かっこよすぎです。

その後、シーキングザパールはフランスのムーラン・ド・ロンシャン賞(芝1600m)、アメリカのサンタモニカハンデ(ダート1400m)等にも遠征。勝利を挙げることはできませんでしたが、国内ではスプリンターズS、高松宮記念で2着、安田記念で3着など、一線級で活躍しました。

タイキシャトルのラストランとなったレース、一転して後方一気を選択した武豊騎手の神騎乗炸裂、と思いきや、タイキシャトルは交わしたものの前にもう一頭いた、という結末に。


シーキングザパールはその後アメリカにトレードされ、2戦しましたが勝利を挙げることができず、引退となりました。

2020年現在でも海外、地方問わずその馬に合ったレースを選び、積極的に挑戦を続ける森調教師。
シーキングザパールの快挙は日本競馬を大きく動かした、といえると思います。


●結果追記●日曜重賞予想

2020-03-15 11:00:00 | 競馬予想
金鯱賞
◎サートゥルナーリア(1着)
◯ギベオン(4着)
▲ロードマイウェイ(10着)
△ラストドラフト(5着)
×ブレスジャーニー(9着)
×ニシノデイジー(6着)

G1路線の王道メンバーが出てくるステップレースは、格がモノを言うことが多いので、つまらん予想ですw
サートゥルナーリアはどうも手前の替え方がスムーズでなかったりするらしく、うまく走れないことも多いようなのですが、それが改善されれば歴史的名馬になってもおかしくないぐらい強いと思っています。密かにヒモ荒れに期待。


フィリーズレビュー 的中!
◎エーポス(1着)
◯マテンロウディーバ(10着)
▲ヤマカツマーメイド(2着)
△アヌラーダプラ(9着)
×クーファイザナミ(14着)
×ソーユーフォリア(15着)

逆にこちらは一発狙いたくなるメンバー構成。高配当が生まれやすいレースは、レースレベルが高くないケースが多いと考えていますが、フィリーズレビューは先週のチューリップ賞よりも落ちると見ています。
桜花賞を見据えて、というよりここ目イチの馬が多そうです。
混戦のレースで重視したいのは、騎手の腕です。◎は岩田康のエーポス。父ジャスタウェイはハーツクライ系ですが、昨年勝ち馬ノーワンがハーツクライ産駒。ジャスタウェイ産駒は小回り実績のある馬が多く、阪神内回りに変わるのはプラスかなと。



おまけ
阪神12Rはピアシックが出走。いつも人気になる馬ですが、極端な戦法の馬なので常に差し損ねの不安がある馬。
ピアシック以外の馬連BOXでお楽しみ&怖かったらピアシック軸の3連複、という買い方をよくやります。
ピアシックが3着ならめちゃくちゃ気持ちいいのですがw

(ピアシックは5着でした!しかしけんいちは1着ヘリオス買って無くてハズレorz)


以上となります!
皆さまグッドラックです!

●結果追記●土曜重賞予想

2020-03-14 14:30:00 | 競馬予想
中山牝馬S
◎メイショウグロッケ(14着)
◯ウラヌスチャーム(8着)
▲ゴージャスランチ(13着)
△デンコウアンジュ(4着)
×フェアリーポルカ(1着)

重の中山牝馬Sなんて、デンコウアンジュが1番人気かなと思ったらそうでもないですね。◎メイショウグロッケはデンコウアンジュや昨年の勝ち馬フロンテアクイーンと同じメイショウサムソン産駒。枠もいいところではないでしょうか。
◯ウラヌスチャームは実力は一番だと思っています。鞍上も超魅力。上がりがかかってポテンシャル勝負のいい馬ですが、馬場が悪くなって差しが利かなくなるとマイナスかもしれません。
コントラチェックが勝たない予想なので、差し決着になってもらいたいのですが。


ファルコンS
◎ゼンノジャスタ(8着)
◯ラウダシオン(2着)
▲アブソルティスモ(11着)
△トリプルエース(4着)

力はラウダシオンですが、前走は展開を読み切ったレースで、同じようにはいかないのでは、ということで◯。逆にゼンノジャスタは前残りで脚を出しきれなかった、ということで◎です。


日曜の重賞については明日のレースまでに更新予定です。


それでは皆さま、グッドラック!




棋士レヴュー①

2020-03-12 17:00:00 | 将棋
けんいちの独断と偏見に基づいた棋士のレヴューをしたいと思います。
抜けがないように、順位戦(第78期)の上位棋士から順に見ていこうと思います。



豊島将之(竜王・名人)
 愛称・「とよぴー」「きゅん」など。早くから若手の有望株と見られ、若くしてタイトル戦にも度々登場。なかなか奪取まで至らなかったが、近年立て続けにタイトルを獲得し、現在は棋界の最高峰である竜王・名人の二冠を保持。電王戦の勝利の後、コンピュータから学んで一気に頂点まで登り詰める。「豊島?強いよね」の人。それがきっかけで序盤・中盤・終盤隙が無い、と評される。

