フリーアナウンサーの闇 :テレビには決して映らない裏事情。私が局アナを辞めた本当の理由女子アナ。
この響きに、人は夢と憧れを抱く。
美人で知的な高嶺の花というイメージが強く、女性はテレビに映る華やかな仕事に憧れ、そして男性はその一歩奥ゆかしい女性像に憧れる。
近年では所謂フリーと言われる、局に属さずに活動するフリーアナウンサーが増加している。そんなフリーアナウンサーを、この連載では紹介してきた。
これまでに親友にレギュラー番組を奪われた地方局出身の理香、女子大生という冠が外れると共に仕事を失ったお天気お姉さんの美奈、以前降板させられたワガママ局アナへの復讐に燃える智子、アナウンサー試験でコネ組に負けた梨花、自作自演のスキャンダルが命取りとなった由美など、いずれも華やかとは言えない現実を垣間見てきた。
最終回の今週は?
<今週のフリーアナウンサー>
名前:桃子
年齢:29歳
前のステータス:キー局のアナウンサー
出身大学:成蹊大学
年収:約1,000万円
趣味:人気アナウンサーランキングのチェック
人気絶頂で退社したアナウンサーの独白
桃子は新卒でキー局に入り、その美貌から入社直後に瞬く間に人気者になった。人気アナウンサーランキングでも(1位ではないものの)、常にランキングの上位に入っていた。
しかし、28歳の時に突然の退社。
多くのレギュラー番組を抱え、人気絶頂時の退社に当時世間は驚いた。結婚か、妊娠かと騒がれたが、真相は分からないまま今に至る。
桃子は自分が勤めていたテレビ局が大好きだった。ギャラの問題ではない。感謝の気持ちもあるし、続けようと思えば続けられた。
—桃子が局アナを辞めた理由—
それは、局内に蔓延する陰湿な嫌がらせに耐えきれなくなったからだった。局アナだった6年間、まるで昼ドラのようなドロドロとした毎日だった...
狭いアナウンス室、そこに蔓延る陰湿な嫌がらせ
アナウンス室は狭い。テレビに出ているので華やかだと思われがちだが、実際はただの会社員である。20年前に大人気だったが、今ではテレビで全く見ないような裏方作業に回っているお局様もいる。
また、アナウンス室内には派閥がある。どの派閥に入るかで、局内での仕事のし易さが大幅に変わってくる。
入社前から、桃子には注目が集まっていた。週刊誌の「今年の注目新人アナウンサー」特集でも桃子は常にトップに君臨していた。桃子と同じ年に、他にも2人ほど同じ局に女性アナウンサーとして採用されたが、報道担当の控え目な雰囲気だったため、入社当時は全く目立っていなかった。
そんな入社前からチヤホヤされている桃子を、先輩達は勿論良い目では見ていない。 他の地味な二人は最大派閥に入ったが、その派閥のトップから桃子は嫌われていたため、その派閥には入れなかった。
アイドルアナウンサーとして、大人気の桃子。
それを良くは思わない、お局様を始めとする先輩たち。
新人研修では一人だけ居残りをさせられ、どんなに完璧に読んでもいつまでもOKが出ない。皆の前で罵倒され、物を投げつけられる。出社時に挨拶をしても、誰も返してくれない。元々明るい性格の桃子だったが、毎日裏で泣く日々が続いた。
先輩と色が被ってるから、その洋服はお捨てになって
その最大派閥の中に“元・アイドルアナウンサー”として人気を博したサキがいた。サキは桃子が入社する前までは、局内で一番人気のアナウンサーとして持て囃されていた。「朝の帯番組とゴールデンタイムのバラエティーは、サキ担当」そんな暗黙のルールが社内にはあった。
しかし、桃子の入社によって事態は急変。当時22歳だった桃子と、29歳になったサキ。世代交代は必至だった。
しかしサキはどうしてもその事態を受け入れられず、桃子が憎くて仕方なかった。日に日に、桃子に奪われていく華やかな仕事。朝番組のMCの座だけはプロデューサーに女の武器を売ることで死守していたが、それ以外でサキに回ってくるのは、5分間ニュースやナレーションの仕事が多くなった。
サキからすると、とにかく目障りな桃子。
桃子が局アナでなかったら、智子のようにとっくの前に潰していた。
挨拶無視などは当たり前。プロデューサーとのお食事会はわざと桃子だけ、別の店を指定して赤っ恥をかかせる。SNSでは“うっかり者の桃子ちゃん❤”と題して、桃子のイメージダウンに繋がるような写真を掲載。サキの桃子に対する嫌がらせは止まらなかった。
そんなある日、桃子が番組に出た際に水色のシャツを着ていた。皮肉にも、サキもその日は水色のシャツを着ていた。
若さと可愛さで、桃子の方が水色のシャツが似合っていたことは誰が見ても一目瞭然だった。
そのことに立腹したサキは桃子を呼び出し、その場でシャツを没収。二度と水色のシャツを着ないように“ご指導”した。
カメラの前ではいつも笑顔で頑張ります
そんな陰湿な嫌がらせを受けながらも、桃子はカメラの前では明るく振る舞った。「見ている人に夢を見せるのが、アナウンサーの仕事。」そう信じていたので、桃子は耐え続けた。
月日が経ち、また新人アナウンサーが入り、サキのターゲットは他に移った。気がつけば桃子自身も中堅になっており、陰湿な嫌がらせはさすがになくなると思っていた。
しかし、相変わらずお局の嫌味と小言は止まらない。地味で目立たなかった同期二人は、上から気に入られたことによって担当番組が増え、露出が増えた。
あまりにも狭くて窮屈なアナウンス室に限界を感じ、桃子は退社を決意した。
アナウンス室の次に待っていた予想外のトラップ
桃子は晴れてフリーになり、大手アナウンサー事務所に所属。これであの陰湿な嫌がらせから永遠にオサラバできると信じていた。
しかし、そこには思わぬ落とし穴があった。
アナウンサー事務所内でのマウンティング、先にその事務所に入っている人には絶対服従という無言のルール。接待に付き合わなければ仕事は貰えず、プロデューサー、制作会社、事務所の上の人にも媚びを売らなければいけない世界。
何よりも、局アナからフリーアナウンサーになった瞬間から全てが自己責任となる。嫌がらせを受けて陰で泣いていても誰も同情はしてくれない。仕事がないと泣きついた所で誰も守ってくれない。
フリーアナウンサーになり、ようやく自由に楽しく仕事ができると信じていたが、現実は桃子の理想像とは大きく違っていた。
桃子がフリーになって早一年。
現在桃子は、局アナ時代よりも、更に厳しい芸能界の洗礼を受けている。