北ミサイル グアム米軍基地は「即応状態」 北が恐れたのは爆撃機だけではなかった…
グアム北西部で、「軍用犬チームの警戒地域」との警告が表示された米軍の看板。近くにTHAADが設置された軍用地があるとみられる=8月20日(塩原永久撮影)
西太平洋の米領の島、グアムは、米軍のアジア戦略の基軸といわれる。島内の空軍基地から2時間ほどで朝鮮半島に爆撃機を飛ばせる地理的要衝にあるためだ。今月初旬に公表された弾道ミサイル発射計画をはじめ、北朝鮮が目の敵にする「米国の抑止力」の最前線を訪れた。(グアム 塩原永久、写真)
■「緊迫感」ない基地
翌日に米韓軍の合同演習を控え、北の挑発の懸念もあった20日。緊迫した空気が流れているだろうと想像したアンダーセン空軍基地には、拍子抜けするほどの「日常」が広がっていた。
午前10時をまわると、多数の自家用車が吸い込まれていく。基地内の店に買い物にきた軍人の家族だ。
「北朝鮮?心配ないわ。安く購入できる基地の中の雑貨店に行くの」と隣町からきたダーリン・イシプさん(36)は上機嫌だ。
一方で米軍は、基地内の別の「日常」も米テレビに撮影させていた。発射計画から数日後に放映された番組は、北の脅威となるB1爆撃機をこれ見よがしに紹介。「大統領が求める行動をいつでも実行できる」との幹部の声も伝えた。
「365日、いつでも戦い始められる」-。そんな張り詰めた即応状態こそが基地の「日常」なのだというメッセージだった。
■防空の砦と世界最大の弾薬庫
グアム島の面積は約541平方キロメートルと淡路島よりわずかに小さい。島に空軍基地のほか、原子力潜水艦が寄港する海軍基地もある。
北朝鮮がグアムへの攻撃に言及した2013年、米軍は島を守る高高度防衛ミサイル「THAAD」を配備した。設置場所はアンダーセン基地の北西に広がる軍用地とみられる。延々と続くフェンスのあちこちで「軍用犬チームの巡回地域」との警告が目に付く。
グアムが持つもう一つの顔が、弾薬の保管拠点としての機能だ。世界最大で、弾薬の総額は約13億ドル(約1400億円)に達するとされる。詳細な場所は公開されていないが、地元の人に案内されて遠方から眺めた場所には、空爆を避けるため半地下となった保管庫の入り口が並んでいた。
拓殖大海外事情研究所の佐藤丙午副所長は、「グアムは米太平洋戦略の中心的存在だ」として、米軍が中国などアジア広域ににらみを効かせる要衝だと指摘する。朝鮮半島などで軍事紛争が発生した場合、弾薬の供給拠点となる。
空爆を恐れる北朝鮮指導層にとって、脅威である地下貫通爆弾「バンカーバスター」もグアムの第36軍需支援隊が扱っており、北がグアムを敵視するもう一つの理由だともいわれる。
■地元に支えられる米軍
米海兵隊の駐留拠点となる島だという点で、グアムは沖縄と比較される場合がある。だがアンダーセン基地の地元、ジーゴ地区のマタンナニ区長は「私たちは米軍を支持している。島を守ってくれる軍隊だからだ」と話す。
グアム先住民族のチャモロ人を先祖に持つ人々の間では、土地を奪った米国に対する複雑な思いがある。重要な軍事基地として土地を提供しても、大統領選にすら投票できない米準州の扱いのままだ。
チャモロ系の子孫であるマタンナニ氏は、それでも「北朝鮮のような国に島が奪われるより、米軍といる方がよほどハッピーだ」と話す。