渡辺明三冠(棋王・王将・棋聖)
 愛称・「なべ」など。史上4人目の中学生棋士。竜王戦9連覇をはじめタイトル通算23期を誇る、「羽生世代」の次の世代の第一人者。歯に衣着せぬ物言いで、解説も明解。米長さんに「魔太郎」と呼ばれる。圧倒的強さゆえ「魔王」と呼ばれる要因となった可能性も?競馬好き。

広瀬章人八段
 タイトル通算2期。かつては「振り穴王子」と呼ばれた振り飛車党だったが、近年では居飛車にモデルチェンジし、タイトル戦の常連に。抜群の終盤力に定評がある。「羽生に魂を抜かれた人」とか言われても、常に穏やかでいい人。

佐藤康光九段
 タイトル13期。A級在籍23期。日本将棋連盟の会長。愛称・「モテ光」など(先崎九段がつけたらしいw)。誰にも真似できない、と思われるような独特の序盤戦から、「剛腕」と称される中終盤の指し回しが特徴。会長の激務をこなしながらバリバリのA級棋士として活躍する姿はカッコいい。チャリティーイベントで会長に出してもらった座布団に座れたのは誇りですw

佐藤天彦九段
 愛称・「貴族」。後手横歩取りを原動力に名人3期を獲得。中終盤の粘り強い受けで相手に決定打を与えない。常にオシャレでスーツや和服スタイルにも細かいポイントがある。リップクリームを塗ってから投了する、という新手は将棋ファンを唸らせた。わたくしは感想戦や解説のはっきりとした語り口が好きです。音楽も貴族らしくクラシックが好き。

羽生善治九段
 「将棋=羽生さん」。愛称はこれといったものが無いが、愛着を込めて「ブーハー」「うさぎおじさん」など。あまりの強さから「将棋星人」「鬼畜メガネ」などと呼ばれることも。加藤一二三大先生が考えたニックネームは、「よっちゃん」w
 タイトル通算99期、NHK杯優勝11回、七冠独占、永世七冠などの記録はどれもこれも前人未到。基本的に居飛車党だが振り飛車も華麗に指しこなすオールラウンドプレーヤー。相手の得意戦法に飛び込んで、結果勝つ。「羽生にらみ」「羽生マジック」など伝説多数。終盤、勝ちを読み切って正気に返ると指し手が震える。震え具合によって「ハブニチュード」の数値が変動。

糸谷哲郎八段
 愛称・「ダニー」。早見え早指し。ノータイムでバンバン指すが、26歳で竜王を獲得してトップ棋士の仲間入り。得意戦法は角換わりで、中終盤の乱戦に強く、逆転術にも足ける。普及に熱心で、様々なイベントに出演。スイーツ好きで、タイトル戦等で出されるおやつの時間帯で大活躍。大阪大学・大学院を修了。「詰将棋カラオケ」のダニーは凶悪wwwしかしあれは棋士の天才ぶりが分かる。

三浦弘行九段
 愛称・「みうみう」。孤高の研究家。羽生七冠の牙城を崩し、棋聖を獲得した。タイトル獲得こそ1期のみだが、A級在位18期を誇る。ソフト使用による不正を疑われたが、潔白が証明された。騒動で研究に割く時間が削られたこともあり復帰後は勝率が落ちたが、見事に復活し、各棋戦で活躍。

稲葉陽八段
 豊島、糸谷らとともに関西所属の若手棋士として大活躍。A級入りから名人挑戦までたどり着いたが、佐藤天彦に敗退し、初のタイトル獲得はならなかった。NHK杯で、粘る藤井聡太を完封した将棋がかっこよかった。動画のコメントでは将棋民に「やっぱりイナバ」とよく書かれているw

木村一基王位
 愛称・「(将棋の強い)おじさん」「千駄ヶ谷の受け師」。昨年念願の初タイトルを獲得。46歳での初タイトルは最年長記録。受けの棋風で座右の銘は「百折不撓」。7度目のタイトル戦登場、最年長での初獲得はまさに百折不撓。解説は丁寧、ジョーク、毒舌のオールラウンダー。チャリティーイベントでもらった揮毫は宝物です!

久保利明九段
 「捌きのアーティスト」の異名を持つ。生粋の振り飛車党として堂々たるタイトル通算7期、A級在籍13期。鮮やかな捌きだけではなく、「もう一つの顔」として終盤の粘りにも定評があり、数々の逆転勝ちを収めた。叡王戦ではまさかの対局時間を勘違いして不戦敗。後日行われた豊島七段(当時)とのエキシビションマッチでは見事勝利。左利き。



以上となります!
棋士の皆さんは知的でありながら親しみを持てる方が多く、興味を持ってもらえたら、と思います。
(木村王位と久保九段は今期の結果残念ながら降級。かわって菅井竜也八段、斎藤慎太郎八段が昇級を決めています。)



【名馬物語】第4回 アグネスタキオン

2020-03-10 12:00:00 | 名馬物語
弥生賞ディープインパクト記念では、武豊騎手騎乗のサトノフラッグが圧勝しました。昨年も道悪でしたが、今年も「重」のコンディション。
道悪の弥生賞というと思い出すのが「幻の三冠馬」と言われた、アグネスタキオンです。


[新馬戦 偉大な兄]

