久しぶりに、早朝の街を、我が愛車「ダイアナ号」で疾走した。
「ダイアナ号」…。
名前だけは大層だが、ただの原付きバイクだ。
その昔「乗っていた」、メルセデスのSクラスのころからの「名代」、とでもいえばいいのか。
当時のオレの稼業からいえば「襲名」と言った方が通るが…。
「乗っていた」というのは、文字通り後部座席に乗っていただけで、運転手がおり、車の名義も、表向きの稼業のものだった。
そのオレが、今は「Yamaha bj」に乗っている。
しかも中古で…。
せめてもの格好つけで、ナビやドライブレコーダー、おまけにETCまで搭載し、あまり詳しく記述するとマネする奴がいるので書かないが、とにかく、ちょっとアクセルを捻っただけで時速60kmなど軽く出る。
プラモデルみたいなボディーが吹っ飛びそうになるが…。
全て、元暴走族の当時の舎弟だった奴にやってもらったチューンナップだったのだが…。
早朝、襲撃を受けた。
雨が降っており視界が悪い状態で運転していたオレも悪いのだが…。
交差点に差し掛かり、信号が赤になりそうだったので、当然停車した。
そのためにブレーキを掛けると同時に、横から「何か」が飛び出してきた。
その大きさとフォルムから、当初子供かと思った。
ちょっとした衝撃もあった。
「轢いた」と思うと同時に、一瞬、その昔のノリのまま死体処理しようかと、正直思った。
だが、ソレはマズイ。
今や、一応は堅気だ。
それにしても、早朝5時半の雨中に出歩いているって、どういう子供だ？
そう思いながらも、すぐにバイクを降りた。
原付きだが、跨ったままでは前タイヤの元まで確認できない。
だが、誰もいなかった。
一瞬、いつもの霊現象かと思った。
霊は、よく見る。
いいかげん、目の前の奴が生きている奴か死んでいる奴かわからんくらい、よく見る。
とにかく、超田舎道で確かに細道だが、いくら子供とはいえ、原付きにどつかれたくらいで、道幅を超えるほど吹っ飛ぶことは、ない。
そう思い視界を巡らせているうちに、左側が山であることに気付いた。
下側が削られるような形になっており、そこに「何か」がいた。
「サル」だった。
諸事情からほとんど歯のないオレより立派な歯をむきだして、威嚇している。
オレがギリギリ撥ねなかったのは、どうやらコイツのようだ。
ほとんど「猿の惑星」だ。
そいつがキーキー声をあげ、すぐに山の上からサルの軍団が襲って来た。
自慢じゃないがケンカには多少自信がある。
だが、さすがに、あんなモンに集団で来られたら、飛び道具があったところで絶対に負ける自信はある。
とんでもないくらい、強い。
地べたに伏せ丸まり攻撃を回避していたところ、滅多に車の通りがないその通りに「滅多」が起こり、クラクションでエテ公を蹴散らし、助けてくれた。
そのまま病院まで運んでくれた車中、「サルに襲われたニンゲン見たの初めて」と来た。
オレも、「初めて襲われた」と返した。
「野犬病」等々の検査の結果、とりあえずなにごともなかった。
とりあえず、無事帰宅した。