父サンデーサイレンス 母アグネスフローラ(母の父ロイヤルスキー)
栗東・長浜博之厩舎 牡 栗毛

アグネスタキオンは2000年12月のデビュー前から注目を集める立場の馬でした。というのも、全兄がその年のダービー馬・アグネスフライト。武豊騎手の兄弟子としても知られる名手・河内洋騎手(現調教師)に初のダービー制覇をもたらしたバリバリのG1ホースでした。
しかし、アグネスタキオンは新馬戦で3番人気という評価に甘んじます。
1番人気はダービー馬・フサイチコンコルドを兄に持つ、ボーンキング。2番人気は名牝・ロジータの仔、リブロードキャストでした。その他にも良血馬・高額馬が集結した、今でいう「伝説の新馬戦」と言って差し支えないメンバーが揃っていました。

兄フライトは2月という遅いデビューから、5月の京都新聞杯を制してダービーの頂点まで駆け上がった馬で、タキオンもデビュー前の調教のペースはそれほど上がらず、「先々は走ってくるだろうが、現時点では兄ほどでは・・・」という雰囲気もあったように思います。

ところがアグネスタキオンはこの新馬戦で2着に0.6の差をつけ圧勝します。超スローペースのものではありましたが、上り3Fは33秒台と、兄を始めとしたサンデーサイレンス産駒らしい切れ味で他馬を圧倒しました。


[わずか2戦目にして「伝説」の誕生を予感させた]

新馬戦での勝ち方から、一気に注目の存在となったアグネスタキオンは、数々の名馬が走った出世レースとして名高いラジオたんぱ杯3歳Sに向かいました。

ここで1番人気となったのは、新馬、エリカ賞と2000mを2戦連続レコード勝ちしてきたクロフネです。外国産馬であったクロフネは、翌年の日本ダービーが初めて外国産馬に開放されることに合わせ、「開放初年のダービーを勝ってほしい」という願いで名付けられた馬でした。
アグネスタキオンが2番人気で、既に重賞を勝っていたジャングルポケットが3番人気となりました。


↑4コーナーで抜け出そうとするクロフネを、軽く仕掛けただけであっという間に突き放す瞬発力に注目です。

アグネスタキオンは1戦1勝の身であり、スローの経験しかないことが不安視されましたが、このメンバーを相手に圧勝。クロフネがエリカ賞で記録したレコードを0.4更新するおまけまで付けました。

「これはとんでもない大物が現れた」

このレースを見ていた多くの競馬ファンはそう思ったことでしょう。


[敵は身内にあり?]

クロフネ、ジャングルポケットという二頭の有力候補を子ども扱いしたアグネスタキオンのレースぶりを見て、「三冠」という言葉がささやかれるようになりました。
1994年にナリタブライアンが達成して以来、出現していなかった三冠馬の誕生を予感するファンは少なからずいました。

春を迎え、アグネスタキオンはクラシックへのステップとして弥生賞に向かいますが、回避馬が続出してわずか8頭でのレースとなりました。不良馬場だけが唯一の不安要素と考えられましたが、問題にせず圧勝。新馬戦で下した相手ではありましたが、京成杯で重賞制覇していたボーンキングに5馬身差をつけました。

そこに、新馬から4戦4勝できさらぎ賞、スプリングSを連勝し、クラシック戦線に名乗りを上げた馬がいました。

アグネスゴールドです。タキオンと同馬主、同厩舎、同騎手で、サンデーサイレンス産駒というところまで同じでした。タキオンのライバルが「身内」から現れたのです。

アグネスゴールドもレースセンスのある強い馬でしたが、実際のところはタキオンほどのインパクトは無かったように思います。「河内はタキオンを選ぶだろうな」と思っていましたが、残念ながらアグネスゴールドはスプリングSの後に骨折が判明し、直接対決は実現しませんでした。


[幻の三冠馬]

アグネスタキオンは盤石の競馬で皐月賞も圧勝。「まず一冠!」という実況はもちろん、兄アグネスフライトとのダービー兄弟制覇、さらには「三冠馬」の誕生への期待がこもったものだったはずです。
ところがダービーまで1ヶ月を切った頃、衝撃のニュースが舞い込みます。

アグネスタキオン、屈腱炎。

ダービー制覇、三冠馬誕生の夢は消滅することになります。
結局アグネスタキオンは放牧に出され、そのまま引退、種牡馬入りすることが決まりました。

ラジオたんぱ杯でアグネスタキオンに敗れたクロフネはNHKマイルCを勝ち、秋にはダートで史上最強クラスのパフォーマンスを見せました。
皐月賞で3着だったジャングルポケットが日本ダービーを勝ち、秋にはジャパンCを制覇。
皐月賞2着のダンツフレームがダービー2着となり、後に宝塚記念でG1制覇。
弥生賞で4着だったマンハッタンカフェも菊花賞などG1を3勝。

彼らの活躍により、アグネスタキオンの評価はさらに高まっていきます。

「タキオン」とは、光速を超える速さの仮想粒子。
まさに光のような速さの競走馬人生を歩んだアグネスタキオンは、「幻の三冠馬」と呼ばれました。